2006年10月02日

散所と山椒と四つのこと(2)漫画

さて、放送禁止(差別)用語としての「四つ」のこと。
「四つ」とは、「被差別部落、その出身者」を暗喩するものとして忌避される言葉で、「四辻」「四つ足」などが放送禁止用語リスト入りするほか、「四つんばい」などの言葉も出版界ではできるだけ避けているらしい。

この言葉の困ったところは、ごく通常の数詞でもあるため、文章の上でも窮屈だし、何より言葉以外の表現にも大きな影響を及ぼすということなのだ。

かつて小林よしのりが、編集側の自主規制によって「構図上どうやっても4本しか指が見えない場面なのに、無理矢理もう一本描き足すように要求された」ということを「ゴーマニズム宣言」に書いていた。いしかわじゅんも、NTTの依頼で執筆した折に、「電話を持つ手の指がどの角度から見ても五本指に描くように」と要請されたという(これはNTTの広告媒体で使われるイラストやマンガに共通のマニュアルらしい)。

有名なところでは、原作では指四本の「ドラゴンボール」のピッコロ大魔王は、アニメ化の際に五本指に変更された。また、「怪物くん」も同様(白黒アニメでは四本、カラーアニメでは五本。新版単行本の表紙でも五本指になった)。

TVでも、「四つめー!」「今週の第四位は!」などという時に、「指を四本立てる動作」は避けているし、教科書でも、「リンゴが4つ」とは書かず、「4個」と書くようにというルールがある。

一番の被害は、ちあきなおみの「4つのお願い」という歌だろうか。タイトルのためだけに、なんと一時放送禁止扱いになったという

ここまでに「四つ」という言葉がタブー視される理由には、いくつかの説がある。(見苦しい言葉が多く出てきますがご了承ください)

1:「四つ足」説

A:家畜の屠殺や食肉加工、皮なめしなどに従事していたので、「四つ足相手の仕事」という意味で

B:人間以下、畜生なみの存在であるという意味で

2:「四本指」説

A:五体不満足で常人以下の存在であるという意味で


知っているのはこのあたりだったのだが、もしも先のエントリーで取り上げた「四本指→散所」説のような見方があるとすれば、2−B説として

B:かつてまつろわぬために指を切られ、隔離された民の末裔として

というのもあったのかもしれない、と思ったのだった(ただ、説自体の根拠・信憑性に疑問があるのでちょいとアレだが…)。

その他、「四つ」に関する規制や犠牲になった作品などについては、こちらに詳しい。(放送事故タレコミコーナー【放送禁止用語も大公開】の中央から下あたり
リライトされる3本指と4本指」)
大相撲の「左四つ」「右四つ」まで槍玉にあがったとは……

また、「覚悟のススメ」で、親指を折り、四本指を立てて「4鬼!」と言うシーンでも、親指を立たせ加減に描きなおす自主規制を編集者に強要された(文脈に明らかな矛盾があるが、もちろんワザとですよ)。
この編集者、実は事前に「表現として問題ないか」と関係団体に問い合わせて「セーフ」のお墨付きをもらったにも関わらず、リテイク要請に至ったという。

放送禁止指定とかリテイクのほとんどは、実際にクレームが入ってのことではなく、「入ったらヤバいから」ということで行われる過剰な自主規制によるものだということが、「覚悟のススメ」の例でもよく分かる。

現在、四本指のキャラクターでそのまま露出しているのは、ミッキーマウスやパタリロくらいのものか。
もっともパタリロは、原作で「普段は指を一本隠している」と言っていたが(そしてその話は三本指の宇宙人が出てくるせいか、文庫本ではカットされているらしいのだが)。

「怪物くん」は主人公の怪物くんだけでなく、ドラキュラもフランケンも4本指だ。人間じゃないから別にいいじゃねーかと思うのだが、逆に、人間じゃないからまずいのかね。対偶を取ってクレーム入れられたらたまらんということか。

……多い分には雑誌掲載アリだというのに…
posted by 大道寺零(管理人) at 15:43 | Comment(4) | TrackBack(0) | 漫画
この記事へのコメント
妖怪人間ベムは3本指だから関係ないっすね。
新作アニメ版では5本に修正されてるみたいっす。
Posted by 鉄郎 at 2006年10月03日 00:00
>鉄郎さん

>妖怪人間ベム

ところが、ベムも一部セリフやシーンカットがあるみたいですね。あんなプロセスで出来た連中なんだからいいんじゃねーかと思うんですが。要するに「足りないとマズイ」みたいな感覚のようですね。
Posted by 大道寺零 at 2006年10月03日 01:12
うちの親も片手が四本でした。若い時分に事故で落としたそうで。
まつろわぬ、で思い出したのですが、以前読んだミステリに、西藏自治区の強制労働収容所では、体制にまつろわぬ仏僧の親指(祈る動作に必要不可欠な指)を切るという話がちらと出てきました。物好きにも原書で読んだので、うろ覚えすいません。http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/415172351X
情報ソースとしては弱いですけどね。痛。
逆に指多いのは、秀吉が有名ですかね。大河でそういう秀吉出して…くれないか。
Posted by いしのいぬ at 2006年10月03日 10:29
>いしのいぬ師匠

>仏僧の話
おお、これまた興味深いですね。ありがとうございます。
指の件で思ったんですが、もしそういう処分を受けたとして、多分「隔離されて独自の生活を送る」人々だったんじゃないかと思います。自分達と同じ集団・あるいは近い集団で生活して、労働させられたりする立場の賎民であれば、指を切るということは労働力を低下させることになるでしょうし…
ですから、落人とかサンカ的なイメージがあるのかもしれないと思いました。

>秀吉
初めて知りました。ありがとうございます。右手の指が六本(多肢症)だったんですねー。ほうほう。
Posted by 大道寺零 at 2006年10月04日 02:06
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