「黄金の日日」は1978年の大河ドラマで、堺で活躍した貿易商人・呂宋助左衛門(作中での姓は「納屋」で統一)を主人公とした物語。
大河ドラマ史上初めて、武家の人間ではなく平民(商人)が主人公に据えられ、フィクション色の強い内容で、唐十郎・李麗仙・根津甚八ら小劇場系の舞台で活躍する役者を意欲的に登用したことなど含めて革新的な作品として人気を集めた。
作中に登場する信長と秀吉は、「太閤記」で好評だった高橋幸治・緒方拳のタッグがアンコール的に再起用。
原作は城山三郎の同名小説だが、小説版が先行していたわけではなく、メインライターの市川森一らとともに「新しい魅力の大河ドラマを」と共にアイデアを出しながら作り上げられた作品で、企画先行型である。
己の才覚と知恵・機転を武器に、自由を求めて信長や秀吉らと渡り合っていく主人公たちの反骨的な生きざまや、活劇的でダイナミックなシーンが多い。若手・実力派を擁したキャストの瑞々しさとマッチしており、理屈抜きで楽しめる作品。
また、それまでの作品が、ビデオテープが当時高価で再利用していたことから一部しか現存していなかったことは過去何度か書いたが、この「黄金の日日」がはじめて全話現存されたシリーズとなる。(2年後の「獅子の時代」から全話が保存されるようになった)
放送当時まだ小学校低学年だったが、登場キャラクターが多く登場するにも関わらず、スリルとテンポのある熱く分かりやすいストーリーに存分に熱狂した。
…とはいえ、やはり一度見ただけで忘れていたことが大半で、久々に見て色々と思い出し、その面白さ・当時味わっていたワクワク感が蘇って楽しい時間を過ごすことができた。
番組にはゲストとして、李麗仙氏とプロデューサーの近藤晋氏が登場。
・呂宋(納屋)助左衛門:六代目市川染五郎(松本幸四郎)
・石川五右衛門:根津甚八
・杉谷善住坊:川谷 拓三
・美緒:栗原小巻
・笛(モニカ):夏目雅子
・お仙:李麗仙
・梢:名取裕子
・織田信長:高橋幸治
・豊臣秀吉:緒方拳
・徳川家康:児玉清
・千利休(宗易):鶴田 浩二
・今井宗久:丹波哲郎
・今井宗薫:林隆三
・小西行長:小野寺昭
・高山右近:鹿賀丈史
・石田三成(佐吉):近藤正臣
・北政所(ねね):十朱幸代
・淀君:藤村志保
・原田喜右衛門:唐十郎
信長に包囲された堺の町。豪商らで結成された「会合衆」は、巨額の資金要求を拒否する代わりに、茶壺を献上する案を立てた。
今井家の商船の船長の息子・助佐、今井家の飛脚番・五右衛門、仏僧ながら鉄砲の名手・善住坊の3人が、その茶壺を届ける命を受け、信長に謁見を許される助佐。しかし再びの信長の攻勢に敗れ、堺は信長に降り、信長の器量を認める今井家が実権を握るようになる。
善住坊は信長暗殺を依頼されて狙撃するが失敗、命からがら脱出を図る。善住坊をタルの中に隠して商船に積み込み、交易の船を出す助佐たちだが、激しい嵐で難破し、意識を取り戻した時にはフィリピンのルソン島にいた。
助佐・五右衛門・善住坊の3人は、言葉も分からないながら、素朴で親切な島民と心を交わし、竹細工を作って市で商売を始める。島で作った金を壺に換え、それを日本に持ち帰って高値で売り、それを元手に自らも交易を始め、堺の町を盛りたてていく助佐。
しかし堺という町のうまみを狙う権力者は多く、信長亡き後は、かつて友として交わった秀吉が、その平和と富を手中に収めんと立ちはだかるのだった。
[参考]
・黄金の日日 - Wikipedia
・黄金の日日(信長=高橋幸治に主眼を置いた全話レビュー)
とにかくキャストがまさしく多士済々で超豪華。畑の違う俳優が入り混じることで強烈な化学反応が毎回起こっていたドラマだった。
信長はとにかく孤高で激しく、ストレートな「畏怖」を感じさせる。それでいて、いきなり助佐に相撲を取らせるような茶目っ気もある(だからこそ怖い)。
対する秀吉を演じる緒方拳がまた見事で、前半のユーモラスで人間臭い姿と打って変わって、後半「堺の敵」となる様子が本当に心の底から小憎らしい。
五右衛門はその秀吉の暗殺を謀るのだが、あと一歩のところで捕らえられて失敗し、捕らえられて有名な「釜ゆでの刑(実際には"油で煮た"らしいのだけど…つまり唐揚げ…)」にされる。
この「暗殺失敗の場面」で、大阪城のふすまを次々にスパーンスパーンと開けて走っていき、しかしそこにいるはずの秀吉の姿がなく…と、とにかくスリルとスピード感満点の演出が強烈に記憶に残っているのだが、久々に映像を見て、五右衛門の最期のシーンも「あー、そんなんだったなあ」と蘇ってきた。
捕らえられて釜に入れられる直前の五右衛門。刑場に「せめて末期の水を」と竹筒を携えてやってきて許されるお仙。
助佐が持たせた竹筒の中に入っていたのは葡萄酒だった。
物語冒頭で、3人がユニットを組む時に、今井宗久から生まれて初めて葡萄酒を振る舞われ、杯を交わすシーン(三国志で言えば「桃園の交わり」のような場面)があり、そことオーバーラップしている。その時共に葡萄酒を飲んだ3人のうち、善住坊は既に亡く、五右衛門が今まさに刑場の露と消えさろうとしており、助佐は一人だけ生き残ってしまったのだ。
助佐は教会の鐘楼に登り、禁じられている南蛮の鐘を思い切り鳴らして五右衛門へのはなむけとする。
3人で過ごした若き日を思い出し、満ち足りた笑顔で自ら釜の中に、後ろ向きのまま身を投げる五右衛門。
五右衛門は五右衛門で、夏目雅子演じるモニカに一目惚れし、婚約者から奪うために強姦したり、なんだかんだで最終的に殺してしまったりと、倫理観の欠如した野獣のようなアナーキーな男として描かれているのだが、憎めない人懐っこさもあり、とにかく当時の野性味あふれる根津甚八とベストマッチの役柄だった。
全話DVDも出ているのだが、何しろNHKのDVDは高くて困る。レンタルできるようだったら借りてみるかなー。
というかほんと、BSでも地上波でもいいから再放送して…orz
こんなに熱気あふれる面白い大河ドラマがあったのだと、若い人にも知って欲しいんだぜ。
前半に流れた「新撰組血風録」もまた面白そうだった。
「燃えよ剣」をはじめ、「土方といえばこの人」の栗塚旭が本当にカッコいい。しかし当時は殺陣が下手で撮影が大変だったというエピソードなどもあり、そういう意味でも興味深かった。
情けない泣きそうな、でも笑顔で、仲間と別れを交わしているシーン、その後ののこ引きの残酷なイメージと合わせて、私にとってのトラウマシーンの一つとなってます。
私も改めてみてみたいです。
>善住坊=川谷拓三がのこ引きの刑
「お宝TV」では、名シーンとしてこの場面も紹介されていました。
結局お仙が、泣きながらとどめをさしてやるんですよね…
なぜか私の記憶になかったのは、あまりの衝撃に脳が記憶を拒否していたのかもしれない…
善住坊と初めて出会った時に、お仙は彼のことを占い、
「あんたはあたしと同じ天文19年生まれの女に殺される運命」
と告げます。お仙が善住坊を殺す可能性が示唆(ギリシャ悲劇やシェイクスピアの戯曲などを想起させるものがあります)されるのですが、彼女と助佐たちの関係は良好なので、裏切ったり殺したりする理由は、視聴者にはまったく見当たらないわけです。
しかし刑場に生き埋めにされ、日と想いに殺されるのではなく、色々な人間に何回も首をのこぎり(しかも竹で作ったやつで、生殺しの痛々しさがものすごく伝わってきます;)引きされ、長く苦痛を味わわされるという残酷な刑。
お仙は泣きながら、「これが自分の役目なんだ」ととどめを刺してやるということで、見事な伏線にため息が出ます。
虫の息の底から善住坊が呟くのは、ルソンで覚えた初めての現地の言葉、「アリーナカヨ(いらっしゃいませ)」。「善住坊の心は今、あの時のルソンにいるんだ…」という助佐のセリフがまた泣かせました。
川谷拓三さんの、超超当たり役でしたねえ。