面白かったです。
やっぱり神山攻殻(S.A.C)は、骨太な中にも色々と程良くて好きです。
絵柄の見やすさ、話とかテーマ、そして会話の分かりやすさとテイスト、全てが程良いバランスで、見ていてストレスがない。
この「程良さ」というのは、言ってみれば、
「これより難解になると、話本体だけじゃなく、何らかのサブテキストとか別添の解説が無いと理解できん」
「2,3回は見直さないと話や会話の意味が分からん」
というラインの一歩手前で踏みとどまった上で、しっかり製作者が持っているテーゼとか表現したいものが伝わってくる作り……かと思います。
要するに、「1回の視聴で大体分かる」。
これ、攻殻においてはかなり貴重なことなんじゃないかと。
勿論、複数回見直したり、サブテキストに触れることでより理解が深まったり、「このシーンとか伏線、会話にはこういう意味があったのか!」という再発見もバッチリとあって。
それがS.A.Cシリーズに通底する魅力じゃないかと思うのであります。
しかしこの劇場版、どうしてもYMOに引きずられて、
「ソリッド・ステーツ……サヴァイバーじゃなくて何だっけ?」
となってしまい、正しいタイトルを思い出すまでに数秒要してしまうのは私だけだろうか……
「2ndGIG」から2年後、という設定の世界観。つまり素子がいない9課ですが、メンバーに大きな変動はないものの、色々様変わりしてます。
トグサがチーフ的位置になっていたのがすごく意外で、でも貫禄も出つつあってカッコよくなったなあと。
その一方で、独断専行モードのバトーとの微妙なやりづらい空気なども細かく描写されていて味わい深いものがありました。
もう「青二才とダンナ」じゃないんだなあ、と。(でも一回くらい「ダンナ」って呼んで欲しかった気もしないでもない)
色々抱えつつもリーダーとして頑張ってる姿、しばしば見せるマイホームパパな優しさとか、すごく印象に残る場面が多かった。
そしてサイトーかっこいいよサイトー。
S.A.Cは刑事ものっぽさというか、9課の面々がそれぞれ埋没せずに魅力的に描かれているのがとても好きです。
その中にあってボーマとパズの「空気度」がいや増してるように思うのはきっと気のせいではない。
そしてS.A.C……というか神山監督の他作品でも強く感じるんですが、今回の話のテーマなどは特に、一貫して意識が「他者」とか「多」「社会」に向いているよなあ、と改めて実感。
これは押井攻殻の落とし所が、「自我・自意識」や「個」に収束しがちなのと非常に対照的なんじゃないかと。
無論そっちも閉塞ばかりしているわけではない(その閉塞感が独特の魅力とも言えるのだし)んだけども。
強引に言うならば、押井守が「接続・拡散の先」として捉えているものが「世界」ならば、神山監督の場合は「社会」を持って来る……
私の中ではそういうイメージがあります。
持ち込まれるモチーフやテーゼが非常に今日的でリアルだからというのもあるんでしょうけども。
そしてそれゆえの分かりやすさもあるのかもしれない。
いずれにせよ、「2ndGIG」ラスト後の状況を一度リセット、もしくはクリアランスするストーリーとも言える内容で、これをブリッジとしていつでも「S.I.C 3rd」が作れる土台が出来たという意味は大きいんじゃないでしょうか。
そろそろ見たいんだけどもなー。3rdシリーズ。
そう言えば先日、絵チャでわやさんから、「攻殻ってどの順番で見ればいいのかしら」という話を振られたのを思い出した。
その時には「押井版とS.A.Cは世界観が繋がってないから、それぞれの系統で見たい方を順番に見ればいいんじゃないかな」程度にしか答えられなかったんだけども、ファンサイトに一応の世界観解説図があったので参考にどうぞ。
*攻殻機動隊 S.A.C. まとめサイト-はじめに
個人的には、全てのシリーズの基本テクストであり、多くのシーンで様々な形にオマージュされている
・原作1作目
をまずは最初に読んでおくのがお勧めかなあと。
電脳・擬体や、情報とアクセスするときのビジュアル描写など、基本的なタームやその表現、言ってみれば基本文法を掴むにはやはりこれが一番ではないかと思います。
その後で、世界観がほぼ通じている押井1作目(通称GIS)を見るもよし。
また、「人形使いと素子が邂逅しなかったパラレルワールド」と認識したうえで、S.A.C→2ndGIG→S.S.S(この劇場版)と進むもよし。
原作1.5と2はいつでも好きなタイミングで。
「イノセンス」は、個人的には見ても見なくても(ひでえ)と言った感じですが、まあこれも好きなタイミングで見ればいいんじゃないかなと。9課と素子の立ち位置、距離感は1.5と共通するものもあるけども、特に読んでおく必要まではないでしょう。
そんな感じっす。
全体的にはS.A.C系統が色々楽しめてお勧めであります。
何回見ても泣けます。
その直前の、車内でのバトーとの会話もいい。
S.A.Cシリーズで、原作と比べて一番かっこよくなったのは荒巻だと思う。
3rd見たいっすね。
東のエデンが一段落ついたら作ってほしいです。
あそこは泣けますよねー。ちょっと台詞聞き取りにくいのが惜しい……
原作から読んでると、「えっ殿田さんこんなになっちゃったの、でも趣味は相変わらずなのね……」と、色々感慨深いものがありますな。
そうそう、SACシリーズで一番カッコよく出世したのが課長じゃないかと私も思っておりました。
何というか、掘り下げが深くなって、かつ、製作者の描くテーマと視聴者の橋渡しの役割をしてくれてる感じがします。
SSSでは、テーマがテーマだけに、擬体なので色々融通利くだろうけど、一人既に「老い」の領域にある荒巻課長は、内心色々と、課員には分からんことを感じたり考えたりしたり、するんじゃないかな……と思わせる話の奥行きがたまりません。