2006年12月13日

俺にはアナログ停波なんかいらない(2)〜高画質とは言うけれど〜地デジに疑問符

前回エントリーが長くなったのでこちらに分け。

地デジの大きな利点として、CMやら公知コメントがやたらと強調するのは、「とにかく高画質」「何よりハイビジョン」という点だ。
だが多くの宣伝活動において、「地上デジタル=ぜんぶハイビジョン番組」とミスリードを招くつくりになっているのが気にかかる。

既に地上デジタルを導入された方、または導入検討の方はご存知だと思うが、地上デジタルTV放送の全てがハイビジョン画質、というわけではない。「停波間近になってから導入すればいいや」と構えている「様子見派」の消費者には、この事実を知らない方々はまだまだ多いと思われる。

地上波デジタル放送では、「デジタルハイビジョン放送」(HD)「デジタル標準テレビ放送」(SD)の2種類の番組が予定されています。

UX新潟テレビ21 デジタル放送に関する案内のページより)


よくある「地デジではハイビジョンを楽しめます!」という謳い文句。
正確には、

「地デジ(放送のうち、ハイビジョン仕様で作られた番組にに限定して)ではハイビジョンを楽しめます!(ただし、D3以上の端子を持つハイビジョン仕様テレビの場合)」

と、実は但し書きだらけの宣伝文句なのだ。
これは勿論間違いではないが、誤解を招く悪質さとしては、ようやく問題になった「ソフトバンクの0円プラン」とどっこいな気がする(しかもあっちはめっちゃ極小な字で、表示時間も超イントロドンだったとはいえちゃんと但し書きを表示している。)

「放送は2つのモードで行われる」ということと、その違いについては、流石に視聴者とダイレクトに対応する立場である家電メーカーや放送局サイドのサイトでは比較的明確に説明されている。"商材"に関する仕様なのだから当然の流れなのだろう。
問題は、この制度を強制する側である、いわゆる「お上」関係のサイトで、ぼかしたような表現しかしていないことだ。
地デジ放送について知りたいと思った多くの人は、総務省主導の公知CMを見て、Web検索・または直接総務省のサイトにアクセスし、そこから見れる情報をまずチェックするだろう。
しかし、総務省の地デジページやD-paの「地上デジタルの何たるかを説明するページ」には、「ハイビジョン放送・標準放送の2種類がある」ことは明確に触れられていないのだ。

<参考>
地上デジタルテレビ放送って何?
(総務省:地上デジタル放送パーフェクトガイド)
地デジとは?([D-pa] 社団法人 地上デジタル放送推進協会)

両者とも、「標準放送」の存在と、その文言を明確に示しておらず、少々うがった見方をすれば、まるで「ハイビジョン以外の番組の存在を隠蔽」しているようにすら感じられる。

誤解を招いたかもしれないが、「地デジはすべてハイビジョンにするべき」とか、「標準はハイビジョンに劣る存在」と言いたいわけでは決してない。
むしろ、全ての番組が高画質である必要などない。
映画や紀行・アート系の番組などは高画質で見れれば楽しかろうとは思うが、ニュースや天気予報、バラエティや情報番組などがハイビジョンである必要性を感じない。乱れたり汚くなければ十二分だ。(っていうかドラマとかアニメもアナログ仕様のレベルで充分だと思ってる人間なので…)
また、標準放送には標準放送にしか果たせない役割がある。
まずはこの2つの仕様を正しく把握するために整理してみよう。

<地上デジタル標準放送(以下"SD")>

現行の地上アナログ放送と同等(有効走査線480本)

ゴースト、ノイズは除去される
 これは地デジ共通の利点。なので、正常に受信されれば実質的には地上アナログよりも鮮明な映像が得られる。

画面は原則従来の地上アナログと同じ4:3比

音声ハイビジョン同様にCDと同程度の高音質

多チャンネル放送が可能
 アナログ1チャンネル分の帯域でSD番組3チャンネルを送信する事が可能。
 地デジの売りである「マルチチャンネル」を実現できるのは、SD規格の番組だけである。

<地上デジタルハイビジョン放送(以下"HD")>

・現行アナログ放送より数段高画質(有効走査線1080本)
 (ノイズやゴースト除去、音質についてはSDと共通)

・画面は16:9比(いわゆるワイド規格)

・地上デジタル放送要件として、HD番組の放映時間が「1週間の放送時間中の50%以上」でなければならない。

前述したように、テレビ側で必要要件を満たしていなければ、HDをHD本来の高画質で見ることが出来ない。

映像技術については全然詳しくないので、その他詳細は各自でお調べください…

さてと。
まあ、これらのことを踏まえたうえで。
見たい番組がHDで放映されたとする。
で、「ハイビジョン番組をハイビジョンとして残す」ということが、これまた現状では面倒なのだ。
録画メディアごとに簡単に整理してみる(当然ながら、いずれの場合も、チューナー機器とデッキが適切に接続されている事を前提とする)

・VHSビデオテープ
 HD映像としては録画できない(画質・音質共にアナログ標準レベルとなる)
 (「HSモード」下にて、1本に付き2.5時間の録画が可能)

・D-VHSビデオテープ
 チューナー機器とD-VHSデッキをiLINK端子接続すれば、画質・音質ともにHD映像として保存できる。

・デジタル放送チューナー非搭載(従来型)のHD・DVDレコーダー
 HDDへ:HD映像としては録画不能、SD映像として録画可能
 DVDへ:基本的にHDから一度のみ「移動」可能。録画時はメディアがCPRM対応であることが必要。メディア容量必然的にSD映像となる。
 (またデッキ自身がCPRMに対応していることも要件)

・デジタル放送チューナーつきPC
 原則的に、SD映像に強制変換されてしまう。これは、デジタル放送のデータを汎用バスに流す事が禁じられているため。
 詳しくはWikiPedia「地上デジタルテレビジョン放送」→「パソコン・携帯電話による受信(日本)」を参考のこと。

・デジタル放送チューナー搭載のHD・DVDレコーダー
 HDDへ:HD映像として録画可能
 DVDへ:ブルーレイ・HD−DVD対応機種であれば、ブルーレイディスク・またはHD-DVDに直接、HD映像として録画可能
 (HD-DVD(片面一層)で1.5時間、ブルーレイ(片面一層)で3時間。ディスク使用により異なる。詳しくは価格.com-「DVDディスクの正しい選び方」を参考のこと
)。

地上デジタル放送が始まると、録画するディスクの問題も頭をいためるところだ。

1つは単純に容量の問題。
高画質の番組は当然容量が大きい。
HD−DVDレコーダーをお持ちの方が、購入して間もない時期によくやらかしてしまいがち(というか私はやっちゃった)なのが、

・美しく残したい番組を高画質・高音質モードでHDに録画する
↓しかしDVDに全然収まらない
↓仕方がないので画質・音質をDVD1枚に収まる範囲にダウンしてダビングする
↓結局画質は普通だし手間はかかったし何だったんだろう…orz←今ココ!


という経験ではないだろうか。

なんとかかんとか人口に膾炙したDVD-R、RWという規格の容量は、デジタル放送の高画質データを収録するには全然足りないのである。
ので、高画質を高画質として保存するためには、HD-DVD、ブルーレイディスクといった次世代大容量ディスクに頼らざるを得ない。
でなければ、泣く泣く画質をダウンコンバートして従来型のメディアに収めるか、の2択となる。

次世代ディスクを用いるためには、デッキ側が次世代ディスクに対応していなければならない。
現時点で普及しているチューナー非登載モデルのほとんどは非対応なので、買い換えない場合、結局は従来メディア1択になるだろう。

また、HD-DVDとブルーレイはご存知のとおり両陣営でまたぞろ争っている状態で、どっちが勝ち組みとして残るか先が読めず、不確定要素が多い。ハードのメーカー選定にも関わってくるので悩みどころだ。
ディスク自体もまだ普及していないため高価(大体1枚1000円〜)だし、片面一層だの二層だの両面だのと、仕様が複雑でややなじみにくいという面もある。

(参考:マクセル / DVD基本情報:デジタルハイビジョン放送映像の録画

ディスクの問題をさらに分かりにくくしているのが、コピー制限機能だ。
この「コピーワンス」問題は、地デジに関する情報としては比較的よく知られているように思う。
一部の番組を除き、番組データ自体に「録画を一回しかさせない」ための信号が組み込まれているのが「コピーワンス」の仕様であり、各種デジタル放送番組がこうなっている。

その理由はこういうことだ。

・デジタル放送は高画質です!皆さん嬉しいでしょう!
・でも高画質だから、ハイビジョンで保存したDVDは、市販のDVDと遜色ない内容になっちゃうし、複製しても劣化しないんです!
・ということは当然、大量に不正コピー・ダビングをして他の人にばらまいたり、ファイルを変換してネットに流したり…しちゃうでしょ?「個人の利用に限る」って言ったって、どうせアンタがた守りゃしないもんね?
・そういうことをされちゃうと思うので、防止するために、録画は一回しか出来ないようにしちゃうね!


わざと腹立つように書いてみたのだが、要するにこういうことを言ってるのだ。CCCD同様、「視聴者皆泥棒論」に基づいた行動である。
頼みもしないのに強制デジタル化しておいて、「デジタルだから悪用されちゃう!」と勝手に制限をかける。どころか、「バックアップ」という個人の正当な権利までも奪う。
じゃあデジタル化すんなよ、別に頼んでないんだよ…」と誰もが言いたくなると思うのだが…

「コピーワンス」は「録画を一回のみに制限する」ための技術だ。
HD-DVDレコーダーの場合、額面どおりだと「HDに録画したらもうそのまんま」ということになってしまう。流石にそれでは…ということで、ディスクへの移動(ムーブ)が一度だけ認められている。
通常、HDからDVDにデータを焼く場合、多くの方が「コピー」を選択することと思う。
これは万一の転送エラーやディスク不良による「焼きミス」に備えるためだ。
ミスが起こっても、「コピー」であればHDに元データが残っているので、もういちど焼き直しが出来る。
コピーしたDVDをチェックして、問題がなければ元データを消す。こういう手順の方が多いのではないだろうか。
それに対して、「移動(ムーブ)」は、移動終了時にHD側の元データを消去する。転送エラーや焼きミスが起こればデータはその時点で永遠にアウトである。ユーザーに大きなリスクを強いるだけではなく、本来保証されていた「個人使用目的のバックアップ」の権利を奪うものとして反発が大きい。
こうした仕様上、「DVDからHDへのデータ戻し」も当然できなくなっている。

さて、この「コピーワンス」がかかった番組を録画(ここでは光ディスクに限って説明します)するためには、CPRMに対応したディスクが必要になる。
現在ではDVD-R・RWでもCPRM対応ディスクが販売されているが、価格は最低でも数割は高い。
(DVD+R・+RWでは現時点でCPRMへの対応がなされていない。)
また、ハードの側でCPRM仕様ディスクへの対応がなされていない場合はディスクへの録画が出来ないので、非対応ハードは実質買い替えを迫られる事になるだろう。
録画形式はVRモードでしかできず、DVD-Videoモードでは録画不能であることも押さえておきたい。

加えて、再生時にも制限がかかる。
録画したCRPM対応メディアを再生するためには、CPRMに対応(VRモード対応)したプレイヤーでなければ見れない。
また、メディアとハードのCPRM対応が異なる場合、再生時に誤動作や故障を招く可能性があることも指摘されている。CCCDと同じ轍を踏む事になるのだろうか…

参考:WikiPedia「DVDレコーダー」→「DVDレコーダーの選択上のDVD規格に関する注意点」の項目

諸外国でもデジタル放送への移行・アナログ停波への取り組みは同様に進められているが、苦戦している国が多いのが現状だ。
アメリカでも先行きは必ずしも容易ではないようだが、比較的進捗している。
その一つには、低所得者層に導入時の補助金を出すという対応。
そして大きいのは、コピー制限が相当緩い(完全フリーではないが)ということだ。

 米国では放送開始後もコンテンツ保護策の議論が先送りされていたが、11月にようやくFCC(連邦通信評議会)の方針が決まり、2005年7月から実施されることになった。ところがこの方針を見ると、米国のコンテンツ保護は日本と比べてかなりゆるいものになるのだ。

 なぜなら、個人のデジタルコピーが制限されないことになっているからだ。家庭内LANなどのパーソナルデジタルネットワーク内でならば、コピーもデータ転送も何度でもできるという。これは、著作権にうるさい映画会社が強い国という米国のイメージとまるで違う。

 なぜ米国のDTVのコンテンツ保護は日本よりゆるいのか、どのようにゆるいのか。本当に言葉どおりそうなのか。

●FCC決定の概要

 FCCが決定した米国の地上波DTVのコンテンツ保護策は、放送ストリームにフラグとなるコードを埋め、FCCが後日決定する細則に従って、コンテンツ保護/記録技術を組み入れたDTVがそのフラグの有無を検知し、検知の結果によって出力及び記録に制限をかけて、インターネットなどへの「無差別再配信」を防ぐというもの。そして上に書いたように、個人的コピーに関してFCCは、『ニュースリリース』の冒頭から、「消費者がデジタルコピーを作るアビリティは影響されない」、「ブロードキャストフラグはインターネット上の大量配信を防ぐことだけを求めるもの」と強調し、個人のコピーはOKと明確に言っている。

(中略)

4.目的はインターネットなどでの「無差別再配信」(indiscriminate redistribution)を防ぐことにある

 オーダーでは、「再配信管理システムのゴールは、(1)消費者が放送番組をコピーしたり著作権法に合致する家庭内などのパーソナルデジタルネットワークで再配信したりするのを排除あるいは妨害するものではない、(2)コンテンツが無差別再配信から適切に防護されうるところにコンテンツを送信する場合までインターネットの利用を閉ざすものではない」と述べている。

後藤貴子の米国ハイテク事情


この記事は大変面白かったので、デジタル放送コピー制限問題に興味のある型はご一読をお薦めしたい。

アメリカ式権利社会はいけすかない部分も多いが、消費者団体の賢さと強さについては大いに見習わなければならないのかもしれない…
というかそれ以前に、総務省が見習えよと言いたいわけだが…

それにしてもどーですかこの煩雑さ。
デジタル放送導入・ハードの選択一つにしても、実は抑えておかなければいけない情報は膨大、しかして一般に供給されている情報はいまだに貧弱。
少なくとも私は、「知れば知るほどデジタル放送いらねえ」という気分が強まるばかりだ。
アンテナもテレビも変更する必要がなく。
バックアップや編集も容易、番組データも安価なメディアに残せる。
アレ???今が一番快適なんじゃない??
調べれば調べるほど、そう思えてならないのだ。
見たり残したりするのに大きなコストを強いられる「高画質」や、特に魅力も感じない「双方向性」などを必死に押し出して、「デジタル放送によって、これまでできていたことができなくなる」デメリットを押し隠しているのは、とにかくどうにもこうにも面白くない…を通り越して恐ろしい話ではないだろうか。

HDレコーダーを購入して以来、「興味のある番組はとりあえず録画しておき、都合のいい時間に見る」のが定番のスタイルとなった。結果、「番組」は見るけれど、「放送」をリアルタイムで見ることは本当に少なくなった。
現在実質専業主婦の私ですらそうだから、学校や仕事のある方はさらにその傾向が強まった方がいらっしゃると思う。
将来、なんとかハイビジョン放送をハイビジョン映像として受信可能な環境になったとしても、このスタイルは多分変わらない。
デジタルハイビジョン映像は容量がでかい。
これぞ、という番組以外は多分画質を落として録画しておくと思う。
…そうすると多分、「ハイビジョン映像」を見る機会って、週に何時間もないような状況になりそうだ。
posted by 大道寺零(管理人) at 17:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | 地デジに疑問符
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