2008年08月20日

8/13 横手市 焼きそばのふじわら日記

角館をやや慌ただしく出たのは、「帰りの昼は横手で焼きそばにしよう」という狙いがあったためだった。
相方の同僚(ご当地出身)にお薦めのお店を聞いたところ「間違いないのは"ふじわら"ですね〜」とのアドバイスがあったので、定休日らしいんだけどどうだろ?と横手駅前のマックスバリュを目印にして目指す。
時間はちょうど12時くらいでいいタイミング。店はすぐに見つかり、営業していたのだけど、すでに13人くらいの待ちが出ている。

店の前にすぐ停められるような駐車場はないようなので、駅前の有料駐車場へ。
多少並んでいても焼きそば屋さんだから回転は速いだろう。
そう思った時期が俺にもありました。

ところがこれがなかなか流れない。
中をチラ見するとどうやら4卓程度で、収容人数も多くないのだけども、それにしたってずいぶんかかるな〜…と思いながら待つ。待つ。待つこと40分くらい。よう〜〜〜やく店内に入ることができた。入って椅子を数えてみると15人くらいがキャパだと分かる。

メニューは焼きそば類のみで超シンプル。
肉入り・肉玉子入りのそれぞれ並・中・大盛りとなっている。
パッと注文してささっと食べて出よう(まだまだ私たちの後ろにも待ち客はいるし)と即注文しようと思ったら、前の客の食器を下げにきた店主のおじさん曰く
「こっちから注文取るまで、注文しないでね〜〜〜」

へ????
これまで色々な店に入ったけど、食い物屋で「注文すんな」と言われたのは生まれて初めてだ。
最初は唐突すぎて意味が把握できなかったが、どうやら
「俺様がいいと言うまで注文したって受け付けないからね」
という意味だと悟る。
はぁ???????????

まあ多少まとめて焼く上でのタイミングもあるだろうし…と思っていたのだが、後から2組くらい客が来ても、洗いもの等をしているおじさんとおばさんは一向に客の方に動こうとはしない。
そうこうしているうちに20分くらいが経過。
殺伐というか、ただひたすらに
「信じられない…」
という空気が流れるがやはり店主は動かない。

よーーーーーーーーーやく山が動く。
恐ろしいことに、私たちより5分くらい早く入ったソロのお客さんもこのターンをひたすら待たされていた。彼にしてみれば30分近い。これなんの苦行???
よく分かった。これじゃ客がいくらささっと食べるように努力したって回転が良くなるはずがない。

取りまとめた注文を何度も何度も自分に言い聞かせるように復唱するおじさん。メモをとればいいかと思うよ…
その後焼き始めてからは意外に早かった。

yokote.jpg

というわけで、ことのほか有難い横手焼きそばの尊いお姿でございます。(これは肉玉入り中盛り)

横手焼きそばの特徴は

・目玉焼きがトッピング
・麺は一般的な蒸し麺ではなくてゆで麺で、食感がソフト
・肉は豚バラやコマ肉ではなくてひき肉
・紅ショウガではなく福神漬けが乗る


という点にある。

この店の焼きそばはややあっさり目の味付けで、卓上の青のりとソース(ウスタータイプ)を好みでかけて味を完成させて食べる感じ。
一般的な焼きそばは適度に水分を飛ばす仕上がりだが、水分を多めに含んでおり独特の食感がある。中華麺ではあるのだけどどこか中華麺でないような。

で、味の感想はと言えば、感動するほど美味しい!でもなく、かといって不味い!でもなく、
「まあこういうもんなんだろうなー」
という感じ。コストパフォーマンスで言えばいい部類だろうしお腹もいっぱいにはなったのだけども、率直なところ普通のソース焼きそばとどっちが好き?と言われれば「普通の…」かなあ。これはもう好みの問題だが。
他の土地の焼きそばではこれの代わりになれないというのはよく理解できるのだけど、正直そこ止まりというか。
はっきり言えるのは、
「トータル1時間近く待たされてまでおしいただくものでないのは間違いない」
ということだ。

それは最初から分かっていたことだし、横手の人にしてみれば
「はなっからそういう食い物じゃないもの」
と、マスコミやガイドブックに乗せられて他県からホイホイやってくるアホな客の言動が鬱陶しくもあるだろう(そのせいで混んでしまうし)。
この手の「ローカル軽食」(よく聞く言葉を使うならば「B級グルメ」、「駅前の歩き方」で言うところの「常食」の概念)は、目を見張って美味い!というようなものはむしろ少なく、生まれた土地を離れて暮らしてみたら、
「この食べ物(横手で言えば焼きそば)はこういう作り方が当たり前」
「これは日本中どこに行ってもあるに決まってる」
と思っていたものが実はそうじゃない(例:「なぜどこに行っても焼きそばに福神漬けじゃなくて紅ショウガが乗っているんだ?」とか)と初めて悟って、遠くにありて懐かしく慕う、その土地で食べ続けられ、提供し続けられることに最大の意義がある(そして当事者たちはそんなものだとは特に意識すらしていない)種のものだと思う。
その「実はけっこうとんがってた独自性」「やっぱりこれが肌に合うというソウルフード性」が近年注目されるようになって、さらには地元の役所やら商工会が「これで町起こしするべし」とその気になって幟とかイベントとかやたらに打ち立てたりして、時にそれまでその料理を全然出してなかった店までいつの間にか作りだしてマップに載っちゃったりなんかして、そんな展開があちこちで起こっている。
そりゃそれなりの手堅い美味しさや地域の人の琴線に触れるものがなければそこまでの存在にはなれないのだろうけども、取材やらガイドブックやらでもてはやされて、行列を乗り越えないとあり付けないようなものになってしまうと、地元の人の中にも「なんか違うような」という感覚の芽生えを感じる向きがちょっとはあるように思う。
このお店の構えから見ても、地元の勤め人や親子連れの気軽な昼食、あるいは部活帰りの欠食学生の帰宅途中のおやつのような感じで、ファストフードとして提供するのが本来の姿のような店なのだと思う。実際にまっぷるをバッグの中に入れて行列に並んだ人間の言うようなことではないが、人間、焦らされれば焦らされるほど、「その結果として得られるものは、時間と体力・精神力の消費に見合うものであって欲しい」
という願望がいやが上にも高まってしまう。
高めるのはこっちの勝手で、出てくるのは「A級」ではない(それが本来の魅力の)「ローカル軽食」なわけで、食べながら自分の中で落とし所を見つける作業が始まらざるを得ない。
こっちとて、決して過度な期待を抱いていたわけではないのだが。

今回の場合、店外での待ち時間はまだまだ乗り越えられる忍耐であったが、何しろ店に入ってからの「まだ注文するな攻撃」がかなり効いた。焼きそば最大の武器である「ソースの香り」が災いし、お預け状態の残存精神力をガスガスと削り倒していく。
それでも、それだけならばまだよかった。
トドメとなったのは、その後入ってきた客は、3分と置かずにすぐ注文を取られていたという非情の展開だった。
その客は多分気づいていなかっただろうが、私には、私たちと同じタイミングで20分待たされた、いわば「同期」たちの頭の上に
「カチッ」
プレートが浮かんで一瞬だけ氷のような空気が走るのが確かに見えた。いわばエアカチッ。


客の立場から見れば当たり前なのだが、「同じ客なのに、対応が同一でない」ことほど不快にさせられることはない。
例えば、客の性別で態度を変える店主、常連にだけやたら愛想が良くて非常連には見向きもしないような店主はその典型だ。
こういう言い方は"モンスターなんたら"っぽくて気分が良くないのだが、正直言って
「なんで俺らが20分でそっちは3分なんだよ?」
というのが本音。
そして商売に限らず人と接する上で、何らかの事情で対応に差が出てしまうのであれば、その理由を明確に説明して、相手の不公平感を和らげるのが基本中の基本ではないだろうか。
もしかして20分待たされたのは、鉄板を洗って再加熱して温まるまで時間がかかったのかもしれない。他の事情があったのかもしれない。ならば一言そう言ってさえくれれば不愉快にもならずに気持ちよく待てるものを。

「熱いものは熱いうちに、ことに麺類は伸びないうちに」をモットーとする私と相方は、こと麺類だとかなり早食いの部類なのだが、それにしてもその時の相方の接触スピードは異常だった。これは完全に「アシュラマン怒り」状態に突入しているな、とすぐに分かった。
めちゃくちゃ広大な面積を誇る彼の「仏の顔」(そりゃ私のようなアホンダラと10年連れ添ってくれるのだから容易に察しが付くだろうけど)なのだが、食べ物のことになるとその残機はごく僅かなのだ。
こうなると私もいつも以上にエンジンを回すしかない。きっと周りの客には「なんちゅう早食いの二人だよ」と引いた目で見られていたかもと思うと恥ずかしいのだが仕方がない。実際まだまだ待ってる人はいるのだし。

店を出て駐車場にすぐ戻ったが、駐車料金はゆうに1時間半分。
焼きそば一皿で駐車場1時間半。そして時間の消費も一時間半。

何だろうかこの、憤りとも自責とも怒りともつかない気持ち。近い言葉を探すなら「間尺に合わない」としか表現しようがない。

ああ、こんなことなら駐車場近くにもあった焼きそばの上りのあった店に入るとか、角館を飛ばさずにじっくり見て、武家屋敷街で稲庭うどんでもすするとか、神社を2,3回るとか、なんぼでも有意義な時間の過ごし方はあったものを。
後からネットで同店の評価などを見たけれども、同じような体験にモニョモニョしたというものはほとんどなく、ポジティブ評価ばかりだったので、たまたまだったのかもしれないが、まあなんというか、横手焼きそばとは縁がなかったと思うしかないかなー。

ひときわ残念だったのは、これが旅の最後の、「シメ」の場所だったということ。これまで食事についてほぼ外さなかった流れだし、そうでなくても旅の帰途は「ああ〜これからまた日常だ〜…昼酒とか、日が高いうちから温泉入って上げ膳据膳で布団も敷いてもらって畳んでくれる人はもういない…」とブルーになりがちなので、最後は気持ちよく終わりたかったんだよな〜…
それともこれは、「いい加減に現実スイッチに戻りなさい」という意味で天が下した冷や水だったのだろうか。いや〜しょっぱいな〜…この冷や水…

帰りは自動車道で一気に雄勝まで出て、金山経由青沢越えで帰宅。
家に着いたのは3時台で、夕方の墓参には余裕で間に合った。

もう一つ残念だったのは、復路を高速で飛ばしたために、ローソンあたりでネイガーグッズを探すチャンスを逃してしまったこと。
まあ次の愉しみに回すというか、むしろ次回は「ネイガーショーに照準を合わせた日程」にするべきなのだろうな。
posted by 大道寺零(管理人) at 01:46 | Comment(6) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
うちの両親が横手近くの出身なんですが
焼きそばが名物だってしったのつい最近です
母親に聞いても「うーんそうだったかなあ?」と心許ないかんじです
でも、なんだか微妙な店ですね
秋田人の血を引く物としてなんだか申し訳ない気持ちです

私としてはハタハタといぶりがっこと納豆汁(正月はこれがないとダメ)が秋田を感じる食べ物なんですよね
Posted by satoyoco at 2008年08月20日 11:49
>>satoyocoさん

横手焼きそばについて調べてみると、最初は本当に駄菓子的なおやつとして生まれ、一時期すたれそうにもなったけれども、B級グルメブームや町おこしの流れで一気に近年ブレイクしたらしいですね。たぶんお母様の世代では「名物として外に出るようなものでも…」という感覚が強いのかもしれないですね。

私たちは大いにモニョモニョして帰ってきましたが、聞こえてくるのは賛辞ばかりなのできっととりわけ運が悪かったのかも。
また、ブームになってから焼きそばを始めた店の中にはアレンジや変り種の独自性で売る店もあるようなので、とりあえずは「横手焼きそばの基本形」とされる店で食べることができたのは、評価の立脚点としてはよかったのだろうと思います。

いぶりがっこは美味しいですよねー!
ハタハタと納豆汁はこちらでもよく食べます。特に年末の大黒様の時にはハタハタはなくてはならないものです。
Posted by 大道寺零 at 2008年08月20日 20:25
とんだ災難でしたねえ。
おそらくその店、回転が速かったらもっと高評価になっていたのではなかろうかと思ったりします。感情ってのはやっぱ大きいです。

個人的にはあーいうB級グルメ (ローカル軽食) ってのはファストフードと同義だと思ってるので、さっさとできないのは結構なストレスです。

それにしてもエアカチッには笑えないけど笑ってしまいました。その場の絵が容易に想像できてしまう…
Posted by オポオポ at 2008年08月21日 00:05
>>オポオポさん

そうですね〜、出てきた焼きそばはほんとに
「ああこういう感じなのかー」
と"体験"した感じと言いましょうか、不味くはないけどあまりピンとは来ないな、でもこれに慣れ親しんで育てばやっぱり「これじゃないと」とはなるだろうなーと思いました。
別に神様扱いしてほしいわけじゃないけども、実になんだかなー…あとご店主が高校野球にかなり意識が行ってたっぽいのも気になるなーと。
ご高齢っぽい夫婦お二人でやっておられるお店なので、あんまりキリキリやらんか!というつもりはないんですが。

>エアカチッ

誰も口には出さないんだけど「はぁぁ〜???」
という空気が確実に流れておりました。やはりご飯は殺伐とした空間ではあまり美味しく感じないものでございます。
Posted by 大道寺零 at 2008年08月22日 00:05
長編の紀行文の上梓、まことにお疲れ様でした。
一ノ関・平泉周辺は高校3年のGW、田沢湖・角館・盛岡は社会人になってすぐ、と何度かに分けて尋ねましたが20年以上経つので様子も変わっているのだなあ、と興味深く拝見しました。

最近久しぶりに旅行ガイドブックを探したら、旅番組よろしく、お店の紹介ばっかり載ってるものばかり…
個人の好みはあると思いますが、その土地の史跡や寺社を訪ねようと調べているのに、時間潰しによれば良い位置づけの食べ物屋さんの情報がメインで、地図でさえ店がある街中のだけなんてのも。
最近は大都市から送迎バスで直接旅館に往復するだけなんてことも多いようですし、旅が「土地」に行った感慨のない味気ないものになりつつあるようです。

そんな意味でも紀行文は楽しめました。やっぱり旅に出たくなるものでなくちゃ!
Posted by 末期ぃ at 2008年08月22日 22:20
>>末期ぃさん

あまりに長々になってしまい(その割に写真少ないし)、「誰か読んでくれるんじゃろか…、まあいいやw」と思っていたので感想いただけてうれしいです!
10周年記念行事だし、一気に書かないと忘れるしめんどくさくなっちゃうから…と思って飽きないうちになんとか書き終えました。

>最近久しぶりに旅行ガイドブックを探したら、旅番組よろしく、お店の紹介ばっかり載ってるものばかり…

20年くらい前の、昭文社あたりで出していたポケットガイドブックとかは交通や名所などが中心でしたけど、今はずいぶんグルメ・ホテル情報に重きを置くようになりましたね。やっぱり「るるぶ」あたりから変わったように思います。
お店情報を増やした方が、店からの提携料収入もありますし、売れるのでしょうねー;
掲載地図でも、肝心の場所(特に寺社とか)がお店の名前表示で隠れていたりとか、多いですね。

楽しんでいただけて何よりです。
ドライブ旅行では私はいつもナビ役で、特に市街地では相方からランドマークを言ってもらって交差点を確認しつつ指示を出すのが仕事なのですが、これをやってるとせっかくの普段来ない場所の街並を見ることができないのが難点ですね…
Posted by 大道寺零 at 2008年08月24日 11:16
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