「どの銅メダルもいわゆる"赤銅色"で、"青銅"って感じではないのになぜbronze?copperじゃないの?」
と思ったことがあった。ので調べてみた。
結論から言えば
・"copper"は元素としての銅・純度99.9%以上の銅を一般的に意味する
・"bronze"は、スズと銅の合金。人類が初めて編み出した合金とも言われる。
・「青銅」という語や、遺物・骨董品や仏像・お寺の鐘、いわゆる「青いブロンズ像」を連想してしまうために"青緑がかったもの"という先入観が強いが、これらは緑青(水酸化炭酸銅)が付いた結果の色で、そもそもの青銅は銅メダルに見られるような暗めの金色。(美術品としてのブロンズ像は、風合いの演出や保護のために後から緑青加工されているものも多い)錫の割合で地の色は変わる。
身近な例では、十円玉が青銅製。新しい十円玉の色が本来の青銅の色、保管状態によって黒ずんだりたまに緑青がつく(最近あまり緑青十円玉は見かけなくなったけど)のを考えてもらえば分かりやすいと思う。
というわけで、ブロンズメダルが青くないのは当然なのだった。
ちなみに中国での漢字表記では「銅牌」と表現され、特に「青銅」という表現はやはり用いていない。
近代オリンピック第1回の1896年アテネ大会では、メダルが授与されたのは優勝と準優勝のみで、優勝者に銀メダル・準優勝者に銅メダルだった。(金メダルがなかったのは財政事情からだと言われている)
金銀銅のメダル表彰が行われるようになったのは1908年ロンドン大会が契機らしい。
(参考:◆スポーツの歴史:オリンピックと日本/スポーツ博物館:独立行政法人日本スポーツ振興センター)
金メダルと銀メダルの素材や大きさについては、オリンピック憲章で定められており、金メダルが実は銀メダル+メッキというのも規定に従ったもの。
メダルおよび賞状
2.1 (抜粋)メダルには、受賞の対象となった競技および種目が明記され、取り外し可能な鎖またはリボンにとりつけ、競技者の首にかけられるようになっていなければならない。
2.2 メダルは、少なくとも直径60ミリ、厚さ3ミリでなければならない。1位および2位のメダルは銀製で、少なくとも純度1000分の925であるものでなければならない。また、1位のメダルは少なくとも6グラムの純金で金張り(またはメッキ)がほどこされていなければならない。
(・JOC - オリンピック憲章 規則70の細則)
しかし銅メダルの材質についてのレギュレーションはなく、実際には大会ごとのデザインに応じて、合金の種類が変えられているようで、名称は「bronze」だが、必ずしも青銅でないこともある。
例えばシドニー大会では
シドニー五輪のメダルは、それぞれ、大きさが直径68ミリ、厚さは3〜5ミリ。
重さは、金メダルが210グラムで、純銀に金6グラムをコーティングしたもの。銀メダルも重さは210グラムで純銀製。銅メダルは170グラムで、銅に少量の銀を混ぜた素材で作られています。
(シドニー2000)
とあり、大会ごとに素材が違い、亜鉛合金(亜鉛の割合によって真鍮・黄銅などの名称の差がある)が使われることもある。伸銅の種類も非常に多く、工業技術の進歩に伴って様々な銅合金が開発されているので、もっともコストや可塑性・デザインイメージ上折り合うようなものが選ばれるのだろうか。
(参考:銅合金の種類
a)伸銅品の種類 1)合金別[伸銅品用語 JIS H 0500(1998)])
ちなみに北京の銅メダルの素材が明記してあるサイトを探すことはできなかったが、
ディネス社長によると、北京五輪・パラリンピックではそれぞれ金メダル1千個、銀メダル1千個、銅メダル1千個の計6千個が必要。金メダル2千個分の金 13.04キロはチリ、銀メダル2千個分の銀1.34トンはオーストラリア、銅メダル2千個分の電解銅0.83トンはチリから調達した。
北京五輪・パラリンピックの全メダルの制作が完了
という記事を見つけることができた。
・Olympic Games Winner Medals Quick View
では、歴代近代オリンピックのメダルを見ることができる。
金銀銅3種のデータが揃っていない回・素材に言及されていない回もあるが、参考になり見るだけでも楽しい。
材料が読めた範囲ではこんな感じ
1964 東京大会(青銅)
the bronze medal is of bronze
1980 モスクワ大会(トムバック[亜鉛15%程度を含む銅合金。丹銅と黄銅の間くらい?])
the bronze medal, of tombac (copper with zinc).
1988 ソウル大会(青銅95%・純銅4%・亜鉛1%の合金)
The bronze medal contained 95 percent of bronze, 4 percent copper and 1 percent zinc.
2000 シドニー大会(青銅99%・銀1%)
and the 780 bronze medals were 99 per cent bronze with one per cent silver.
今回の北京のメダルは、裏側に円状の玉が埋め込まれ、「璧」をイメージしたデザインでなかなかいいと思う。
残念だったのは、月桂冠(実際にはオリーブ)の授与がなく、花束だったこと。私は古い人間なのでやっぱりオリンピックのメインのトロフィーは月桂冠だと思うんじゃよ…
ブロンズと言えば、髪色の「ブロンド」が銅のような色だからと勘違いされている人もたまにいるのだが、
青銅:bronze
ブロンド髪:blond(blonde)
で、綴りからして違う言葉。(blondはフランス語から取り入れられて英語になったらしい。)
なんとなく「もうちょっとだったね残念」的なイメージがあって注目されない銅メダルですが、調べてみたらアイテムとしては金銀よりも奥が深くて面白かったです。緑青仕上げのブロンズ銅メダルがあったらけっこう目新しいかも…