2009年10月01日

小林まこと「関の弥太ッペ」漫画

「大衆文学の父」と名高い「長谷川伸」をリスペクトして始まったシリーズ第一弾。
名作をベースに多少ストーリーをアレンジしつつ、これまで小林漫画に登場した主役・脇役取り混ぜてのスター・システムで進行するという形で、ファンには二度美味しい企画。

第一弾の映えある主役は、「柔道部物語」の三五十五。そしてその彼女・原田ひろみちゃんがヒロインをつとめる。

こういう股旅もの、アウトサイダーものというのは、次郎長系エピソードなんかも含めて、ある時期までは子供でもメジャーなキャラクターや物語を知っていたものなんだけども、もうほとんど見られなくなってしまったジャンルでもある。
何しろ私の世代ですらほとんどリテラシーがない(森の石松の名前くらいは知ってるとか、木枯らし紋次郎なら再放送で見たとかそんな程度)し、今時次郎長ものとかやっても数時も取れないし、ややもすれば「ヤクザや不法行為の賛美」と言われかねないご時世。
唯一?まだ一線なのが演歌の世界で、氷川きよしが「番場の忠太郎」とかを歌って頑張ってたりする。そういう大衆演劇な舞台をやってた新宿コマも今はないんだもんね…
「瞼の母」あたりはまだチョイチョイ上演されてるようだけども。
逆に言えば、だからこそ1からまっさらな、新鮮な物語として読めるかもしれない。

前置きはさて置いて、この一冊は期待以上に面白いです。小林まことが好きな人なら間違いなく買い!と断言してしまいたい。
「柔道部物語」の頃とは、人の顔のバランスなんかも若干変わった今の小林まことが、髪の毛のある大人の三五くんを書くとこうなるんだな、とちょっと感無量。カッコいいです。やっぱり彼は千両役者ですなあ。
人斬り股旅というアウトローながら、愚直なまでに義理堅い弥太ッペと、くそ真面目な三五はまさにベストマッチ。
因縁のライバル、西野新二も登場し、二人のバトルシーンは気風のいい啖呵も相まっていい出来です。

旅の途中、懐中の五十両を奪われた弥太郎(通称:関の弥太ッペ)は、その盗人を追い詰める。斬り合いの末に敗れた盗人は、娘をある宿場の旅籠に連れて行ってほしいと弥太郎に託し、「盗人に身を落とした自分がいては娘の触りになる」と自ら身を投げて死んでしまう。
事の仔細を記した手紙は、刀傷のせいで血に塗れ、もはや読めなくなってしまっていた。
まだいとけない娘・お小夜に同情し、また彼女を孤児にした責任を感じた弥太郎は、頼まれた通りに、宿場の旅籠「沢井屋」に彼女を連れて行く。
実はお小夜は、10年前にこの家を駆け落ちして出た娘の子供、つまり女将から見れば孫娘なのだが、弥太郎も女将もそれを知る由もない。当然ながら「素性の分からぬ子供など引き取れない」と突っぱねられる。
弥太郎は業を煮やし、「向こう十年の世話賃だ」と啖呵を切り、五十両を押しつけるようにして差し出し、勢いに負けて女将もお小夜を養女とすることに同意する。
踵を返して下総に向かう弥太郎。しかし彼がお小夜のために惜しげもなく出した五十両は、彼と親友の首を賭け、命がけで稼いだ金だった。
彼はひとり呟く。
「殺されに……下総まで行くか……」


調べてみると、小林版のストーリーは、元の戯曲とも映画版ともそれぞれに違ってるんですな。
細かい比較は、漫棚通信さんのレビューがとても詳しく、分かりやすいです。ラストなんかも含めて爽やかで、三五らしくていいと思いました。
(当然ネタバレありですのでこれから読む方はご注意)

脚色とは 「関の弥太ッぺ」の場合: 漫棚通信ブログ版

そしてこの作品を読んで、映画版も見たくなって来た私です。

途中、ほんの数ページなんだけども、「番場の忠太郎」役で三四郎も登場。
顔のカットはほんとちょっと。でもやっぱり三四郎はいいね。
三五が千両役者なら、彼は間違いなく万両役者。
今は「沓掛時次郎」執筆中とのことですが、そのうち彼が主役で「瞼の母」が描かれるのだろうと思うと楽しみです。

「出演者」の面々も、さまざまな作品を読みこんでいるつもりでいて、名前だけだと「……誰だっけ?」と首をかしげざるを得ないようなちょいキャラも入っていて、それを思い出すために旧作を引っ張り出してくるのもまた楽し。
ええ、私もまんまと「柔道部物語」を久々に読み返すことになりましたよ。やっぱり名作。

表情の豊かさやシュアな描線はさすが小林まこと。
ただ、いかにもデジタル処理しました(あるいは素材?どうなんだろ)と言う感じの背景(特に樹木や山など)が所々目立つのはちょっと残念か。さほど気になるわけじゃないけども、ファーストシーンとかでちょっと浮いてしまってる気がする。やはり写真っぽいトーン処理より、手間はかかるだろうけどペン画主体でお願いできたら最高。

細かいことを言えば、あれほどスーパーインパクトな眉毛の三五の顔を、10年経ったからと言って忘れたりするものだろうか?という疑問はないでもないが、そこは目をつぶるべきでしょうなw

それにしても、芸歴が長く、ヒット作も定期的に飛ばして今や大御所になりながらも、ここでまた新たな世界に挑戦する小林まことの姿勢に拍手を贈りたい。
これだけの実績があってなお、「老害化なんかしてるヒマねえ」とばかりに漫画を描くスタンスに惚れ直しました。
posted by 大道寺零(管理人) at 17:22 | Comment(3) | TrackBack(0) | 漫画
この記事へのコメント
「柔道部物語」大好きです!
知っている人が周りになかなかいなくて・・・

とっても おもしろいですよね?
零さんは読んでいらしたんですね(*^_^*)
Posted by ひらめ at 2009年10月03日 10:27
連載中は楽しみに読んでたけど、キャラ探し楽しいね、確かに。
三四郎の存在感はスゲーですな、相変わらず。
氷川きよしの新曲がどっかで聞いたことのある名前だと思ってたんだが、三四郎の役だったんだ。

ラストがちょっと唐突に終わってしまうのが気になりますが、原作はどうだったんですかね?
Posted by eng at 2009年10月03日 18:50
>>ひらめちゃん

柔道部物語は超名作ですよね〜。
確かに女性でこの作品(というか小林まこと作品)について語り合える人ってなかなか見つからないんですよねえ。すごくオーソドックスな漫画を描くので、老若男女問わないんですけど…
「厳しいながらも部活でないと味わえない楽しさや醍醐味」をこれ以上描きだした漫画はそうそうないんじゃないでしょうか。
私は鷲尾さんと、力が入ると笑った顔になる内田くんが大好きです。

>>engさん

ほんとに名前を聞いても「…誰だっけ?」ってくらいにちょいキャラを入れて来るのが面白いです。昔の作品のキャラだと、小林まことの絵も変わって来てるのでまた探し直すの楽しいですね。

原作戯曲版のラスト、映画版のラストはリンクした記事に書いてありますが、どちらも最後に1バトルある展開なんですね。
森助も追手も斬らずに済ませたのは小林版ならではのアレンジのようですが、言われてみれば確かに
「これ以上人を斬るのはやめて」
というお小夜の言葉に呼応しているのだろうな、と思えます。
Posted by 大道寺零 at 2009年10月05日 16:55
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