2007年06月04日

眠狂四郎・勝負(1964年)映画

シリーズ2作目。
「眠狂四郎」シリーズは5,6本観たけれど、コレが一番面白く感じた。
全体的に中身が濃く、しかしストーリーを追って消化するだけに終わらず、江戸情緒や新春のどことなくゆったりした空気も感じさせる演出が凄い。
(監督:三隅研次)

<ストーリー>

初詣の神社。とある尻助(参道の階段を上る際、老人など体力のない人の尻を後ろから押してサポートし、代金を受け取る仕事の人間)の少年をきっかけに、ひょんなことから老人と知り合う狂四郎。
倹約改革とは言いながらも依然として甘い汁を吸う大名や武士、搾取に苦しみ続ける民草の現状をストレートに嘆き、憤るその老人は、元来狂四郎とは噛み合わないノリに思われたが、気さくな老人の人柄に巻き込まれるように酒席を共にする。

その直後、刺客に襲われた老人、それを助けて敵を退ける狂四郎。
老人の素性は、実は時の勘定奉行・朝比奈伊織だった。
朝比奈は心から政道の乱れ、財政の逼迫、武士の堕落、虐げられた庶民のありようを嘆き、世の中を何とかしたいという一心で精力的に倹約製作に取り組み、武士や大名に対しても大鉈を振るっていたため、敵が多かった。
特に彼を目の敵にしていたのは、将軍の娘である高姫。
家斉の娘のうちもっとも美しいと讃えられた高姫は越後の堀家に輿入れするものの、夫である藩主は早々に亡くなり、今は勝手気ままに未亡人という立場を利用して贅沢放蕩三昧。
幕府の財政からは、彼女に対する膨大な額の「化粧料」が支出されていたが、朝比奈は大きな無駄として、財政再建のためにこれを廃止したため恨みを買っていたのだ。
先ほどの刺客は、高姫とその腹心・白鳥主膳(堀家の用人)が送り込んだものだった。

背景を察して、ツンデレ気まぐれの虫がうずいた狂四郎は、一本気な朝比奈が拒否するのも構わずに、付かず離れずの押しかけ用心棒となり朝比奈を守るのだった。
白鳥の命令で朝比奈と眠狂四郎を付け狙う浪人グループの他に、二人の行く先に見え隠れする謎の女占い師・采女。浪人たちを手引きするなどして朝比奈と狂四郎を殺めようとするが、実はバテレンである夫が白鳥たちに捕らえられ、その釈放と引き換えに密偵を行うように命じられていた。
采女は徐々に狂四郎に心惹かれ、湯屋での狂四郎の窮地を救ったことなどから逆に白鳥に捕らえられる。

一方朝比奈は、狂四郎と行動を共にするうちに、無頼のニヒリストでありながらも、弱い者・無垢の者に対してふと優しさを見せる狂四郎の人柄に興味を募らせて押しかけるように行動を共にする。

高姫は、狂四郎への色仕掛けが突っぱねられて完全に逆上し、柳生但馬守との架空の御前真剣試合を開催し、仕掛けをほどこした刀によって朝比奈・眠両人を殺そうと画策するが失敗。

捕らえられた采女を救うため、罠とわかっていて白鳥一味の潜む原野へ単身乗り込む狂四郎。降り注ぐ矢の雨、待ち受ける手練れの浪人たち。円月殺法はこの窮地を切り開けるのか?


ま、例によって切り開けるわけなんだけども。

とにかく、朝比奈様役の加藤嘉が最高!!
ピンシャンとしてて豪放で、ちょっと人の良すぎる危なっかしい感じがたまらない。
必殺や三匹シリーズ同様、シリーズが進むにつれて「いい人=登場した時点で死亡フラグ」が定番の眠狂四郎シリーズ(むしろ、「最終的に手を貸すならさっさと最初の犠牲者助けろよ」という展開が多い。ヒロインも同様)なので、あまりにもいいキャラの朝比奈様が今にも死ぬんじゃないか刺されるんじゃないかと、そればかりハラハラ。
だって狂四郎は絶対死なないと分かっているので、ハラハラポイントがそこしかないんだもん。
「あああ朝比奈様、1人で出歩いては危険です〜〜!」
「狂四郎、どうせ一緒に歩くんだったら朝比奈様の後ろに回るか並んでやれよ!」
と、とにかく朝比奈様の身のご安全ばかりが気になる映画ですハイ。
後半、逆転して狂四郎に興味を持ち、行き先をストーキングする朝比奈様、扱いに困って半ギレする眠様、どっちも可愛くて萌え死ねます。

また、三者の美女もそれぞれによい。

傲慢で淫蕩な高姫=久保菜穂子
謎めいた頭巾の女占い師・采女=藤村志保
不幸にめげず明るく生きる夜鳴き蕎麦屋の娘・おつや=高田美和

特におつや坊の純朴な可憐さはシリーズ屈指かと。
この子もあまりにもいい子なものだから、「いつ殺されてもおかしくない」とハラハラドキドキだったよ…
藤村志保は相変わらず美しくて良い!のだが、前日見た「眠狂四郎無頼剣」にも出演していたので、途中で役どころが激しくコンガラガッチャカしてしまった。

狂四郎を狙う腕の立つ浪人たちも、出番やセリフは決して多くない中で、それぞれに事情を抱えていたり、「剣客として眠狂四郎と戦い、円月殺法を破りたい」というプライドがよく描写されていた。

これまた出番は少ないが、御前試合のダシに利用された柳生但馬守も、権力に阿らず、剣の勝負は既に真摯でなければならないという姿勢、狂四郎の実力を瞬時に見極め、リスペクトする態度など、存在感があってよかった。

改革推進者と反対派、幕府や大名の腐敗、庶民の苦悩、円月殺法をめぐる戦いなど、さまざまな要素や人間関係が詰め込まれているにも関わらず、それを消化するのにイッパイイッパイという感じでは決してなく、1時間23分の中に見事に収められている。
それでいて本来の娯楽性、そして「初詣に終わり松の内の中で事件が終わる」という、全体を通して流れる「正月気分」がきちんと表現されている。新春の運勢を見る占い師や、居酒屋で噂話をする万歳楽の芸人など、ところどころで「正月な」演出がされている。
(この作品は1964年1月9日公開の正月映画だった。正月早々から円月殺法というのもなんか凄いものがあるが)
また、要所要所で物売りの口上(占い師や夜鳴き蕎麦の客引きの声など)が流れ、細かいところで江戸時代の風俗や情趣が漂ってくる。けっこう美術も細部までこだわっている。こういう部分でいきなりウソっぽいと一気に興が冷めるものなので、他にも見えないところに気が配られているのだろうと思う。
ラストシーンも余韻十分だし、本当に、情緒を保ちつつ全てを1時間23分に集約する監督の手腕に脱帽。

こんなに出来がいいのに、なぜか先日の「連続4本放送・眠狂四郎ウィーク」には放送されず、衛星映画劇場の単品としてこっそり放映された。どうせなら企画期間中に入れようよ!
まあ、藤村志保だらけになっちゃうけどさ……


この作品では、後ではなかなか見れなくなる「狂四郎の笑顔」が色々堪能できるので、雷様萌えの方々にもお勧め。
よく見る「口角だけの笑み」「からかうような笑み」の他にも、おつや坊や朝比奈様に対して見せるナチュラルな笑顔は貴重。

見終わって気付いたのだが、この「勝負」は、シリーズ恒例の「曰くがあろうが罠だろうが、関わってきた美女はとりあえずごっつぁんです」がない。
高姫は高慢で淫らに迫ってきたが、「自分からお股パカーン」の女には食指を動かさないのが狂四郎のセオリー。
そしておつやちゃんはあまりにも純朴でオボコ。オボコちゃんにも無体を働かないのが狂四郎スタイル。
で、藤村志保の役所は「夫のために危険な仕事に身をなげうつ」操の堅そうな人妻。シリーズによってはこれは食べられちゃう可能性もあるのだがセーフ(意外に藤村志保の狂四郎による補食率は低いのだが)。
「刺客は斬る、女は犯す(とはいえたいてい半分同意なんだけど)」の狂四郎にしては生臭さの低い話に仕上がっている。
とはいえ、「いい人過ぎる」「狂四郎らしくない」ってことも決してないのだった。


作中に「柳生但馬守」が登場するが、天保年間の話なので、当然ながら、多くの人が「但馬守」と聞いて想像する柳生宗矩(十兵衛パパ)ではない。代々の柳生家当主の中で何人も「但馬守」を任命されているのだが、年代からして柳生俊章(10代目藩主)と思われる。
posted by 大道寺零(管理人) at 05:40 | Comment(2) | TrackBack(0) | 映画
この記事へのコメント
 おっ、大道寺さんもお好きですか♪眠狂四郎。
 私のお気に入りは「女地獄」です。伊藤雄之助の浪人・仕官熱望が、安物の刀の残骸を手に「三両は三両か」と泣かせることを・・・田村高広もいい味出してて。初めて観た子供のころ、「女天国、やんか」と思ったのを思い出します。
 変態bPは、誰しも「人肌蜘蛛」を挙げるでしょう。江戸川乱歩風味というのか。
 市川雷蔵は、私の高校の先輩です。近隣の女学校の生徒から騒がれていたそうです。芸のために中退したという雷様でした。
Posted by ネコトシ at 2007年06月06日 05:06
>>ネコトシさん

中学生の時にTVで「眠狂四郎」を見て以来、眠のダンナと雷様にゾッコンなのであります。あのような「水も滴るいい男」を知ってしまっては、同世代の女の子が血道をあげる光GENJIもチェッカーズも鼻タレってもんでございますよ、ええ。

>初めて観た子供のころ、「女天国、やんか」

またなんと的確なw
まあシリーズ通して女天国ですね。関わった女性達にとっては天国なんだが地獄なんだかよくわかりませんが…

>「人肌蜘蛛」

評判のいい作品のようですね。まだ見たことはないのですが、このあたりになると市川雷蔵も病みやつれてそぎ落とされたシャープな雰囲気がまた鬼気迫っていたと、一押しの方も多いみたいです。機会があれば是非見てみます。
「女妖剣」も、かなり猟奇エログロが前面に出た異色の作品でした。珍しく血しぶきドバドバですし。

>近隣の女学校の生徒から騒がれていたそうです。芸のために中退したという雷様でした。

学生服姿の雷様を想像してしばしうっとりしました。そりゃ周辺の女学生はメロメロだったでしょうね。
市川雷蔵自身は梨園とは無縁の一般家庭の出で、色々あって養子になり、その後再度養子縁組をするなど、なかなか慌しい少年時代だったようですね〜。
Posted by 大道寺零 at 2007年06月06日 10:51
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