この間バレンタイン前に寄ったイオン系某店では、クリスマスと並んで製菓需要が高まる時期だったとはいえ、200g498円はちょっと買う気になれない値段だった。
買い物をしながら「無塩バターが高い高い」とブーたれる私のそばで、相方は、「無塩バターっていうのは、食塩が"入ってない"、つまりそれだけ材料を"ケチってる"といってもいいわけなのになんで100円以上も違うんだ?」(もちろんネタとして)いつも言う。
ごくごくシンプルに考えれば、有塩も無塩も一般的なパッケージはともに200gで1箱。
有塩バターに含まれている塩分はおよそ1.9%。原料由来のナトリウムも含まれるのだが、ここでは無視して考えると、一箱に3.8gの塩が添加されているということになる。
一方無塩バターはこの3.8g分が塩ではなく油脂分ということになる。同じ量であれば当然塩よりも油脂の原価が高い。
ので、価格的に
3.8gの油脂の原価-3.8gの塩の原価
の差額が、無塩バターに加算される…と私は考えていたのだが、問題は、「3.8g分の原価の差が発生するとはいえ、それが100円にはならんだろ」という点にある。
もしもバターの製法が、「基本的に有塩」で、「無塩はそこから塩を抜いて加工する」ような形ならばこの価格差も納得できるのだが、一般的な製法はあくまで「塩は最後に添加する」ようなので、それにもあたらない。
[参考]
・[牛乳百科事典]種類は?作り方は? : j-milk
メーカーのサイトなども調べてみたが、「有塩と無塩の価格差」について明確な回答が掲載されているページは見つけることができなかった。
結局のところ、需要と供給の市場原理に負うところが大きいのでは?というのが大方の見方のようだ。
・塩が入っていない分だけ、無塩バターは傷みやすく、品質保持期限も短い→小売店側としても、「多く仕入れる」のはリスクが大きい
・クリスマス・バレンタインなどの時期に需要が急増するが、それ以外の時期はそうでもなく、需要が安定していない
・上記時期を除けば、菓子作り・パン作りをする人が買うだけなので、仕入れを多く行わない→セール品目にならない→値引きされることがないので体感的に高値
・メーカー側の生産量自体も多くない
こうした要素が絡みあって、高値状況が形成されているものと思われる。
同様に、「本来精製度合いでは下位に属する製品にも関わらず、需要と供給の関係から、上位品よりも流通価格が高くなっているもの」に、三温糖がある。
一般的に「砂糖」として用いられるのは「上白糖」で、「三温糖」は、上白糖を茶色くしたような見た目のもの。
砂糖は、原料の糖蜜に熱を加え、結晶を分離させて作られる。
結晶化した後の蜜にもまだ糖分は残っているので、同じ作業を繰り返して結晶分を得ていくことになる。
この作業の早いうちに取れるのがグラニュー糖や上白糖で、最初に得られたものほどクオリティが高いものとして取り扱われる。
作業は加熱を伴うので、だんだん原料はカラメル化して茶色に近づいていく。
「これ以上は白い砂糖が取れない」という状態の、加熱を繰り返された蜜から作られるのが、三温糖や赤ザラメといった有色の糖類となる。(「再三温める」のが三温糖という名前の由来と言われている)
出汁で言えば、2番ダシ・3番ダシのようなもので、製法から考えれば本来の価格的には
「上白糖」>>>>>「三温糖」
であってしかるべきなのに、実際の売り場では三温糖の方が100円程度高く、セール品になる機会の多い上白糖と比べると、1kg袋で倍の値段になっていることも少なくない。
この価格差は明らかに、「上白糖の方が圧倒的に売れる」という需要と供給の関係から生まれている。
こちらは業界団体のサイトに明確に記載されていた。また、業務用と家庭向けではまた事情が異なることもあるという。
なるほど、それで三温糖と呼ばれるのですか。
製品になるまでコストがかかるから、値段も高いということですか?
上白糖は三温糖より品質(純度)が高く、一般に値段も高くなります。
しかし、上白糖は食卓などで大量に消費され、商品の回収率が早く、大量輸送・大量仕入れができるので、結果的にスーパーや小売店では安くなることがあります。
また、業務用の30s大袋づめの場合では上白糖の方がいくらか高いのですが、家庭用の1sの小袋の場合には、需要量の多い上白糖が自動包装されるのにひきかえ、需要量が少ない三温糖は、すべて人手に頼らねばならず、同値か三温糖の方が高くなる場合があるのです。
(日本甜菜製糖株式会社 | 知る・楽しむ 三温糖は健康にいいの?)
一度使ってみると、赤ザラメや三温糖には、上白糖とは違った、なんともコクのある味わいがある。「あんこを煮るには赤ザラじゃないと」とこだわる人もけっこう多い。
これは製法の途中でカラメル化することが独自の風味と甘味を作り出すものと言われている。
黒砂糖やきび砂糖の類と混同したり、「上白糖は三温糖や赤ザラメを漂白したもの、だからミネラルが抜けていない」と誤解する向きもあるようだが、製法を知れば明らかな誤解ということが分かる。
ミネラルは確かに、上白糖等よりごく微量に多いのだが、「上白糖を全部三温糖にしたからミネラル補給になる」ほどではないとするのが一般的。そのくらい微々たる差らしい。
理論的にはそうなのだが、使ってみるとこれは確かに美味しく、煮物なんかには特にいい。ベーコンの仕込み用に1kg買ってみたのだが、今では「白く仕上げなきゃいかん料理」以外には大概使うようになったほど。
ほんと、もうちょっと価格が上白糖に近づいてくれないものか…
そんなわけで、多分バターの価格差も、その大半は需要供給関係によるものなのだろうと考えたのだった。
ところで最近は、「食塩不使用バター」という製品名表示がほとんどで、「無塩バター」と銘打った商品は見受けられなくなった。
無塩バターについて調べたついでに知ったのだが、これは厚生労働省の栄養表示基準の定めで、
「ナトリウムについて"無・ゼロ・ノン・レス"という表示を用いる」
ためには
「食品100g(100mL)あたりのナトリウム含有量が5mg未満」
でなければならない、という基準が設けられたことに関係している。
(参考:栄養表示基準の取り扱いについて[PDF])
一般的な無塩(食塩不使用)バターには、原料に由来するナトリウムが100gあたりナトリウム11mg(食塩相当量28mg=表示のルール的には0g)が含まれているため、「無塩」とは名乗れなくなったということだ。
「カロリーゼロ」「糖分オフ」「カルシウム強化」等とうたうためには、それぞれ基準が設けられていて、それが「栄養表示基準」。一度眺めてみるとけっこう面白い。
(財)日本健康・栄養食品協会:食品の栄養表示基準制度
ネタではなくマジで、漠然と疑問に思っていた私です。お恥ずかしい(苦笑)
今回、やっと調べてみてよかったです。
ただ、何か技術的な方面で、余分に手間がかかっているのかもしれないなと思っていました。
同じく、言わばリサイクルで生まれる三温糖の話にしても、私も、やはり、精製しきっていないから、ああいう色あいになるのかなと漠然と思っていました。
中途半端な知識による単純な印象での考えと、本質を知ったうえでの考えの違いということを、あらためて思います。
案外と日常生活レベルのなかにも多々ころがっていそうなことですね。
勉強になりました。