2009年04月09日

石川賢「ウルトラマンタロウ」(その2)漫画

前回の前置きがえらく長くなってしまったのだが、いよいよその第1話「タロウ誕生」をご紹介。

以下の紹介文や画像には、若干暴力的な内容が含まれますのでご注意ください。
(特に犬好きな方)


黒煙を吐きだす工業地帯の煙突。それを背景にした原っぱに集う野犬たち。
その中に一匹の子犬が現れる。それはエサをむさぼり食うと、見る見るうちに一回りも二回りも体が大きくなるという奇妙な犬だった。
ここだけ読むと、まるで本編後半に登場する「食いしん坊怪獣 モットクレロン」の設定を大きく先取りしているように思えるのだが、大きく違うのは、この犬の「エサ」は、襲って倒した野犬たちの死体や内臓だってとこカナー。

そんな殺伐とした怪奇色溢れるファーストシーンから、石川賢の「ウルトラマンタロウ」は始まる。

続くセカンドシーンは子供たちの集う原っぱのグラウンド。
そうそう、こういうほのぼのとしたシークエンスを交えた緩急が、物語には大事だよねー…などと一般論を述べる暇もなく、のっけから不穏な雰囲気。
「ケンちゃん」と呼ばれる少年が率いる野球チームの前に、サッカーチームが立ちはだかり、グラウンドを使わせようとしない。
文字にするとこれまた、子供の世界ではありがちな小さなトラブル…なのだが、「サッカーチーム」の面々の顔付きが半端じゃなくわっるい。
多分小学校の上級生、年いっててもせいぜい中学生ぐらいのはずだが、顔付き目つきがどいつもこいつもマエが2つ3つありそうなヤクザ。「凄ノ王」で雪代さんを集団暴行した連中と同じレベルである。

スパイクにヤスリをかけながら(こいつ絶対、「スパイク安」みたいな二つ名があると思う)恫喝するも、一歩も引かない勇気あるケンちゃん。体格差にものを言わせて、彼を「ボール代わり」にして蹴りまくるサッカーグループ。一気に洒落にならないイジメと暴力の現場に。チームメイトのメガネ少年もボコボコに殴られる。


こうして見ると明らかに怪物…というかむしろ
機械獣かメカザウルスみたいな顔のやつが混じっている件

ケンちゃん、その「ススムちゃん大ショック」的な表情だけは勘弁して!あれはホントにトラウマだったんです、マジで…
いやまあ、実際に「勘弁してほしい」目にあってるのはケンちゃんの方なのだが。
原っぱの外に蹴りだされたケンちゃん。その着地点で眠りを妨げられた青年こそ、この物語の主人公・東光太郎だった。
小汚い格好をした怪しい男・光太郎にインネンをつけるサッカーチーム。

「このへんじゃみかけねえつらだな。」
「みろよ、まるで終戦まぎわのひきあげ兵ってかっこうだぜ。」
「へへへ…こじき、ケガしたくなかったらボールをかえしてくれや。」
「その小僧のことだよ、こじき野郎!」

いきなり罵声、しかも「こじき」という呼称を連発される主人公。まあこの当時は別に自粛すべき言葉でも何でもなく、普通に出版物上で飛び交っていた言葉なので驚くにはあたらないのだが、今では絶対使えないタームがのっけから連続で出てくる。

この時光太郎が単に昼寝していただけなのか、ここで寝起きしていたのかまでは定かではないが、なんとも路上生活者の香り漂う風貌なのは事実で、クソガキからこじき呼ばわりされるのも無理もない。

光太郎はクソガキに1発パンチをかまして
「おらあ、こじきじゃねえぜ。」とニヤリ。
現在は無所属だがキックボクサーで、「東光太郎」と名乗り、サッカーチームをコテンパンにのしてしまう。
「小さなこどもをなぶりやがって うすらみっともねえぜ」
という光太郎だが、彼にしてみればサッカーチームの連中も十分に「小さなこども」のはずなのだが…まあ細かいことは横に置こう。

細かいことになるが、ここでちょっと注目したいのは、少なくともこの大都社版のルビでは
「あずま こうたろう」
と名乗っているのだが、テレビに登場するタロウの中の人の名前は
「ひがし こうたろう」

で、姓が基本設定と違ってしまっている。編集側のミスかと思われるが…
これまた細かいことになるが、「東光太郎」と書いて「あずま こうたろう」と読む人間は別作品に登場していて、それは「新造人間キャシャーン」の、キャシャーン(東鉄也)の父親・東博士のことなのだった。ちょっとややこしい?

やたらと強いコジキ光太郎から逃げ出そうとするサッカーチームの前に、さっきボコ殴りにされた、「きれいな魔太郎」みたいな顔をしたメガネくんが、愛犬シロとともに立ちはだかる。
さっきのお返しとばかりに犬をけしかけて叫ぶ。

「やれ!!シロ!!かみ殺せ!!

まったくもって、しょっぱなからどいつもこいつも物騒極まりないのだった。

ほんとにかみ殺しかねない勢いを見かねて、光太郎は犬を引き離して投げ飛ばす。
「シロ」と呼ばれた犬は、猫のように華麗に宙返りして板塀の上にすっくと立った。
そして光太郎を睨みつけ、彼の脳の中に直接話しかけてくるのだった。

「でたな タロウ!」
「おまえとオレは いずれ戦う運命だ!!」

いきなり犬から「タロウ」と呼ばれた光太郎は、何が何だか一つも分からず混乱するのだが、それ以前に空腹のためにグロッキーになり、ケンちゃんの家で夕食にお呼ばれすることになった。
客観的に見て、やっぱりこの状況ってコジk……


ケンちゃんの家・白鳥家は、父の潔・美人な姉のさおりとケンちゃん(ケン一)の3人家族。久しぶりの団欒(と食事)を楽しむ光太郎。
会話の中で、光太郎が天涯孤独の宿なしであることが語られる。

光太郎「はあ、まあ…宿なしボクサーっていうのはみじめなもんですよ。

正直、「ボクサー」の部分は関係ないというかいらないと思うのだが、どうだろうか光太郎。
彼は、勧められるままに白鳥家に一泊する。
寝床の中で、昼間登場した不思議な犬・シロについて話すケンちゃん。三日前に山田くん(メガネ少年の名前)がヘドロのドブでおぼれていたシロを助けたところ、ごく小さな子犬だったシロはみるみる大きくなり、「2日で3倍くらいに」なってしまったのだという。

同じ夜、山田くんの家の庭。
冷蔵庫の食料をあさり、全てシロに与える山田くんの姿があった。
しかしそれには飽き足らず、夜更けの町に出てエサを貪るシロ。そしてその傍らには、酒飲み帰りと思しき男の、無残なぶちまけ死体の姿が……


「ビバ!ダイナミック」の紹介ページによれば、ここまでが連載第1回の内容らしい。

主人公変身せず、タロウ登場せず、というかまだ明確な「怪獣」すら登場せず。
導入部の不気味な犬のイントロダクションと、コジキチックな主人公の顔見せのみで、徹頭徹尾ホラーの趣のまま終わってしまう第1回。
読者をして「なにマンガよ?」と困惑させるに十分すぎるインパクトに隠れて石川イズムがいっぱい。
これに怯えて「タロウを見るのはやめとこう」と思ったお子様が当時いたかどうかは不明だが、いてもおかしくはないと思わせるに十分ではある。

こうした丁寧(コミカライズとしてはある意味乱暴)な導入は、次の年に始まる「ゲッターロボ」でも健在であり、漫画版の1話は、ちょっと乱暴な空手少年が大会会場に乱入して、出場者や偉い人をボコボコにした後、ちょっと虚脱感に浸る暇もなく彼を狙う怪しい影…というところで、ちょうど時間となりました〜♪」という内容。やっぱり「なにマンガよ?」感がバリバリ健在なのだった。というかむしろ増幅というかなんというか。


翌朝、白鳥家。
新聞を取りに外に出たケンちゃんが見つけたのは

「タロウ絶命」

と地面に大きく書かれた血文字。

そしてその血文字をたどると、下半身がちぎれ、首が申し訳程度にくっついた悲惨な男の死体(昨夜のシロの食べ残し)が横たわっていた。

これも余談だが、この「血文字のメッセージ」というのも石川先生はお好きらしく、やはり「ゲッターロボ」でも、恐竜帝国の方が効果的にご利用になっておられたのをご記憶の方も多いことだろう。

不気味な血文字でまた光太郎の目の前に現れた「タロウ」という名前に不安をかきたてられる光太郎。
その時門の外にいて、静かに立ち去る、帽子にコート、そして黒覆面という、どこから見ても怪しい男の姿。光太郎の不安はさらに加速する。

警察によれば、2日の間に5件も通り魔事件が発生しており、そのいずれも

・「タロウ絶命」の血文字が現場に残されている
・犯行地点を結んでできる円の中心部には白鳥家が位置している

のだという。
光太郎は、あの犬・シロが事件に関係していると読み、ケンちゃんとともに山田くんの家を訪れるのだが、そこにあったのはボロボロに壊れたシロの犬小屋と、家を飛び出していく山田くんの姿だった。犬小屋はシロの急激な成長に耐えられずに壊れてしまい、不気味がった家の人からシロは追い出され、山田くんはその後を追ったのだ。
追いかけて着いた先は、鉄骨むき出しのビル建設現場だった。ひそかに光太郎の後をつける怪しい黒ずくめの男。なぜか二人に増えている。
シロは光太郎を鉄骨の下におびきよせ、鎖を噛みちぎって彼を亡きものにしようとする。

モロにその下敷きとなって意識を失う光太郎に、不思議な声が語りかけてきた。

声は光太郎を「タロウ」と呼び、自らは「あなたの母」と名乗った。
今、光太郎は、精神体となって「母」の体内にいるのだという。
突拍子もない話を信じようとしない光太郎に、「母」は自らのビジョンを見せて説明する。

「あなたがあまり私を信用しないから 私を見せたのです。これでわかってくれましたか?」
じょうだんじゃねー、ますますわからねえ。

そりゃそうだ!読者だってわかってねえ!

「今、地球は絶滅の危機に瀕しているが、人類の力で自らを救うことはできない」
と語りかける母。

「そこで私は……地球七億の若者の中から…体力…頭脳…勇気…知恵…そして、これからおこるきびしい試練にたえるだけの、精神力を持った若者を…私のあらんかぎりの能力を使って選びました。それが……あなた!!私の六番目のムスコ……タロウ!!ウルトラマンタロウ!!」

ここで明らかになるのは、「ウルトラの父と母の実子(と光太郎が一体化する)」という本編の設定に対し、石川版のタロウは「ウルトラの母に息子(的な存在)となる資質を見こまれて力を付与される地球人」であるという違いだ。

しかしこういう展開でスンナリと「ああ、そうなんですか」と納得しないのが石川世界の主人公。
そこで母は、今度は光太郎に「未来の地球の姿」を見せて説得を試みる。
そこに展開されたのは、奇怪な姿の怪獣たちが跋扈し、人間を踏みつぶし、握りつぶし、貪り食い、叩きのめし、串刺しにする絶望の世界だった。

「彼らは、奇形獣!!彼らは、宇宙の戦士!!どれもこれもみな、地球の未来の生物ども!」
「貧困!!疑心!!欲望!!人間精神の産物!!
「彼らは強大な力を秘めています!!その証拠に彼らはあなたの正体を知っています。」
「彼らを壊滅させるのはあなた!!」
「タロウ!!あなたが力がほしくなったら私をよびなさい!
「私はまっています。戦うのです!!」

そのまま気が遠くなり、光太郎は悲鳴で現実世界に呼び覚まされる。
鉄骨の下敷きになったものの、彼は生きていた。その場にはあの「黒ずくめの男」が二人倒れており、理由は分からないが、彼らが身を呈してかばってくれたおかげで助かったことを察した。
光太郎を呼び覚ました悲鳴は、山田くんの前で正体を現したシロに噛みちぎられた建設作業員の断末魔だった。


シロは奇形獣としての正体を露わにし、さらに巨大化してタロウを殺そうとする。山田くんを連れて逃げる光太郎を追い、暴れながら街を走るシロ。

ガレキと化した鉄骨の中から起き上がるメンインブラック2人。ことのほか丈夫なお二人だった。
必死に逃走する光太郎を目で追いながらつぶやく。

「しかし、どこまで逃げ切れるか…」
「かれが自分の運命を受け入れるまでだ。」

微妙に会話の次元が噛み合っていないようにも思えるが気にしてはいけない。

「こばんだら…?」
死あるのみ!それが選ばれた者の運命だ!!」

やっぱりサラリとひどいことを言うこの人たち。とっても石川ワールド的ではあるのだが、あまりに過酷、あまりに理不尽。
どっちかというと、ヒーローというよりは、城とかを作った大工に対するむごい仕打ち(秘密を知っているので問答無用で消されるとか)とか、「秘密を知った上は仲間になるかこの場で殺されるかの二者択一を迫られる時代劇の登場人物」への対応に近い。必殺シリーズならいざ知らず、ウルトラシリーズでこんなこと言っちゃっていいのか、こっちのほうが不安になってくる。まあその理由は後で明らかになるのだが…

行く手を踏切に阻まれ、一か八かジャンプする光太郎。
電車に激突してもシロはびくともしない。

しかし光太郎、乗務員も、おそらく乗客もいる電車が激突転覆した場面で

「やった!!」

と言っちゃうのはいかがなものか。

シロの体からは謎の粘液状の体組織が放たれて光太郎を捕らえる。それは溶岩のように熱く、あっという間に光太郎の体をケロイド状に焼けただれさせてしまう。
激痛の中で先ほどの母の言葉が蘇った。
光太郎は空に向かって叫ぶ。

「母よ……ウルトラの母よ……」
「力を……力をくれ!!」

その叫びが届いた宇宙のかなたから、不思議な光が放たれて光太郎に届くと、それは激しい嵐と炎を巻き起こして、焼きつくすように彼を包む。


「ああ、これが…これが……おれの姿か!!」

そしてその中から立ち上がる赤い巨人こそが、ウルトラマンタロウ!!

丁寧にページを割いて描かれたこのシークエンス、はっきり言ってなかなかに燃える展開だ。
主題歌2番の

力がほしいと 願う時

とは、この場面のために存在するのではないか?とすら思わされてしまう。
(まあ、「腕のバッジ」は出てこないので、輝きようもないのだけども…)

「タロウ!考えるな!戦え!」

ブルース・リーみたいなセリフで無茶を言う黒覆面の二人。

タロウは強烈なチョップを一発見舞うと、シロの口を力ずくで押さえ、そのまま引き裂こうとする。

「光太郎!!フフフ……ついにタロウになったな!これでおれと同じになったんだ。」

シロから発せられたのは意外な言葉だった。

「おまえにはわからんだろうが、おれたちは…ある者の使者…ある者の化身なのだ!!」
「そうさ!!わかるかいタロウ…おれたちは、そいつらのために働くんだ!!」
「おれが死んでも、ある者は、すでにつぎのおれをつくりはじめているのさ。第二のおれを…そして、第二のおまえをな!!」
おれや、おまえのような怪物をな!フフフ…」

いきなり変身しただけでイッパイイッパイだというのに、さらに漠然としつつ衝撃的な言葉を突き付けられたタロウ。

「お、おれが…か、怪物!!」

そんなことは認めない!とばかりの勢いで、口元から真っ二つにシロを引き裂くタロウ。


しばらくシロのAパーツBパーツを持って呆然とするが、カラータイマーが点滅し、その意味を誰に教わるでもなく飛び去って消える。
あとに残されたのはシロの巨大な死体、そして気を失って倒れている山田くん。

黒覆面の二人は、山田くんを助け起こしながら会話を交わす。


「タロウはだいじょうぶかな、あいつ…」
「なあに心配ない。おれたちもはじめはあんなふうさ。これからはタロウしだいさ…おれたちの任務もおわったな。」
「つぎの仕事がまってる。いくか、ウルトラセブン!
おう、ウルトラマンエース

そして二つの光が宇宙へと飛びたっていくのだった…

この二人の覆面メン、「タロウになる運命を拒んだら死あるのみ!」とかなんとか物騒なことを言っていた彼らこそが、「ウルトラお兄ちゃんズ」だったのでした…というオチ。特に去り際の、「説明責任は果たしましたよ」と言わんばかりの説明セリフがもうたまらん味わいである。
ちなみにこの二人、あとのエピソードには一切登場せず、覆面を脱いで素顔を見せることもないのだった。

それにしても、セブンもエースも、「さいしょはあんなふう」だったのか…

闘いを終えた光太郎は、全身傷だらけ、しかも全裸というものすごい格好で、再び白鳥家の玄関先に現れ、
「おれは怪物じゃねえ…地球を守る使者だ。」
と、自分に言い聞かせるように呟くとそのまま気を失うのだった。
なんというか、やっぱり客観的に見ると、よくよく行き倒れるのが好きな男である。海底人8823ほどではないけれど…


ここまでが石川版のファーストエピソード。
色々と独自要素はあるのだが、起承転結と謎・伏線をしっかり入れて構成し、なおかつバッチリ盛り上がる内容となっているのは確かで、まあ実際「TVで見たタロウ」のイメージとはかなりかけ離れて入るものの、引き込まれる話に仕上がっている。

以降しばらくは、TV本編の第1話と比較しながら、相違点・共通点等をチェックしていくことにする。(以下、TV本編を「本編」と略称する)


[主人公・東光太郎]

前述したように、「ひがし」とあるべきところに「あづま」とルビを付けてしまったミスはあるが、文字的には同一。
本編では、ほとんどのウルトラシリーズの主人公がそうであるように、地球の防衛組織(タロウではZAT)に所属する隊員なのだが、1話冒頭で登場した時は、白鳥船長のタンカーに便乗しながら、世界各地で自分探し的な旅をして回った末に、ボクサーの道を選ぶ…という設定で、同タンカーで日本に戻る途中…というのがファーストシーンだった。

石川版で光太郎がキックボクサーを目指すという設定(プロとしてデビュー済みなのかどうかはちょっとはっきりしないのだが)になっているのは、この初期設定に準拠したものと考えられる。

もっとも本編の方では、1話途中で早々にZATに「勇気を見こまれて」採用されるためか、ボクシングのエピソードを入れていくのに無理があるとされたせいか、第10話で試合の描写があった後はオミットされてしまった。
「ウルトラマン80」同様、主人公の「二足のわらじ」の両立はなかなか難しいのだろうか。

また、1話の船中の会話からは、光太郎が天涯孤独(少なくとも母親は他界しているらしい)であり、その時点での定職のあてはないことが示されている。
まあ間違っても不良少年からコジキ呼ばわりされることはないのだろうが、基本設定としては実はそんなに大きく違ってはいない。

2話以降、白鳥家に下宿するようになるのは両方とも同じ。
本編ではすでにZATに就職しているのに対し、石川版では、ボクサーとしてのトレーニングは欠かさないものの、定職についている気配はなく、「居候」の雰囲気が濃厚である。ZATそのものが存在しないのでまあ仕方がないのだが。

光太郎の人物像は、しっかりした大人の男として描かれたハヤタやダンに比べると、かなり親しみやすい「気さくなお兄ちゃん」として作られており、言葉遣いなども従来のウルトラシリーズ主人公としては格段に砕けていて、時にちょっと乱暴寄りだったりもする。特に子供や動物には明るく優しく接し、時に怪獣にも感情移入する共感力がある。この傾向は後半の、「悪くない怪獣は殺さない」という路線に結び付いたのだろう。
この手の「親しみやすいざっくばらんなアニキ、しかもチョイ悪」な主人公は、兜甲児等の例を挙げるまでもなく、ダイナミックプロの得意技であり、石川版の光太郎も気さくさ、子供への優しさを踏襲している。
漫画での光太郎のビジュアルは、「よくある石川漫画主人公」の顔なのだが、髪型・顔つきなどはけっこうおとなしい部類かと思われる。


[白鳥家]

父:潔(きよし)
姐:さおり
息子:健一(石川版では「ケン一」)

の3人構成は本編と共通している。本編では既に母親が他界したことが語られ、また潔の職業が「国際タンカー"日々丸"の船長」と明確にされている(なお、最終回エピソードで他界してしまう)。
漫画版で潔が登場するのは1話のみで、職業の説明は特にない。
本編設定では、さおりの年齢は19歳の女子大生、健一は小学5年生。

漫画版のさおりは、当時アイドルによって流行した「お姫様カット」が時代を感じさせる。「トックン輸送隊」に出て来る女の子によく似ているのだが、「トックン〜」の掲載が同1973年なので、絵柄的に似ているのもむべなるかな。


[ウルトラの母]

本編1話では、光太郎が旅から持ち帰って植えた「チグリスフラワー」の正体が怪獣だったため、出現した「アストロモンス」が大暴れ。光太郎はアストロモンスに立ち向かうが弾き飛ばされてしまう。
傷だらけで横たわる光太郎のもとに、子供たちが「緑のおばさん」を連れてきて、介抱を頼む。
今や「緑のおばさん」と言っても若い人には通じないだろう。通学路で子供たちの登下校を見守る交通指導員の女性が、当時はそう呼ばれていた。今ならPTAが交代で、腕章やら帽子やらを付けて「見守り隊」として立ち番をしていたりするのと、機能的にはまあ大体同じ。緑の上着を羽織っていることが多かったのでこう呼ばれた人たちだ。
このおばさんが光太郎の傷を癒し、お守りのバッジを授けるのだが、その正体こそがウルトラの母。そして渡したバッジこそが変身アイテム・ウルトラバッジだった。
光太郎はその時「死んだ母に似ている」と発言している。

その勇気を買われてZATに入隊した光太郎だが、戦闘機でアストロモンスに突撃し、撃墜されて死線をさまよう。その爆発を包むようにウルトラ兄弟たちが彼を救い、ウルトラの母に託す。
母は光太郎をカプセルに入れ、産声とともに「ウルトラマンタロウ」が誕生する。

その後も何度か、人間の姿で登場する。

これに対して石川版では、ウルトラの母の具体的な姿は登場せず、「太陽のような抽象的なビジュアル」で現れるのみ。勿論「緑のおばさん形態」も出てこない。

また、前記事で書いた通り、「ウルトラの父」は一度も登場しない。


[ウルトラ兄弟]

石川版では、ウルトラセブンとエースのみ登場
上記で触れたように、「覆面の男」として出るのみで、ポピュラーな変身後の姿は表さない。言動はめちゃくちゃスパルタなのだが、いざとなれば身を呈して光太郎を庇うなど、文字通り献身的だったりもする。
劇中のセリフから察するに、優れた人材を発見してウルトラの星に報告するスカウトマンの役目を担っているようだ。


[タロウと怪獣・怪獣・ウルトラ戦士の関係]

石川版では1話にして既に、単なる勧善懲悪ではない世界観が提示されている。
ウルトラの母の見せる「未来の地球」に跋扈する奇形獣は、「単に地球外から飛来した悪い怪獣」ではなく、負の「人間精神の産物」と語られていて、単純な侵略者ではなく、禍の芽が地球人類に内包されていることを示唆する。
そして巨大化したシロ(結局怪獣としての名前がないんだよねコイツ)からはさらに、「怪獣もウルトラマンも根は同じ、大いなる意志によって動かされる生命体である」という衝撃的な言葉までも飛び出す。

こうした独自要素が、本作を「TV版とはまた違った味わいのハードSFチックな作品」と評価させているものであり、残念ながらあとのエピソードでじっくり語り終えるには至らなかったが、ある意味平成ウルトラシリーズのいくつかに見られる観念的・SF的なテイストを先取りし、既に超えている部分さえあるように思われる。


2話以降も、ゾウもキリンも人も怪獣も、1話同様に「かなりな状態」でザックザクとお亡くなりになるシーンがごく普通に登場する。
別にこの作品に限らず、首が飛ぶ、目玉が飛び出る、ハラワタぶちまける等々は、ダイナミックプロ的には「御社の社風」というか「所定の様式」みたいなものなので、仕方がないと割り切ってもらうしかない。
そしてこの作品だけが飛びぬけて過激に見えるかもしれないが、同時期の少年誌ではアナーキーorハードな作品や描写がよく用いられ、同時期の少年サンデー誌上にしても、

・ザ・ムーン(ジョージ秋山)
・漂流教室(楳図かずお)

といったハード路線の作品があった(翌年からは「男組」も開始)し、他誌を見てみれば、既に「アシュラ」「銭ゲバ」「ハレンチ学園」といった作品は前年までに終わり、ダイナミックプロでは「デビルマン」が終わったばかりの頃。
そんな時代の流れを考えれば、決して「タロウ」だけが突出していたわけでもない。また、本編においても、怪獣が人間を食べたりする描写が存在していた。

ところで、同時期に連載されたが、単行本に収録されず日の目を見ていない「小学1年生」版については、勿論私は見ていないのだが、青さんからのメールによれば

単行本化されていない小学一年生版のタロウも流血だ切断だ串刺しだと、かなりなことになってます。

と、やっぱりかなりなことになっていた模様。賢先生は手を抜くということを知らない…
ただ、子供にとって一番イヤで白けるのは、「子供扱いされる」「子供だと見て手心を加えたり教育的修正を加えられる」ことだったりもするのだけど。


まったく個人的なことだが。第1話を読んでみて、ストーリーの流れとして、特に「タロウ覚醒」の場面において、ダイナミックプロ的というよりむしろ石森章太郎的な匂いを強く感じた。
たとえば、
・唐突に、敵や未知の存在から、いきなりテレパシーで、自分の知らないもう一つの姿や能力を示唆され、呼びかけられる。
・高次的存在から、やっぱり唐突に自分の使命や運命について諭されるのだが、理解できずにいると、強烈なカタストロフのイメージを見せられる。

このあたりが特に強く石森的な展開に感じた。
前者に関しては、「イナズマン」(もっとも作品発表は「タロウ」の方が早いが)の冒頭が印象的だし、後者は「幻魔大戦」でのフレイやルナのやり方がこれに似ている。

次回は2話以降のエピソードについてご紹介する。

posted by 大道寺零(管理人) at 15:19 | Comment(3) | TrackBack(0) | 漫画
この記事へのコメント
よくぞここまで詳細なレビューを…。お疲れ様です!
本当にウルトラシリーズのコミカライズは、はっちゃけてますよね。
賢版タロウは、いかにも怪獣と言う奴が出て来ないし怪奇色は強いし、何だか「血なまぐさいウルトラQ」のような。

ちなみに私が持っている若木書房コミックメイト版(昭和48年初版)でも、光太郎の名前は「あずま」とルビがふられてます。
誤植がそのままになってるって事ですかね。

それにしても、パジャマ姿の光太郎が竜馬に見える件。
なぜパジャマと言うと決まって、縦ストライプで前をはだけてるんだ。
Posted by カゼ at 2009年04月09日 23:40
>>カゼさん

コメントありがとうございます!青さんのおかげでようやく読むことがかないました。

>本当にウルトラシリーズのコミカライズは、はっちゃけてますよね。

一峰大二のウルトラマンとかも、とっても律儀なんですが、律儀であればあるほどキますよね…
今はどうかは存じませんが、当時の円谷はほんとうにおおらかだったんでしょうねえ。今ほどスポンサーのおもちゃメーカーもうるさくなかったと思いますし。

>若木書房コミックメイト版(昭和48年初版)でも、光太郎の名前は「あずま」とルビがふられてます。

情報ありがとうございます!
吹き出し内のセリフの書き方が「小学館書式(吹き出しの中に「、」「。」がある、「私」のルビが「わたくし」)」なので、多分サンデー連載時からいじってないのかなと思います。小学館の編集者が間違ったんですかね。

>それにしても、パジャマ姿の光太郎が竜馬に見える件。
なぜパジャマと言うと決まって、縦ストライプで前をはだけてるんだ。

実は本文で書こうと思いましたが、「お前はどれだけゲッターチームの縞パジャマ萌えなんだ」と言われそうで自粛してみました。コメ欄で書いたら一緒なわけですが。
当時の漫画では、「パジャマと男子ガラパンは縦縞」というのがほぼ記号でした。でも普通はボタンは止めてますね。
賢漫画のみなさんがボタン止めなさすぎですよw
大体光太郎はともかく、なぜケンちゃんまでも前全開なのかと。誰が得するのかと。
Posted by 大道寺零 at 2009年04月10日 10:20
>子供にとって一番イヤで白けるのは、
>「子供扱いされる」
>「子供だと見て手心を加えたり教育的修正を加えられる」
>ことだったりもするのだけど

…この一文で、ふと、宮内洋氏の「ヒーロー番組は教育番組である」論を思い出しました。
Posted by nanashi at 2012年10月26日 00:55
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