2009年12月02日

ヒューマンシステムアニメ

人形劇「新三銃士」を相変わらず楽しく見てます。
勿論心の恋人アラミス様の活躍も楽しく見ておるわけですが。
CVが江原正士さん(クレジットには無いけど、リシュリュー枢機卿もこの方ですね)で、この方はアニメに洋画にと幅広く活躍なさってる方なので、キャストクレジットでも非常によくお見受けする名前で、確かに耳にも覚えがある。
さて私にとってこの人の、このモードの声で一番印象に残ってるキャラって誰だっけ、思い出そうでピンと来ない……

と思いながらwikipediaで調べて、すぐに分かった。
あーそうだそうだ、OVA「ジャイアントロボ」の呉先生と丁度同じ感じの声なんだ!!

それに気付いた時、人形劇の中でも滅茶苦茶頼りになる「理知の人アラミス」に、あの呉先生の名物「しまったー!私はとんでもないミスをしてしまったー!」が覆いかぶさって、ほんのちょっとだけ頼り甲斐指数にマイナス修正がかかったりは……まあ、しないけど……
今後ついつい呉先生を思い出して、少しだけ複雑な気分になることがあるかもしれない……

江原さんのこと、調べなければよかった、かもしれない……

OVAジャイアントロボの呉先生(ファンからはもっぱら「誤先生」と呼ばれる)がどれほど頼りない方かは、色々なところで感想等の形で書かれているんだけども、ニコニコ大百科の説明がそこそこ簡潔でした。

国際警察機構北京支部に所属するエキスパート。通称は「智多星の呉用」。北京支部の頭脳であり、作戦の立案は主に彼の手で行われる。また、参謀としても活躍。
――しかし、思い違い・勘違い・読み違いが非常に多く、その度に「ああ、私はなんというミスを〜っ!」と叫ぶ。故に人は彼をこう呼ぶ、「誤先生」と。

泣く。かなり泣く。その泣きっぷりは最終話にて「呉先生、また泣いてるのかね」と中条長官に言われるほど。

呉学人とは (ゴガクジンとは) - ニコニコ大百科

勿論、いつもダメってわけじゃないんです。
普段はそれなりに切れ者なところを見せてくれるし、上の記事にある通り、巨大扇子でそこそこ戦えたりもしちゃいます。
ただ、何分にも敵の強さとか能力が異常すぎる。
加えて何よりも、ここ一番でポカをする。
そして叫ぶ。「私はなんというミスを〜!」。

大袈裟に、時間と手間をかけて準備した作戦ほど功を奏さず、時にその発案者や識者がマヌケにすら見える、というのは今川作品でよく有るシークエンスで(チェンゲ隼人もそれをしょわされてるケがある)、呉先生ばかりのせいじゃないんだけども、それにしたってやっぱり一番際立ってる。
そんなズコー具合が呉先生。

ただし、このがっかり軍師っぷりは、別に単体で呉先生の責任でもないのです。
呉先生の場合、原作、というか出典元である「水滸伝」でも相当似たような役回りなのです。
つまり、普段は梁山泊で貴重な軍師キャラとして知恵を巡らすが、ここぞという時にドカンとミスを食らわせるという、メガトンうっかりドジっ子キャラ。「水滸伝」でもそうなんです。

中国語読みをすると、「呉用」は「Wú Yòng」となり、これは「無用」の読みと同じなんですね。
そしてやっぱり、本家中国でもこの人の「要所に限ってダメ軍師」な有様はこれでもかと浸透しているわけで……
現在では「梁山泊軍師」と言うだけで、「無用」「役立たず」「使えない」という意味を示す言葉として定着しきったそうです。エーベルバッハ少佐的に言えば「アラスカ行き要員」ってやつです。
(参考:中国語落穂拾い
そのぐらいパンチのあるうっかりキャラなんです。

「ジャイアントロボ」では、戴宗は人間発電機だわ、楊志は全身真っ青な大女だわ(あ、もちろんみんな好きなんですけど)と、ものすごい能力ドーピングや設定改変が付与される中、性格含めてわりと原点に忠実だというのは実はすごく少ないので、貴重だなあと。
(あ、鉄牛ですか?ものすごく人間ぽくなっててビックリしましたYO)

そんなわけで今日は、「呉先生の誤先生っぷりは、OVAオリジナルじゃなくて原典もそうなんだぜ」とまとめようと思って書いてます。
うん、まさか呉用のことを改めて書く日が来るなんて思ってもいなかった。そしてきっと、もう二度とない。


ここからはOVAを離れて原典「水滸伝」の話です。

呉先生こと呉用は、梁山泊好漢の中でも序列は高く、三位にマークされてます。

姓は「呉」
名は「用」
字は「学究」。
道号(学者としてのペンネームみたいなもので、これに「先生」がついて呼ばれたりする)は「加亮」。

この「加亮」という道号の「亮」は、かの「諸葛亮孔明」の「亮」らしいです。
つまり「孔明をさらにパワーアップ、バージョンアップしたほどに頭がいいよ」ってニュアンスです。おこがましいですね。
「ジャイアントロボ」では、その孔明も登場し、ケチョンケチョンに手玉に取られることを想うと、なかなか意味深であります。
さだめの星は「天機星」。
その他に、まだカタギのうちからのあだ名が「智多星」なので、この二つを混同して「あれ?ナニ星だっけ?」と迷いやすい。

もともとは、宋江じゃなくて晁蓋がスカウトした人物。
その前は田舎で書生をやってて、主に兵学を究めていたという設定。
宋代では、一定以上のインテリやエリートは科挙に臨んで官僚へというコースが一般化していたので、科挙関連の話が出てないという事は、実は大したことないというか、「田舎の秀才」レベルだったのかなとぼんやり思うこともあります。個人的な感想ですが。

生辰綱(宰相へ送られる誕生祝いの財宝)強奪計画をきっかけに晁蓋にスカウトされてデビュー戦。ちなみに無辜の役人だった楊志は、これをきっかけに無理矢理に梁山泊に引っ張り込まれます。可哀想。
以後、梁山泊の懐刀・頭脳担当として活躍するようになるんですが、もっとも重要なお仕事の一つが「人たらし」、つまりメンバー集め。
多士済々、武術の達人は勿論、酒造り・裁縫の達人(本当にいます)に至るまで、全員をチェックすると「職工集団なの?」と言いたくなるほど多彩なアビリティを持つ人間を集めたのは、彼の手腕に依るところが多い。
「人たらし」というとまだ聞こえがいいかもしれない。呉用や宋江の人間的魅力を持って引き込んだり、「梁山泊はイイよぉ〜?酒は上手いしネーチャンはきれいだし」と甘言でたぶらかすならまだしも、そのほとんどの案件は詐欺、そして拉致監禁だったりする。
原典の呉先生とOVAとの大きな違いは、この腹黒さと言えましょう。

そして、呉先生のもっとも有名な「ズコー」話が以下のエピソード。

その頃、まだ梁山泊の首領となる以前の宋江は、江州にいた。
身分は囚人なのだが、腹心の戴宗がそこの牢役人だったり、周囲の人間が何かとホレホレしてくれたおかげでそれなりにお気楽な生活を送っていた。
その時、料亭に入り、酒は美味いわ料理も景色も絶品で、ほとんどのオッサンがそうなるように、急に気がでっかくなっちゃった宋江は、その壁に風刺、というか国家反逆さえ匂わせる狂歌を書き付けてしまう。
それだけでも充分なDQN行為なのだが、この人のアホなところは、ご丁寧に詩の最期に「宋江作」というサインまで入れてしまったことだった。お前はmixiで名前や所在地晒して悪事自慢するバカと一緒なのかと。
この人とにかく全編を通じ、「何も考えてないのでは」と思わせる行為が目立つのでした。

そして翌日。
当の宋江は、二日酔い状態で、自分のやらかしたことをちっとも覚えちゃおらず、とっさにキチガイのふりをして逃れようとするがかなわず、牢役人をしていた戴宗のとりなしもむなしく捕まってしまった。
色々とタイミングの悪さも重なり、宋江は国家反逆をそそのかし、死に値する重罪人として再逮捕。死刑が決まってしまう。

戴宗から事情を聞いた呉用らは宋江を救い出そうとして策を練る。
当時の宰相は蔡京(実在の人物。水滸伝では極悪人として描かれる)。そして江州の知事はその息子。
戴宗はその足の速さを見こまれ、知事から宰相への手紙を運ぶ最中だった。
呉用たちはそこに目を付ける。

「蔡京から息子である知事に宛てたニセ手紙を作ればいい。
 内容は、『宋江は首都で処刑するから、そこまで護送しろ』ということにする。そしてその護送中を狙って宋江殿を奪取してしまおう。」

という計画を発案。
そのためには、本物と寸分たがわぬ書状を偽造しなければならない。
必要なのは、蔡京の筆跡を完璧に真似た書状、そして本物そっくりの印鑑。
当然そんなスキルは呉先生にも周囲の荒くれ者にもある筈がない。
じゃあどうするか?
そんなとき呉先生はいつもこう考えるのです。

「それができる人間を拉致して仲間にすればいいじゃない」と。

済州には、彫刻・印刻(つまりハンコ作り)の名人・金大堅と、能筆家で知られる蕭譲の二人が住んでいました。
二人は同時に泰山の道士に呼ばれ、腕を見こまれて碑文の作成を依頼されます。
泰山に出向く道中、二人は揃って拉致られ、梁山泊に強制連行されます。
実は二人を呼んだ「泰山の道士」こそ、戴宗の変装した姿でした。

この二人が拉致された目的は一つ、上記の「ニセ手紙」を完璧に作らせるため。
当然最初は抵抗しますが、
お前たちの家族も同時に拉致ってこの梁山泊にいるんだ。大体もうここに来た時点でお前らもう山賊逆賊扱いになるんだから、もう諦めなHAHAHAHA。

まさに外道。

でもまあ、呉用に何となく言いくるめられ、「どうせあのまま真面目にやってても、チョボチョボ石碑彫ったりするだけの地味な暮らしだもんな」と、意外にあっさり納得して、仕事にとっかかる二人。
宰相の筆跡を完全に真似、文も印章も呉用の指示通り完璧に完成。
さっそくそれを戴宗に持たせて江州知事の元に走らせます。

これで首尾は上々と喜ぶ梁山泊の面々。
しかしなんとなく画竜点睛を欠いたような、嫌な予感が拭えない呉用。
その不安を和らげようと、拉致られ組の二人が励まします。

「軍師殿は心配性ですなあ。私の筆跡模写は完璧です。たとえ蔡京本人が見たとて、偽物だとは気付きますまい。」
「私の作った印章だって、蔡京が実際に使っているのとまったく同じ仕上がりです。あいつの公印を実際に見たこともあるんですからご安心くださいな。」

その「公印」という言葉で、呉用の全身に電撃が走ります。
そして叫びます。あの決めゼリフを。

「しまったー!!私はとんでもない間違いをしでかしてしまったぁぁぁ!!」

そのミスとはつまり、こういうこと。
この手紙は、「宰相から江州知事への手紙」である以前に、「父から子への手紙」という私的なもの。
私的な手紙と公文書では、印章の内容が微妙に違う(自分の名前を示す部分で、公文書や目上への私文書では諱(忌み名)・目下への私文書では字を用いる)のだが、呉用は公文書用の印を作らせ、押してしまったのだった。
案の定、この印刻のミスが原因で計画は露呈し、宋江は更なるピンチに追い込まれてしまう……というのが一連の顛末。

初見の時はもう、体がリアルでのけぞるほどに「ズコー」ってなりましたよ。
恐らく水滸伝全編を通じて、一・二を争うズコー場面ではないでしょうか。
わざわざ善良な職人二人の道を無理矢理逆賊にエントリーさせておいて、仕事を完璧にさせた上で「勘違いしてた!」はないだろうお前、と。

こうしたドジとか、後先考えない行動とか、すぐに理性のタガが外れちゃう仲間とか、WindowsMeなみのヒューマンエラーの連発が醸し出すユルさが、水滸伝の醍醐味であり、慣れればなんとも言えない味なんだけど、同時に「三代奇書」に名を連ねながらも三国志ほどBIGになれない要因でもあります。
「何これ……」と、途中で放り出す読者が多いのも納得できるというか。

この後呉用先生は幾多の場面で、首尾よく事を運んだかと思えばやっぱりポカしてズコーなシーンを幾つか提供します。
最終的には宋江が死んだ後に、首を吊って後を追います。
こんな自信過剰な割には間抜けな呉用先生ですが、そもそも晁蓋に付いて来た割には、終始一貫して「宋江好き過ぎ」というほど盲目的に献身し、最期も殉死という形で終わるのでした。




初めてOVAで呉先生の「私のミスだ!」を見た時、私は正直感動しました。
「あ、ちゃんと原典の呉先生のキャラが生かされてる!」と思ったからですし、今もそう思ってます。
そしてOVAの世界観にも「宋江」の存在は示唆されていますが、この話では実際には当然存在していません。
呉先生の「中条長官好き過ぎ」な部分も、原典の「宋江好き過ぎ」な部分へのオマージュか?とも思ったんですが、もしあの後、OVAシリーズが続いたと仮定して、その中に宋江が登場してもきっとあそこまでの好き描写はなかったんじゃないかな、と個人的に思っています。
つまりあれは、「単に呉先生と長官がアヤしい、というか既にデキてる」としか考えられない。
別に腐的な観点で言ってるんじゃないんです。特に外伝見た人ならば、「宴席で見つめ合って頬を赤らめる」あの場面に、一種「見てはならんものを見てしまった」気分を抱いた共通体験をお分かりいただけるのではないかと……
どうもオッサン同士とか、ジジイを絡めて赤面させる(味っ子でも、味皇様が陽一くんの包丁傷を舐めて、陽一くんが赤面する場面とかあったよね…)とか、明らかにアレな雰囲気を醸し出すのは今川監督のお家芸なんだよなあ。





posted by 大道寺零(管理人) at 17:14 | Comment(2) | TrackBack(0) | アニメ
この記事へのコメント
水滸伝と言えば、最近ジャンプでやってた奴が梁山泊に主要メンバーが集まる前に打ち切られてましたなあ。

天地を喰らうが初三国志だった自分としては、アレが初水滸伝だった年少読者が、水滸伝にどういう印象を持ったのかが気になるところです。
Posted by SINOBU at 2009年12月02日 18:31
>>SINOBUさん

水滸伝は話の構成がスロースターターというか、役者が揃って盛り上がるまでに時間がかかるんですよね。その辺も構成次第なんでしょうけど、どうしてもその前に打ち切りとかになりがちです。
そして揃ったら揃ったで、リーダーの魅力が非常に難ありというのもアレなんですが。

水滸伝に限らず、有名原作物は、翻案やりライト版などが多数ある分だけ、「最初にどれと出会ってファーストイメージを作成するか」が後々響くよなー、と思いました。
そういう意味では三銃士なんかもそうですよね……
Posted by 大道寺零 at 2009年12月05日 14:57
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