(全1巻・メディアワークス/主婦の友:1996年)
ファン以外はほとんど聞いたことのない書名だと思う。
事実、島本作品の中にあって、「出来がいい方」に分類するファンは多くはないだろう一本だが、名言っぽいセリフがところどころに登場するからなんとなくバッサリ斬るのも憚られる。そういう意味でも微妙な作品である。
男子高校生の主人公、通称は「ジャッカル」。
その通り名の由来は、あらかじめ好きなタイプの女の子の恋愛状況をチェックしておき、彼氏から振られた直後にアプローチ。女の子の気持ちが弱っているところに入り込もうとする、実に姑息な行動を繰り返す(でもといか当然というか、いつも失敗するのだが)ところから来ている。
女の子から切れられても殴られてもへこたれず、「振られそうセンサー」を最大限に働かせて、次の別れの現場へ急行する、「どう見ても方向性を間違った不屈の魂」を持つ男。一日に三度振られてもそのたびに立ち上がり「次」に向かって走り出す。
もうこの時点で最低である。
事実、この作品内の「ちょっとカッコいい名言」の多くは、ジャッカル本人ではなく、友人の獅子堂くんや、もはやおなじみの熱血おっさん、「ササキバラ・ゴウ」によるものが多い。
その場面において、たいていジャッカルの置かれた状況は本当に情けないのであった。
そんなジャッカルの目の前に、流れ星と共に落ちてきた美少女・ダイアナ。
どう見てもUFO、どう見ても宇宙人。
多分に邪な部分で彼女を介抱し、目覚めさせることに成功する(ファミレスの一番高いステーキセットを食べさせて)。
ダイアナは、「行方不明の王女を探しながら敵と戦う」という重い使命を帯びていた。
彼女を付け狙う不定形女性生命体・ビューナと戦う羽目になったり、突然ビューナとダイアナの二者択一を迫られてパニックになったり(何しろ前代未聞の経験だ)しながら、微妙に成長していくジャッカルの姿を描いたりする物語である。
どうでもいいけど、最後まで「ジャッカル」の本名は明らかにならないのだった。いや、本当にこの作品にあってはどうでもいいことなんだが。
また、「ファミリーレストランで一番高いスペシャルサーロインステーキセットを注文する」というシーンがこれほど勇猛果敢に描かれているのはきっとマンガ界広しといえども、この作品だけかもしれない。
店の客皆すごいオーバーアクションで驚いてるし、店員にいたっては「2800円ですよ?」とか聞き返してるし、お前らどれほど失礼なんだよw
「名言」というのとはちょっと違うのでノミネートしなかったが、最も「納得力」に溢れるのは、サカキバラ・ゴウのこの一言。
ダイアナとビューナのどちらの命を選ぶか二者択一を迫られて、喜びながらも苦悶するジャッカルの前に、突然現れたサカキバラが言う。
「経験上一言言わしてもらいたい!!!
こいつを言ったら すぐ消えるよ… 一言だけだ
つまり…………
どっちを選ぶのも自由だが……
宇宙人だけはやめておきな!!
宇宙人はだめだ!!
……ってことよ」
ジャッカル
「な…なぜそんなことを!?
なぜ 宇宙人はだめなんだ!?」
サカキバラ
「そりゃあよ お前……
おれたちゃあ 自分の力じゃ……
宇宙へは行けねえじゃねえか………」
す ご い 説 得 力 だ!!
(実はストーリー上もとてつもない説得力を持っているのだがそのへんは割愛。)
そう言って去っていったサカキバラ。
残されたジャッカルのモノローグも秀逸である。
「ありがとうよ おじさん…
でも… でもよ…
この二人…
両方とも宇宙人なんだよ!!」
ページを惜しみなく消費して醸し出す(上記のやり取りで実に5Pを要している)この味こそ、「滝沢VS週番の金沢」の昔から連綿と続く、「島本問答」の妙味なんだよなあ。
ジャッカルは、正直「獅子堂くんが妙に熱くフォロー&プッシュしてくれてるおかげでなんとか主人公の体裁を保ってる」という、「島本屁理屈ヒーロー」の中でも屈指の微妙主人公なのだが、ところどころムダに熱いセリフがあって捨て切れない。
今回「名言館」にセレクトして、幾分スッキリしました。何かが。
正論とはこの事ですよ。
ジャッカルは良い作品ですね。あの微妙な位置が。
「島本キャラで好きな奴は?」と訊かれて、「ジャッカル」と答える事はまずない、というあの辺りが。
でも「フられそうセンサー」って、使い方次第では役立ちそうですよね!
………
いや……自分で書いておいて何ですが、そうでもないですね……。
ポイントは 必ず振られる って、ことでしょうかね?
振られて傷心の子にしてみれば、感情を怒りに切り替えて即発散できるこのやりとりはすぐ立ち直れそうでよさげに見えます。 振られた から 振った に気持ちも切り替わる効果もでかいのではないかと。
と、男のわしが言っても説得力ないかもですが。
島本先生の作品は基本浅いけど深読みするとどこまでも沈んでいけるのがイイデスネ
>「自分の力じゃ宇宙へは行けねえじゃねえか」は素晴らしいですね。
名言とはいかないまでも、真理過ぎるほどに真理ですね。
島本マンガの中で「一つ教えてやろう」とか「これだけは言わせてくれ」とかのフレーズに続くセリフにはハズレなしですよねぇ。
>「島本キャラで好きな奴は?」と訊かれて、「ジャッカル」と答える事はまずない、というあの辺りが。
確かに!多分「私はカフェオレ滝沢!」と答える人よりまだ少ないでしょうね。
ちなみに私は伊吹三郎くんがダントツですね(訊かれてないよ)。この前何か魔がさして、「伊吹くんのド●ーム小説はないかな」とか検索してしまいましたがありませんでした。多分自分で作った方が早いでしょうね。いつもはドリー●にお世話になることなどないのですが、本当に通ったんですね。魔が。
>でも「フられそうセンサー」って、使い方次第では役立ちそうですよね!
>………
>いや……自分で書いておいて何ですが、そうでもないですね……。
カゼさんの文才に嫉妬しましたwww
ジャッカルの場合、人のことは鋭敏に察知するのに、自分に対しては使えないというのがキモですよね。
ただ、振られて弱ってるところに…という着眼点自体はシャープなんだよねw
宗教の勧誘とかにはすごく使えそうかも。
>>レイさん
>振られた から 振った に気持ちも切り替わる効果もでかいのではないかと。
>と、男のわしが言っても説得力ないかもですが。
あわわわわわ
いや、深い!
めっちゃ深いですよ!!
確かに、「振られた」と「振った」の振幅はものすごいですからな。
そうか〜。ジャッカルはそんな聖人だったのか…
>島本先生の作品は基本浅いけど深読みするとどこまでも沈んでいける
「基本浅い」………
ああ……誰もがウスラボンヤリと抱いていたことを、あなたは簡単に言葉にしてしまわれた……
というか、水の上をもんのすごい勢いで突き進んでいくから、沈んでるヒマがないというか。ある意味、モーターボートがとばしまくってホバークラフトみたいになってる状態というか。