2007年03月08日

比較広告日記

ITmedia News: 「Macくんとパソコンくん」、日米文化の違いへの配慮 (1/2)

 「Mac対PC」シリーズのCMを国際市場に拡大しようと思ったとき、Appleは難しい問題に直面した。ある文化ではおもしろいものでも、ほかの文化では不作法に見られることがあるということだ。
(略)

 だが、以前から直接比較広告が嫌われている日本の文化では、力を誇示することは無礼に映る。そこで、昨秋から放送されている日本版のCMでは、ラーメンズという2人の日本人コメディアンを起用して微妙に変化を加え、MacとPCはそれほど変わらないという点を強調している。パソコンくんを間抜けに、 Macくんをかっこよく見せる衣装の代わりに、パソコンくんは地味なビジネススーツを、Macくんは週末に着るような服を着て、個性の違いよりも職場と家庭の違いにハイライトを当てている。このシリーズの最初のCMでは、Macくんがパソコンくんに「ワーク」というニックネームをつけてさえいる。


この記事を見て、「あれで日本向けにマイルドにローカライズしたつもりなのか!」と驚いた。

実際のCMは、アップル公式サイトで公開されている

…のだが、QuickTime7以上の環境が要求されているので、プラグインエラーだのインストールしるだのやかましい(この時点で本当に乗り換えさせる気があるのかとも思えるが)。
ので、YouTubeから同じ動画を。

セキュリティ
 「macはパソコンのようにセキュリティをガチガチにかためなくてもいいよ」

ウィルス編
 「macのOSは(ウィルスにかからないから)大丈夫」

再起動編
 「macはフリーズなんかしないよ」

日記編
 「macならソフトを使ってブログを簡単に楽しめる。それに比べてPCは仕事用のソフトばっかり」

ステップ編
 「macならホームページも(略)。それに比べて(略)」

年賀状編
 「macなら綺麗な年賀状も(略)。それに比べて(略)」

ニックネーム編
 macが「プライベートに使われてフレンドリー」
 PCが「私はビジネスライクな関係ばかり」と自己紹介をする。

全体的に見て、
「ラーメンズの無駄遣い」とか
「興味よりも不快感を煽られる」というよりも、
「あまりにも一方的で、誇張の挙句正しくない情報」が喧伝されている(CMとはなべてそうしたものかもしれないが…)ことのほうが気にかかる。実際問題いつJAROに持っていかれても不思議ではない内容だと思うが。

●セキュリティ関係

 「セキュリティ編」「ウィルス編」は、「macはセキュリティ面で脅かされることがない」という点を強調している。
 確かに、macOSを対象にしたウィルスやワームは、Windowsをターゲットにしたそれとは比べ物にならないほど少ない。
 また、BSDをベースとしているため、ネットワーク関係での堅牢性が高いことも手伝っているだろう。
 しかし、あくまで「少ない」のであって、「皆無」ではない。
 実際昨年は、OSXをターゲットにしたウィルスがいくつか登場したし、セキュリティホールも確認されてパッチ修正されている。


 そもそも、Windowsをアタックするウィルスが圧倒的に多いのは、セキュリティホールの問題もあるが、何よりも

*Windowsのシェアが圧倒的に高いため。

 愉快犯的なウィルス作者であれば当然被害は拡大した方が単純に満足させるし、キーロガー系のものであれば、集まる情報は多ければ多いほどいい。
 逆に言えば、macはシェアが低いため、「ウィルス作者に見向きもされない(ユーザーにとってはありがたいことだが)」ということだ。
 また、オンラインバンキングなどのシステムがWin専用(=macでは使えない)ということも多く、キーロガー系であれば、そもそも対応させる意味があまりない。

*足がつきにくい。
 上記理由により、シェアの高いWindowsユーザー間でウィルス被害が広がれば広がるほど、感染経路・大本の作者が特定されにくくなり、ウィルス作成者にしてみれば身の安全が高まる。
 シェアの低いmacでは、逆に経路や発信源が特定される可能性が高まり危険である。

*ウィルス作成者の性向
 ウィルス作成者は一般に、アナーキスト的な傾向を持つといわれる。その場合必然的に、「体制派」「多数派」のWindowsとそのユーザーがターゲットとなりやすい。
 また、単純な愉快犯や腕試し目的の犯人の場合も、ひっかける対象は多ければ多いほど彼を満足させるだろう。

という側面が大きいことは周知の事実。

加えて、実際にはmacターゲットのウィルスは存在しているし、Excelなどのマクロウィルスに対してはWin同様に被害を受ける。
そして、ノートン先生をはじめとして、mac向けのセキュリティソフトも長年販売され続けている。

このCMに不快感を覚えているのは、実は誰よりもセキュリティソフトベンダーなんじゃないだろうかと心配になってしまうほどだ。

個人的には、どのOSであろうと、セキュリティに対して防御を固めて固めすぎではないと思っているので、防具で固めたPCくんをプゲラするmacくんの姿にはどうにもモニョモニョなものを感じずにはいられない。
macユーザーがみんなこんなにセキュリティに無頓着なわけではないだろうと思うのだが。

例えて言うなら、
「町を歩いているとナンパされまくりの可愛い子に対して、可愛くない子が、『私は安っぽい雰囲気じゃないから、変な奴にナンパされたりなんかしないのよ!フフン』と的外れな自慢をしている」
様子を見ちゃった感じなのだが。

●それは本当に「macだけ」なのか

他のバージョンでは徹底して、
「仕事向けのソフトしか入っていない(仕事しかできない)PCくん」
「趣味や遊びのソフトが充実しているフレンドリーなmacくん」

という性格を強調している。
確かに、デフォルトで入っている映像・動画処理系のソフトはWindowsよりも上手であるが、素人が見て
「ホームページやブログや年賀状が作れるのはmacだけ」
と誤解しかねないような内容はどうかと思う。

サイト作成に関しても、.macへ公開できるサービスがあるとはいえ、独自サーバーやレンタルサーバーで運営する分には、手打ちでなければ作成ソフトが必要となる。
(.macアカウントの取得には年間9800円がかかるので、フリースペースを利用する人も当然多いだろう。)
その際、ac対応のWebページ作成ソフトを探すとなると、Winのように比較的安価なものや、フリーソフトが少なくて難儀するという現状がある。
年賀状・住所録管理ソフトについてもまた同様の状況にある。
また、ブログについては、実際ブラウザ上から行うことになるから、特別なアドバンテージとはなりえないと思う。

●本当にプライベートの最適解なのか

大体、「仕事ではWin、遊びではmac」というフレーズは現実的だろうか。
実際に、「プライベートのお遊びPCとしてWinを選択する」理由の大きなものとして、
「Winに対応・mac非対応のゲームソフトが圧倒的に多い
 =macでは遊べるソフトが少ない」

が挙げられると思う。ネットゲームの大半も同様である。
むしろ日本におけるmacのニーズにおいて、「デザインやアート・音楽関係の人が仕事で使う」「(その人たちが)持ち帰った仕事を家でも出来るように」というビジネス用途こそが大きいのではないか。
昔はAdobe系のソフトとのタッグで圧倒的な強みを持っていたmacだが、今やフォトショップもイラストレーターもwin版が出て久しいし…

IntelMacはWindowsを載せて動かせる(もしくはエミュ使用)というのが注目点ではあるが、多くの人は、一般的なWindowsPCより高価なmacを購入した上に、ソフトを動かすためにWindowsOS(これまた安くはない)を追加で買うのであれば、「最初からWindowsでいいんじゃない?」と思うのではないだろうか。

またその場合は、「フリーズ→再起動ばっかりw」と揶揄した弱点もまた搭載することになるわけだが…
(それにしても、「フリーズばっかりのWindows」というのも、確かにMeはそんなOSだったが、2000→XPとずいぶん改善されたので、「いつの話だよ?」という感がいなめない。
 「昔の話を持ち出す」というのなら、以前のmacこそ「爆弾だらけ」で有名だったのでは…

うーん、結局のところ、いわゆる「mac(狂)信者(≠ユーザー)」の鼻持ちならないイメージをさらに根付かせただけのような…

どうせCMをやるなら、
「本当にmacにはできてwindowsにはできないこと」
を教えてほしかった
なあと思う。普段なかなかmacの情報を入手する機会が少ないwindowsユーザーとしての、煽りでもなんでもない感想なのだが…

また、ラーメンズを起用するのであれば、もっとひねりをきかせたブラックな仕上がりにならなかったのかと残念だ。
「サラリーマンNEO」の「サラリーマン語講座」のように、「1ネタやったら素の表情になって正面を向く」って手もあってよかったかもしれない。

素直に唐沢なをきにやらせればよかったのに。
「マッキントッシュあらし」でいいじゃん。よかないか。毎回逮捕だし。

まあとりあえずこのCMシリーズが、「電脳なをさん」のネタ10本くらいは余裕でもたらしたことは鉄板だろうて。

VISTAの評判がよろしくない今こそmacの大チャンスであることは間違いないので、もうちょっと小マシなCMでどーにかならなかったのかと残念だ。
「今のmacってどうなってんの?」って、素直に知りたいんだけどな。
漠然と「iPODとの接続抜群(でもwindowsでもiTunesあるけど…)」「Winも載せられるらしい」「フォントは綺麗だよ」ということくらいしかわかってないので。
(別に私は窓信者でもないしゲイツは嫌いだし、機会があればmacも使ってみたいという程度のことは思っているのだ。)

マカーの方はこのCMを見てどういう印象を抱いているのか興味のあるところだ。
あと、「本当にフリーズしませんか?」とも聞いてみたいな〜。

「独特のコメディ文化に配慮して」、日本だけでなくイギリスでも独自仕様にしたらしいが、やはり不評だったとのこと。

 TBWAは英国用に、実際の統計情報を基に、「PCは仕事向け、Macは趣味用」というメッセージを発信する新しいCMも作成した。このCMでは、Macくんは英国人は欧州のほかの国の国民よりも労働時間が長いと指摘する。「英国人は休みが少ない。最高じゃないか?」とパソコンくんは言う。

 地元のコメディアンを起用していても、このCMは英国で全面的に暖かく迎えられたわけではなかった。Guardian紙のコラムニスト、チャーリー・ブルッカー氏は、Appleはあまりにクールになろうとしすぎており、「一連の手ひどい組織的な攻撃」を繰り出していると冷笑した。「このCMを見た人は、『パソコンくんはちょっと間抜けだけど憎めない。でもMacくんはうぬぼれた気取り屋だ』と思うだろう」と同氏は2月5日に書いた。

 調査会社YouGovは、1月29日に映画館やWebサイトでこの広告が流れ始めた後、英国でAppleへの評価が下がったことを発見した。 YouGovが2000人を対象に日々行っている調査によると、1〜100点で測られるAppleブランドに対する認識が、広告の放送開始から5日の間に 14点から8点へと下がった。「われわれが知る限り、この数字を動かした出来事はほかになかった」とYouGovのブランドインデックスディレクター、サンディプ・チャハル氏は語る。


はい、私も青字にものすごく同意であります。

日本では「比較CM」は成功しづらい(反感を買いがち)と言われ、むしろ「セガの湯川専務シリーズ」「auのポータビリティCM(会議してるやつ)」などの「自虐系比較」のほうが受ける印象がある。
先日も、ソフトバンク携帯のテニス部バージョンCMが叩かれた(アレは確かに気分が悪い)ばかりだ。
洗剤等のCMにおける比較対象が「当社比」なのも、そういう日本人的気質の表れなのだろう。
個人的には、そうしたブラックな表現がそろそろ入ってきてもいいとは思うのだが、あくまでも「比較情報が正しい場合」に限られることだ。
今回のmacのCMは、実際にはWindowsマシンでも出来ることが「macでしかできない」ような表現があったり、ウィルスが皆無ではないのに「macではセキュリティソフトなんかいらないのさ」と危険な誤解を招く部分がある・相手の貶め方にウソがあるのでどうにも気持ちが悪いと感じるのだった。



かつて、「当社比」CMを見ると

「今まではそんなに性能の劣るものを売ってたのか」とか
「じゃああんたの社のほかの製品は、これからも手抜き開発の性能のままで売るんだな」

と思ってしまう自分がいた。
さすがに今では多少大人になったつもりだが、それでもやはり「なんか納得できねえ」とささやく小人が胸の中にいる。




元記事の最後のパラグラフが何気に気になる。

 「MacくんはユニクロかGAPか無印良品の服を着ているように見える。それは、シンプルと低価格――ローエンドブランドを表している」とコバリク氏は指摘する。オタクっぽく見えるパソコンくんについては、「オタクは今や日本文化において尊敬されている」と同氏は言う。


えーーーーーーーー尊敬って。
ないないないないwwwww

そんでもって、どっちかというとmacくんのスタイルの方がオタク私服っぽいけどなあ。
posted by 大道寺零(管理人) at 13:50 | Comment(4) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
Macでもアプリは普通にフリーズしますよ。でもOSXを再起動しなくてもアプリだけ強制終了して、何事もなかったようにもう一度立ち上げて使うだけです。
昔からあるWindows、macの対立構造ですけど、「マニュアル車かオートマ車か」よりももっと狭義な争いッスよ。どちらも運転してればそのうち目的地に着きます。
Posted by イド at 2007年03月08日 22:41
隠れマカーです。
家でHPチェックするくらいなら手軽なので。
で、比較してみるとフリーズは少ないな、と思います。
常にスタンバイ状態で、気がつくと3ヶ月くらい一度も電源落としてないこともあります。
 
CMについてですが、
「そんなイヤミな表現せんでも・・・」
と思います。
Winのことを「ワーク」などと揶揄してますが、逆にMacだと仕事する気にならん、という感覚があります。
おちゃらけた感じを受けます。
Posted by 鉄郎 at 2007年03月09日 01:26
このCM、地元の放送ではまったく見ないんですよね…。

どちらかというとPC未経験者及び初心者を対象にしてるのかもな、という感じなんでしょうな。
それに過去にちょろっと何かで聞いた話ですが、CMの作り手側にとっては
「そのCMが視聴者に『嫌い』と思われることも、CMとしては成功である」
ということでもあるようで。
こういう形で話題になってる時点で、MAC側としちゃ成功なのでしょうな。

ところでラーメンズ小林、この「小器用で理屈っぽく、垢抜けたところが鼻持ちならない」感じを出すにはうってつけですな。
Posted by 鳥酋長 at 2007年03月09日 01:56
>>イドさん

>昔からあるWindows、macの対立構造ですけど、「マニュアル車かオートマ車か」よりももっと狭義な争いッスよ。どちらも運転してればそのうち目的地に着きます。

操作に関しては結局は「慣れ」の問題だと思います。
「対立構造」については、Winユーザーは正直日ごろはあまり意識していないし、MacにはMacの魅力があると認めているのに、Mac「信者(あくまでも"ユーザー"でなく)」側が「これだからwindowsは!それに比べてMacは…」と喧嘩を仕掛けてくることが多いイメージがあるんですよね…

>>鉄郎さん

隠れマカーだったんですか!ちょっと意外です。

>「そんなイヤミな表現せんでも・・・」

むしろ、iPODみたいなカッチョイイイメージ系で攻めるか、もしくはデザインやインターフェースの優雅さ、操作画面などの具体的な映像を見せてほしかったと思うのです。

>>酋長さん

>どちらかというとPC未経験者及び初心者を対象

それは間違いないでしょうね。
このCMを見て「そりゃ誇大しすぎだろ!」と突っ込む層は既にPCをある程度使い込んで知識があり、Winユーザーは買い換えないでしょうし、マカーはマカーでこれまでどおりにMacを使うだけで、需要が動くことはないわけで。
「最近はなんか知らんけどパソコンのウィルス怖いらしい」って程度の認識しかない層に、「Macなら大丈夫」と売り込もうということなのでしょうね。

>こういう形で話題になってる時点で、MAC側としちゃ成功なのでしょうな。

Winで育った若い層には、「iPOD作った会社って、パソコンも作ってるんだ〜」と初めて知ったような人もいるでしょうしね。
シェア奪回というよりは、認知度アップが主な目的だったのかもしれません。

>ところでラーメンズ小林、この「小器用で理屈っぽく、垢抜けたところが鼻持ちならない」感じを出すにはうってつけですな。

まったくですw
逆にパソコンくんのほうがなんかけなげで可愛らしい。
ラーメンズ片桐をこんなに可愛いと感じたのは初めてかもしれません。
Posted by 大道寺零 at 2007年03月09日 10:01
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