このシリーズは本当に緻密で、久々に「邦画の時代劇を見てる見てる」という充実感がある。
藤沢周平の時代劇の多くは、「海坂藩」という架空の藩(藤沢の故郷である山形県鶴岡市周辺・庄内地方の酒井氏庄内藩がモデル)が舞台となっており、撮影にあたっても、庄内でのロケが多用されている。
現在では、鶴岡市全体が「藤沢周平時代劇のふるさと」「リアル海坂藩」ということで熱心に観光のセールスポイントにしているようだ。
映画で誰でも一番に面食らうのが、「方言が相当ガチ」ということだと思う。
実際、藤沢周平の小説の中でも、あまり濾過していない庄内弁がガンガン出てくる。
そして映画でも、県内でも通じない庄内弁特有の言葉にも、特に解説スーパーなどが付くわけでもなく、普通の会話として流れていくのだが。
正直、「これ、庄内以外の人大丈夫なのか?」と心配になることがしばしばある。
(例:めじょけね⇒かわいそう・不憫
ほろげ⇒ボケ・考えなし(ああ、ニュアンスを伝えるのが難しい))
そして、もう一つ心配なのが
「この人たち、こんなに庄内弁上手くなっちゃってその後支障をきたしてないか?」
ということだ。
その辺はそりゃプロの役者さんだからきちっとリセットするだろうけども、方言のレベルが「テイストを匂わせる」程度でなく相当ガチなので、心配にもなろうというものだ。
平行してドラマや舞台をやってた人もいただろうし、使い分けるのも大変だろうなと。
庄内弁に熟達したところで、他に生かすところがないんだから。(それこそ山田洋二藤沢作品くらいだが、主役級は連投ないようだし…)
何しろ同県人の私は、山形から酒田に移り住んでけっこう年数が経つが、未だに映画の中に出てくる俳優さんほど上手に庄内弁を発音できない(さすがにずいぶんと「聞いて分かる」ようにはなったが)からなあ。相当修練したに違いない。
実際、ネイティブ庄内人に聞いても「たいしたレベルだ」というのが大体の評価だし、少なくとも「『スイングガールズ』の置賜弁も比較的頑張ってたけど、全然山田藤沢作品には足元にも及ばないレベル」だと思う。
私が住んでいる酒田は、同じ庄内藩だけど商圏で、城下である鶴岡の言葉(映画で多用されるのはこっち)とは少し系統が異なる。
映画でよく出てくる「〜でがんす」という敬語表現は城下特有のもので、酒田の方では年寄りもそんなには使わないようだ。
鶴岡市が一生懸命「リアル海坂藩」を観光の目玉にしようと頑張っている(そしてわりと好評でもある)のを見ると、
「確かに海坂藩は風光明媚で素朴な美しさをもって描かれているが、藤沢作品の中では家老やら目付けやら殿様がウンコだったり、派閥抗争がシャレにならなかったりして、政治的にはろくでもないことが多い藩なんだけどなあ;」
と思ってしまうこともしばしば。
藤沢作品の主人公は、そういう政治状況の中にあって、友人や家族が殺されたり、自身がひどい目に遭う展開が多いので、「めじょけね」という言葉がよく似合うなあと思う(実際多用されているし…)。
参考:「美しき庄内語」
「庄日辞典」を見たけどけっこうまだまだ知らない言葉が多いよママン。
TOPに
「庄内語でライバルに差をつける」
とあるのだが、どういう方面のライバルにどう差をつければいいのか。内陸生まれの私にはさっぱり分からねえ。
蛇足:
「たそがれ清兵衛」の冒頭で、海坂藩のことを「現在の山形県庄内郡海坂町」とナレーション説明しているが、「庄内郡」も「海坂町」も実在しない地名なので、地図で探そうとしても無理です;
俳優さんたちもそういうふうにスイッチが切り替わるんじゃないかと思います。
また、わたしの場合は話し相手が大阪人でも京都人でも神戸弁しか出てきません(大阪弁や京都弁にはなりません)。話すことをマスターした言葉にしかならないんでしょうね。大阪弁と神戸弁は相当近い(基本的なイントネーションなどは同じで、語尾変化がほんの少しだけ違うだけ)のに、大阪弁にはならないので。
ハリウッド女優のルネー・ゼルウィガーはテキサス生まれなので、本来はテキサス訛りなのだと思いますが、「シカゴ」では標準的な米語を話していますし、彼女を一躍スターダムに押しあげた「ブリジット・ジョーンズの日記」では完璧なブリティッシュアクセントですね。「ブリジット」以来、ハリウッド映画だけでなく英国映画での活躍もめざましく、俳優さんにとって訛りのマスターはかなり重要なんだと思います。
庄内弁を他の作品で使うことはなくても、それだけマスターできるということは別の方言もマスターして作品にリアリティや地元の人への親しみを励起するだろうと見込まれるチャンスかもしれませんね。
オレらの世代じゃ鶴岡も酒田もそんなに言葉の差なんかは感じないんだけど、親父の世代になるとさすがに大きな違いがわかるようです。
古い酒田弁は京言葉の片鱗が覗けるようで、コレもギリギリ親父世代(昭和20年生)がボーダーらしく、そーとー古い元芸妓さんとかと話すと盛り上がるそうです。
「美しき庄内語」も覗いてみたけど、庄内ひと括りにされてもなぁっつう気はします。
遊佐も余目もちょっとちがうんだよな。会話しただけで出身地が判別できるもん。
>俳優さんたちもそういうふうにスイッチが切り替わるんじゃないかと思います。
なるほど、「会話の相手で切り替わる」というのは非常によくわかります。私も、普段は生まれ故郷の山形弁を使わずに生活していますが、実家と電話したり帰ったりすると即座に切り替わりますしねぇ。
俳優さんたちは勿論プロだから…と思ってはいても、母音の微妙な変化まで頑張って身につけているのを見ると、ついつい心配になってしまうのです。
あとはもう一つ、「他地域・他県の人はちゃんと話についてきてるかなあ?」と純粋に心配になったりします。
でもまあ、藤沢周平の小説が既にそんな感じで、あれほど冊数を出しているのですから杞憂なのかも…
この映画で何よりすごいと思うのは、安いドラマなどでありがちな、「いかにも田舎っぽいけど実はどこの言葉でもない記号的なズーズー弁」ではなく、リアルな庄内弁をそのまま使い、なおかつ役者さんにもそれを徹底させたところにあると思います。
>それだけマスターできるということは別の方言もマスターして作品にリアリティや地元の人への親しみを励起するだろうと見込まれるチャンスかもしれませんね。
そうですね。今後の役の幅とか、役者としての奥行きの評価が何段階も上がったのではないでしょうか。
庄内には、「だだちゃ豆」というとても美味しい枝豆がありまして、ロケに来た役者さんやスタッフの方の多くがそれにハマり、あちこちで宣伝して知名度がいきなりアップしたと聞いたことがあります。
噂ですが、「たそがれ」に出た宮沢りえがハマりまくって、毎年お忍びで来るとか来ないとか。嘘か誠かは分かりませんが、そういう「伝説」が付くとブランド農産品には強みです。
……反面、流通量や価格も超ブランドになりつつあり、本場地域のだだちゃ豆はめっきり地元民には縁遠くなったような気も…
>>engさん
>鬼の爪の方が映画としても庄内弁としても上
映画としては両方それぞれに好きですが、ダイナミズムの構成としては鬼の爪に軍配が上がるかなあとは思ってます。庄内弁の評価はやっぱりネイティブじゃないとわからんので、参考になります!
>「美しき庄内語」も覗いてみたけど、庄内ひと括りにされてもなぁっつう気はします。
うん、相方にも見せましたが、縁のない言葉も多かったようで。相当鶴岡寄りっぽいですね。
藤沢周平モノの映画を見て興味を持った人が「アレってどういう意味?」と調べるために見るにはいいでしょうね。
私にはまだまだ、細かい地域ごとの差は分かりません(よっぽど地域に特有の言葉を使ってくれれば別ですが…)けど、家族もやっぱりengさんのおっしゃるように、「大体分かる」って言いますね。