2009年09月03日

御禿講演雑記

「僕にとってゲームは悪」だが……富野由悠季氏、ゲーム開発者を鼓舞 (1/6) - ITmedia News

記事名通り、6ページに渡る長い長い講演記録。
長いんだけれども実に面白い。

記事タイトルはかなり意図的に扇情的な部分を切り取っているのだが、この人は本当に、最初「聞き手が必ず不愉快になるであろうこと」を言って、「なんだと」と思わせ、注意を大いに引き付けておいて、最終的には胸にストンと落ちるような話をするのが本当に上手い人だ。
内容としては、実際にゲームやプログラム、映像業界に生きる人にとっては多少筋違いだったり思い込みの産物のような部分があるのかもしれないが、業界を問わず誰しも考えさせられる、興味深い内容だと思う。

この人のパーソナリティ、というか話法も、根本的に「上から好きな事を好きなように」という芸風は変わらないのだけど、例えば10年前あたりと比べてみると、当時はもっと「ムカッと来させて終わり」なキャラクターや話し方・書き方だったように記憶している。
そうして見ると御禿も、年とか経験と共に色々変わって来てるんでしょうなあ。
70近くになってまだまだそんな風に変われるってこと自体、流石だなあと思う。

とにかくどのパートも興味深く、見方次第では、「上っ面じゃないもう深いところで、でも言っているのは感情論」に見えなくもないのだが、逆のその一般論っぽくないところがイイと言おうか、実にこの人らしいと言うか。絶妙。

いずれにしろ、こんな風に深く、あるいは突き刺すような視点でずっと状況を見、自分なりに対応してきた人だからこそ大きな制限・制約数々の傑作を作れたのだろうし、その多くがいまだに(作画・技術的な面ではなくもっとマクロな物語とかドラマ性とか、あるいは気概的なものとして)乗り越えられないほどの作品にもなり得ているのだろう。とか、色々感じた。

個人的に最も印象的だったのが、「昔はテレビの世界での映像制作が、映画に比べていかに底辺の仕事とみなされていたか」という部分。
現在の「邦画がテレビに食わせてもらっている」ような状況からは想像もつかないような話である。
同様のことは以前にも色々な形で見聞きしたことがあり、知ってはいた。特に昭和40年代周辺は、各社でその劣悪な労働環境や低い賃金に対して激しい労働争議や強制解雇が相次ぎ、文字通り戦争のような状況もあった。

近年、「特捜最前線」や初期必殺シリーズなどの70年代ドラマ作品を見ているのだが、本当に面白い。こういったドラマ系に限らず、バラエティにしても、製作側の尋常じゃない気合とか、言葉にできないマグマみたいなものが体にダイレクトで伝わってくる感覚がある。
スポンサーや視聴者・大手事務所の機嫌を伺い、クレームを恐れて、幽霊の屁みたいなバラエティしか作れなくなってしまった今のTV界と、同じ業界とはとても思えない、もっと製作者の生の気迫とか感情とか、形容しがたい何かが渦巻いているような。それは時間を経ての思い出の美化とか、そんな言葉では済まない、否応なしに肌に刺さってくるようなものだ。

ふと、当時の作り手に、---当然ガッツとか、0から新しいものを作る面白さもあったのだろうけども、そういうものだけでなく、富野氏の語った拭い去れない劣等感とか悔しさとかルサンチマンとか、そういったものが大なり小なり誰もが心の底にあったからこそ、あそこまでのパワーが出せたのかもしれない、とふと思ったのだった。

それにしても、70過ぎてもまだまだこんなに目が離せないなんて、この人はホントに、ムカつく言動も多いけど、素敵な人ですよ。なんか悔しいけど。


posted by 大道寺零(管理人) at 17:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記
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