この言葉に関して、肯定的に感じる人、ネガティブな印象を抱く人の2種類がいる。
私はどちらかというと前者だ。色々な筋(特に教育)から漏れてくる話を聞くと、「食生活が崩壊してる家の実情はマジで想像を超えている」と実感し、どちらかというと「そういう生活をヨシとしているボケナスな親を教育する必要がある」と強く考えるからだ。
具体的に言えば、「朝からポテチだの、栄養を給食に頼るだの、親がカレーと豚汁しか作れないとか、晩飯も子供に金握らせて好き放題に食わせる→生活習慣病のコンボだの、それはないだろ常識的に考えて…」ってレベルの話なんだけども。
一方で、「食育」を好きになれない方々の文章やお話をうかがうと、おおむね次のような印象を強くお持ちのようだ。
・和食原理主義
・忙しい朝でも凝った手作りの和食を要求する→どちらかというと専業主婦を想定しており、働く女性や独身者の現実的な忙しさを考慮に入れていない理想論
・品目を多くすることは、家計の上で現実的でない
最初こういう印象を聞いたときは、正直私の中ではここまで「食育」の提案するもののハードルが高くなかったもので、「そうかな〜〜?『崩れてる食生活をもうちょっと常識的に』『身近な食材を見直そう』って程度だと思うんだけどなー」と感じた。
しかしちょっと周辺を見てみると、「食育」を扱うサイトや本は、それぞれ設定しているラインがけっこう違う。
「毎食1つは野菜のおかずを」程度のものから、「食育」という言葉を好まない人が挙げる「和食至上主義」と言えるハードルの高いものまで様々である。
先日、誰が決めたかは知らないが、「食育」の世界で、「望ましいもの」「望ましくないもの」を頭文字標語にしたものを初めて聞いた。
そのとき、「食育」のハードルを好ましく思わない人の気持ちもちょっと分かるような気がしたのだった。
「まごわやさしい」と「おかあさんはやすめ」と言うんだそうだ、それは。
「まごわやさしい」は、「食育的に推奨する食べ物」「もっと見直して取り入れて欲しい食材」であり、以下のようなことらしい。
ま →豆類
ご →ゴマ
わ →ワカメ(海藻類)
やさ→野菜
し →シイタケ(きのこ類)
い →芋類
まあそんなもんだろうな、と思う。機能的に文句のつけようのない食物ばかりだ。
それに対して「おかあさんはやすめ」は、「食育的にとりなくない、とらせたくない献立」らしい。
お →オムレツ
か →カレーライス
あ →アイスクリーム
さん→サンドイッチ
は →ハンバーグ
や →やきそば
す →スパゲッティー
め →麺類、ラーメン、目玉焼き
さらに、この上に「ははきとく」を付け加える場合もあるらしい。
は →ハンバーグ
は →ハムエッグ
き →ぎょうざ
と →トンカツ
く →クリームシチュー
確かに、これらの料理は一般に脂質・炭水化物がメインであり、野菜や繊維質、ビタミン類の摂取しづらいものだ。(さらにあまり咀嚼を必要としないので早食いにも繋がりやすい)
しかし、大人からも子供からも好まれる献立でもある。
「食育的に正しい食卓にしたい」と頑張っても、実際に子供に食べさせると言うことは、実際には「だましだまし」であることが多い。
オムレツやハンバーグに野菜や豆腐などを混ぜて、「ちゃんと食べられるでしょう?」と持っていったり(あるいは持っていかなかったり)、そういう工夫は多くの人がしていると思う。
また、それらの子供の好む献立に「まごわやさしい」の食材を取り入れることも常套手段だ(例えば、カレーに大豆水煮やレンズ豆を入れたり、手作りで野菜を増やした餃子を鍋仕立てにすれば、「完全食」と言ってもいいバランスをとることができる)。
ちなみに、食育的にお勧めする献立は、「おかあさんだいすき」だそうな。
お →おから
か →かきあげ
さん→サンマの塩焼き
だ →大豆の五目煮
い →イモの煮っころがし
す →酢の物
き →キンピラゴボウ
確かに体にもいいし、美味しいもんだけど…
どう見てもこれ、明らかに和食(+肉否定)に偏りすぎじゃないか?
そして地味なのでなかなか子供には好んでもらえないことが多い献立でもある。
自分の子供時代をかんがみれば、いくら体にいいからと言って毎日この手のおかずばっかりだったらゲンナリしたと思うぞ…
私は(今でもそうなんだけど)子供の頃異様にオカラが好きで好きで、外で好物を聞かれたときも元気に「オカラ!」と答えるもんで、よっぽど貧乏だと思われるのがナニだと思った母親が「外でオカラが好物と言うのはやめてちょうだい」と懇願するほどのオカラフリークで、個人的には「オカラ食おうぜオカラ、旨いんだよ〜、でも産業廃棄物として捨てられてるんだよ〜」と「オカラ推進運動」をしてしまうほどの人間なので、ここにオカラが登場したのは本当は嬉しいのだ。
しかしあのモサモサした食感、玄人好みの味が一般的なガキんちょには評判はよくないであろうことは分かる。いくらなんでも、「いきなりオカラ」は設定ハードルが高い。オカラ好きだからこそ断言できる。
別にオカラである必要はない。
同じ「大豆丸ごと」の料理であれば、もっともとっつきやすそうなところでは呉汁なんかがあるし、豆をカレーやシチューに入れたり、トマト味のポークビーンズなども味的には受け入れられやすそうだ。
豆乳で鍋やシチューを作ってもいい。
同じオカラであれば、クッキーやケーキに入れたり、コロッケなんかに混ぜるという手もある。
いきなり「和食!おから煮!」とやっちゃうから間口が狭くなるのだ。
それに、「朝食をちゃんと食べましょう」と言う片方で、「ハムエッグは『ははきとく』の献立、オムレツは『おかあさんはやすめ』だからよくない!」と手軽な卵料理を封じられてしまったら、やる気出した人もあっという間に「無理!」となってそがれてしまいそうだ。
炒め油やルーを使う中華や洋食は、確かに伝統的な和食よりはカロリーが高くなりがちだが、「おかあさんだいすき」に関しては、あまりにも「和食原理主義」の色が濃すぎて、まあ苦心して考えたんだろうなとは思うけれども、引いてしまう気持ちもよく分かるのである。
また、「望ましくない献立」の頭文字フレーズが「おかあさんはやすめ」というのも、ものすごく恣意的なものを感じていやな気分になってしまう。考えすぎだろうか。
それはあたかも、
「母親が楽をする、手抜き→偏りのある悪い献立」
「正しい献立→楽をしないで手間・時間をかけた料理」
というイメージを導こうとしているように感じられてならないのだ。
それはある意味では確かに正しいと言えるかもしれないが、手間や時間だけが料理の栄養的価値や味の評価基準になるわけではない。
正しい知識を持って適切に食材を扱うならば、必ずしも手間をかけたからいいというものではない。
むしろ、食育的に推奨される大豆なんかも、手間がかかるようでいて、
・前の晩水につけておく→圧力鍋で調理
・豆と熱湯を魔法瓶に入れて一晩放置→水煮一丁あがり
と、意外にイージーな食材だったりもするしねえ。
まあ、日ごろ「いかに楽をして安くて旬で旨いものを作るか」をテーマにしているから言うわけでは…言うわけ…なんだけれども…
とりあえずは「品目をちょっと増やしていく」「バランスを考える」「大豆製品とか野菜を一品くらい付ける」くらいでいいものを、手間とか和食主義とか色々付け加えんでもと思う。
あとは、「ははきとく」「おかあさんはやすめ」「おかあさんだいすき」など、「お母さん」登場しすぎではないかと。
実際食卓をつかさどることが多いのは母親(妻)だが、食に対する認識を育てていくのは、母親に丸投げすることではない。例えば料理を作るのに参加するのもそうだし、父親が食事のマナーや食材のことを教えたり、子供の好きではないものを旨そうに食べることで偏食に向かわないようにしたり、やれることはたくさんある。
こんなにお母さんお母さん言われると、「食育は女性の務めです!」と、過度な良妻賢母主義を押し付けられているように感じる人がいるのも不思議ではない。っていうかものすごく感じるし。
要するに、私が感じていた「食育」は、ゆるやかな「べき集」だったのだが、一方でかなり和食原理主義・女性に責任を負わせるイメージの「べからず集」を喧伝するような食育論者も少なからずいて、「食育とか言われても…」と人を引かせてしまうのは多くの場合後者のようなのだった。
私は和食が好きだ。
でも同様に中華も洋食もエスニック系の料理も、要するに美味しいものはどこの国のものでも、食べるのも作るのも大好きだ。
そしていろいろな国の食文化を楽しめるのが、現代日本に生まれてよかったと思えることでもある。
近年のきくち正太みたいな、極端な和食原理主義者は大嫌いだ。
そんなわけで、「ははきとく おかあさんはやすめ」には、相当引いてしまった。
(注:実際には、「外食ではできるだけ避けるか、他に野菜のおかずなどを足したりしましょう」という感じのガイドラインのようなのだが、サイトによってはかなりきつい言い方で一刀両断してるところもあるようだ)
食育のもう一つの重要な側面には、
「食材、特に食材の素性や安全性について積極的に知る姿勢を養う」
もある。
極端な例だが、
・農薬などの問題がある中国産の野菜で作った冷凍の野菜の煮付け
と
・地物の季節野菜で作ったクリームシチュー
どちらが妥当な料理か、考えるまでもないと思う。
献立や和洋の別にばかりこだわると、何かもっと根本的なことを見失ってしまいそうな気がするんだよなー。
「食育」のハードルを高く設定している人のサイトなどを見ると、その多くが「私はこのくらいきっちりやってます」という感じで徹底している人が多いようだ(まあサイト作るくらいだからなあ)。
その努力は十分に評価するけれど、「食育」ってもっとゆるやかなものであってほしいと私は思うのだった。
しかもよりによって「シイタケ星からやって来た地球征服をたくらむ菌類代表シイタケ人」を食育に取り入れようとするATARI、いや、あたり、どうにもシイタケ人の陰謀のニオイを感じます。
感じませんか。
そうですか。そうですね。(くすん)
私もラーメンと餃子はもちろん、かつて「文学部のキレンジャー」と自称するほどカレー好きな女、カレーを封じられるのは我慢できません。というか生きられません。
そしてひげさんがどれほど椎茸がダメなのかということもよく伝わりました…w
今度お会いする機会がありましたら、しいたけヨーグルト持参で食育開発してあげますね。もちろん鼻から食べてね♪うふ。