「サイボーグ009」に登場する主人公たち・00ナンバーサイボーグがさまざまな人種、そして一人一人異なる特化能力があることはよく知られている。この能力が各々異なる活躍の場を産み、キャラクターのエッジを立たせることに成功しているのもご承知の通り。
長いストーリーの中で、その能力は微妙に変化することもある。例えば強化されたり、わずかながら成長したり、無理がきくようになったりと。
その中で、「いつのまにか"無かったこと"にされている」こともままあり、それが008のウロコ皮膚だったり、002の加速装置だったりする。
002の特殊能力と言えば勿論、「最大マッハ5で空が飛べる」ことなのだが、初期設定では旧式で009のものに性能で及ばないものの、加速装置も持っていた。
というか、「誕生編」を読みなおすと、各メンバーが自分の能力を披露するシーンで
ギルモア博士
「002はマッハ5の速さで走ることができるんじゃ」
003
「あだなは"ジェット"。彼は空も飛べるのよ」
という会話があり、むしろ当初、飛行能力は"オプション"として扱われていたことがはっきりと分かる。
しかし原作でも最初期以来ほとんどジェットの加速装置は使われず、シリーズを重ねるにつれ、「アンタ、そこで加速すれば助かるだろ」というタイミングでも使うことなくアッサリ捕まったり壊されたりする展開が目立ってくる。
そのたびに(主に002の)ファンは、「石森先生ーー!ジェットにも加速装置があること、忘れちゃったんですかーー!!」と心の中で叫ぶのだった。
かといって作中で、「ジェットの加速装置は取り外し、その代わりに飛行能力を向上して特化させたのじゃ」みたいなアナウンスがあるわけでなく、他のメンバーもジェットの加速を期待することももはやなく、なんとなくのうちに彼の加速装置は存在感を失ってしまったのだ。
「マッハの飛行に耐えられる体である」という裏付けとして生かされているのかもしれないが…
先日、とある009ファンの方のサイトに別件の検索でたどり着いた時に、石森先生がジェットの加速装置について語った談話について触れた貴重な文章があった。
映画「超銀河伝説」キャンペーンイベントに観客として参加したその管理人さんが、"先生に質疑"コーナーで直接質問したのだという。
ジェットの加速装置はどうなったんですか?
という質問に先生は、「たぶん壊れたんでしょう…」と答えていたのをいまでもはっきりおぼえています。
■サイボーグ009(さとぴーのほーむぺーじ)
なんという気の抜けた衝撃の事実。
やっぱり先生の中では"封印ギミック"になっていたことがはっきりと分かる。
そしてこの質問を直接先生にぶつけ、その回答をこうして公開してくださった管理人さんに心からグッジョブと言いたい。
多分その理由は、主人公である009のキャラクターを明確に際立たせるためだろうとは思う。
009の能力は、「001〜008の能力をそれぞれいいとこどりした、オールマイティ型」と説明されている。
しかし現実世界でもそうであるように、「なんでもそこそこにできる人」のインパクトは、「●●だったら任せとけ」な人に比べるとどうしても薄い。
実際には009は、「いいとこどり」とはいえ、熱線を出したり変身したりできないし、エスパー能力を持つわけではない。パワーもあるけれど005ほどではなく、結局ここぞというところでは005に「頼むよ」と活躍の場を提供している。そうしなければ今度は「他のメンバーの見せ場がない」からだが、かといって「009ならでは」のギミックがなければ彼のキャラクターは「これといって目立った能力もなさそうなのになんかリーダー面している奴」になってしまう。
そこで、「002より最新式で優れている」と明確に設定されている加速装置を彼の"お株"にし、002の加速装置には日陰者になってもらうことにしたのだろうと思っている。
幸い002はビジュアル的にも、「飛べる」という能力だけでも活躍の場がしっかり与えられている。
「誰よりも先に現場に急行できる」という能力は、すぐに彼を「誰よりも先に敵に遭遇できるから、誰よりも先にやられる」という超一流のかませ犬キャラの座に定着させた。加速装置で地を走る場面がなくとも、002の存在価値は揺るがないし、「ジェット」という名前にもマッチしている。
そんな感じで、加速装置を"譲った"ような形でキャラクターのバランスを取り、009にインパクトを持たせたのだろう。
何しろミュートス編で、009はアポロンから
「お前の武器は加速装置だけとは言うまいな」
と言われて、あの有名な答え
「あとは…勇気だけだ!」
と返している。
つまり、"マテリアル面で言えば俺のこれといった強みは加速装置だけです"とも取れる発言だけに、「じゃあ加速装置以外に飛行能力もあるジェットの方が強いサイボーグなのでは」という意地悪なツッコミも可能であり、やはり「009の専売特許」というふうにしておかないと色々まずいのだろう。主人公として。
それにしても、石森先生の「多分壊れた(そしてそのまま)」という答えも、とっさの対応としてもなかなかものすごいものがある。
「頼まれもしないのに008の皮膚を寝てる間に銀色のウロコまみれにした」実績のある、"改造のことなら鬼となる"ギルモア博士が、重要なギミックを壊れたままにしておくとはとても思えないのだが…
ことほどさように、原作に於いても「002が加速装置を使う」シーンは貴重で、アニメでも同様なのだが、平成アニメ版では明確に加速するシーンが登場し、ファンを歓喜させた。
ミュートス編で、アポロンと009が加速状態で戦う場面で、加勢しようと002も加速する。
しかし加速上限のレベルが異なるため、二人の戦いがジェットにはまるで見えない。
で、結局
「つ、ついていけねえ……!」
と諦めるだけのための加速で、ファンサービスだか何だかよくわからん結果になってしまったのだった。
(ついでに言えば、"ヨミ編において、加速装置もないのに心眼と耳だけで009VSボグートの戦いに参加できた004は凄いよね"という意味で、ものすごくレンジの長い当て馬ともいえる)
つまりはここでもジェットの「噛ませ犬・当て馬」な人生街道が再度強調されて終わったのだった。
まあそんな彼だから、最大の見せ場であるヨミ編のラストでこの上なく輝けて、いつもやられてばかりだからファンも多いとも言えるわけで、まあ頑張れと言わずにはおれない。