この事件の捉え方を大きく変えなければならないかもしれない。
外務省岩屋たけし副大臣のブログで、今回の滋賀の無戸籍女子高生パスポート問題の流れについて分かりやすく解説するエントリーがあった。
これまでこの件に関する情報は、マスコミのニュースや支援者のサイト及びブログしかなかったので、外務省側からの記事はそれ自体がとても貴重である。
政治家のブログやサイトもピンキリのクオリティだが、少なくとも一軒に関する記述はきわめて平易で分かりやすく、また女子高生とその現在の家族を貶めないような表現に配慮されていると感じた。
「国会は延長必至の情勢です。」(6/20)より
黒霧さんから、例のパスポート発給の件についてのお話がありましたね。
麻生大臣はずいぶんと努力されたんですよ。本来はパスポートを出せないところを省令を改正して出せるようにしたのです。
ただし、正式な離婚が成立するまでは民法上の要請からどうしても前夫の姓で発給せざるをえない。
その場合も( )して、現在の姓を書けるようにしたのです。これは大臣ご自身の判断でした。もちろん、離婚成立後はただちに記載を変更することができます。
パスポートって、通常は入管の人しか見ないものですからね。ご不満もあるでしょうが、今回の措置を受け入れてぜひ修学旅行に参加して欲しかったと、とても残念に思っているところです。
さて、この文章を読んで気になるのは赤字部分である。
というのは、これまでのマスコミ報道の中では、
「女子高生K.Sの母とその前夫は1992年に離婚している」
と記事に書かれ、読み手もその前提で、ある人は同情し、またある人は疑義を抱いたりしていたわけなのだが…
これ、「前夫との離婚が成立していない」のであれば全然話が違ってくるのだ。
第一、その条件であれば、「現在の"夫"」という表現からして間尺に合わないことになる。重婚は民法上許されていないのだから。
(なお、片方の婚姻関係が継続している場合は、「事実婚」ですらない。)
で、さらに今日更新された新しい記事。
重ねてパスポートの件について。
本件の場合、正式な離婚は成立していないのですね。お子さんはお母さんが前夫と婚姻関係にある間に他の男性との間に産まれているのですが、離婚が確定していない以上、民法上は前夫の子とみなさざるをえないのです。(他方で民法の300日規定については目下、与党間でも議論が進行中ですが。。。)
ただ、この「前夫」にはひどい家庭内暴力があったということで、お母さんとしては連絡を取ることもできなくて離婚手続きを取れなかったとも聞いています。しかし、いつまでもそのまま放置するというわけにもいかないでしょうからね。代理人を立てるなどして、できるだけ早く手続きを完了されることがお子様のためにも望ましいと思います。
いずれにしてもお子さんには責任のないことですからね。そこで、省令に「戸籍のない者についての例外規定」を設けることにしたのです。条件としては三つで、(1)親子関係確定の手続きが家庭裁判所において開始されていること、(2)旅券には法律上の氏(現行民法の規定により決まる氏)を記載すること、(3)渡航目的が病気治療や修学旅行等、戸籍に記載される前に渡航を認めるべき人道上の理由があること、としたわけです。いろいろ検討したんですけどこれがギリギリいっぱいだったのです。
ええ〜、やっぱり離婚が成立してないのか!
うんうんそうとなると話が変わってくるぞ……ってそりゃ、「今の父の姓」で旅券が出るわけないだろ……
「母の夫」ですらないんだから……
(そしてこの時点で民法772条の300日規定とはまた別の問題になってくるわけだが)
(注:一応「女子高生の出産時には離婚していなかった(現在は離婚が成立している)」という読み方もできるので、後続記事を見守りたいと思います。)
そして一方、女子高生と支援団体はマスコミ向けの記者会見を開き、かような電波を飛ばした。
Yahoo!ニュース - 毎日新聞 - 滋賀・無戸籍女子高生:実父の姓で旅券発給認められず 海外修学旅行を断念 /京都
母親が前夫の家庭内暴力から避難している期間に出産したことなどで戸籍がない滋賀県の高校2年の少女(16)が、出生以来使っている実父の姓での旅券発給を認められず、今月ある海外への修学旅行への参加を断念した。19日、京都市内などに住む支援者らと県庁(大津市)で記者会見した少女は悲しみとともに、今後も国に改善を求める思いを語った。【太田裕之】
少女は今年1月に旅券を申請して拒否され、2月に外務省と法務省を訪れて発給を要請。国は6月から、離婚後300日規定への対応で戸籍がなくても旅券が発給できるように改めたが、法律上の姓の記載などが条件づけられた。少女の場合は出生時に母と前夫との離婚が成立しておらず、法律上の姓が前夫の姓となるため、支援者らと集めた1万4603人の署名を持って12日、麻生太郎外相に面会。実父の姓での発給を改めて要請したが、外相は「偽造パスポートになる」などと述べたという。
母親と並んで会見した少女は「私の16年間の人生は何だったの? 私の名前は偽造なの? そんな言葉が頭を巡り、とても悲しくつらく悔しい気持ちで、いまだに立ち直れません」と心情を吐露。「見た事もなく母に暴力をふるった人の名前では行きたくない。修学旅行はあきらめざるを得ません」と語った。
要請に対し、外務省は「民法772条がそうだから」、法務省は「外務省の判断ですので」などと説明したという。少女は「(責任の)なすり合いをする大人はずるい」と指摘。「この問題は終わりではない。次に泣く子が出ないよう、これからも私ができる事を精いっぱいしていきたい」と決意を語った。
会見には、婚外子差別に反対する京都市の市民団体「LEMON+C」と、兵庫県の「民法と戸籍を考える女たちの連絡会」のメンバーらも同席。「少子化の中で一人一人尊重すべき子供の人格・人権がないがしろにされ、とても悔しい。弁護士会への人権救済申し立てなども検討し、運動を続けていきたい」と話した。少女の通う高校の校長の「社会に一石を投じた。彼女の強い信念に学びたい」とのメッセージも紹介された。
「今の君の姓(母の同居人の姓)で旅券を作ると、法律上偽造パスポートになってしまう」
↓
「私の名前は偽造なの??」
何ですかこの素晴らしすぎる国語力。
以前の「772条改正と戦って行きたいと思います!」発言でも大体そうじゃないかなーと思っていたけどもうダメダメすぎる。義務教育からやり直してくだちゃいねー。
「偽造とまではかわいそうだから言わないけど、悪いけど通名です。それについては貴方は悪くないけれど、適切な手続きを取らないあなたのお母さんと、それをバックアップしない遺伝上(と母が主張している)の父には問題がありますね」
って言ってやらないとわからんのだろうな。多分言ってもわからんだろうけども。
「(責任の)なすり合いをする大人はずるい」と指摘。
そもそも親が果たすべき責任を何も行っていない、安全に手続きを行う方法を調べようともしないあなたの母親はもっとずるい。
ちなみに、親が果たすべき手続きの責任については、毎度おなじみ支援者組織「LEMON+C」のブログ・「時々戸籍が気にかかるKai?」ではこのように書かれていた。
「本日滋賀県庁で記者会見」より
親には子どもに対して責任がある、ということと、親と子は別の人格であり、親がどうあれ子どもの人権は尊重されなければならないということとは同義ではない。さらに言えば、法律上正しくない父である真人さん(仮)は、充分に責任を果たしていると思われる、と、子ども自身が明言しています。(今日は父もがんばった)
さすが以前にも
「 外務省令でパスポート発給…本当?」より
外務省令…。親の努力を要件にせずに、子どもの人権からつくってくれよ〜〜
などと臆面もなく書く人は一味も二味も違いますな。
この問題は終わりではない。
あなた個人の戸籍問題としては、なすべき手続きをとれば終わります。っていうか前夫との離婚手続きを先に終わらせてもらいましょうね。
しかし、校長のコメントもなんだかなーという感じである。
とはいえ、もしも、そのままの言葉で「お前もたいがいにせーよ」というわけにも行かず
「社会に一石を投じた。彼女の強い信念に学びたい」
↓
↓
<本音>
「とんでもない生徒一人のせいで、例年通りとどこおりなく企画運営されるはずの修学旅行計画が大いに乱された。マスコミにもつっつかれるしえらい迷惑だ。
大臣接見だの記者会見だのするパワーがあるなら、それを学業に振り分けてもっとまともな国語力と社会的常識を身につけろや」
というイヤミであったならば評価したいが……
外務省は今回、「この少女だけの特例」ではなく、省令を出して旅券発給の要件を大幅に緩和したわけなのだけど…
こういう言い方は極論になってしまうけれど、彼女らの最終的な要求はあくまで「民法772条の改正」であって、「外務省令」や「旅券法」そのものではない。
だから、意外に今回の「省令」によって得られそうになったパスポートはどうあっても受け取るわけには行かない、むしろこういう流れで緩和されたことは「迷惑」なんじゃないか?とすら、一連の支援者ブログや言動を見ているとそこまで考えてしまう。
日本の外務省は確かにしょーもないこともしてるし外交はヘタだけど、今回の件に関してはギリギリまで譲歩を行ったと思うしすべてにおいて大人の対応として正しかったと思う。
で、現在の世界情勢、特にアジア情勢を見れば、外務大臣がヒマじゃないくらいのことは小学生でも分かるはず。
聞き分けのない女子高生と筋の通らないことばかり主張する支援団体の恨み言を聞くだけのために大臣のスケジュールを数十分割くってのは、それだけでエラいことさせてると気付いて欲しい。やらなきゃならんことは山積みなのだよ。
譲歩した上に(半分パフォーマンスであれ)誠意を示して直接説明したのに、「じゃあ私の名前は偽造なんですね!」とか逆ギレされる外相には、この件については心から同情せざるを得ない。(マスコミニュースの文面が外相叩き方向なのも含めて)
日経のニュースではこうも報じられている。
日経ネット関西版『滋賀の無戸籍生徒、「私の名前は偽造?」──旅券発券求め陳情、外相発言に「悲しい」』より
生徒の母親も「テーブルを挟んで外相がとても遠くにいるように感じた」と無念そうに話した。
いやまあ実際一国の外務大臣なんてのはそれなりに遠い人だし。
多分、「テーブル越しってのもなんなので、隣に座って(あるいは向かい側に立って)女子高生の目線で語りかけよう」ということで接見しても、彼女らはきっと
「外相は必要以上に密着して腰掛け(立ちはだかり)、威圧感を与えて反論や発言を封じようとする意図がありありと見えました」
とかなんとか言って、難癖をつけていたんじゃないかねえ。まー想像だけども。
戸籍問題について、女子高生は何も悪くない。
しかるべき手続きを怠り続けた母親には重大な責任があり、義務に対する怠慢があった。とはいえ、深刻なDV被害や無知ゆえの結果であれば多少は同情の余地がある。
しかし、「偽造の旅券になってしまう」⇒「ひどい!私の名前が偽造なんて!」と間違った論理で揚げ足を取って、便宜を図ろうとした団体や個人への筋違いの非難をする行動については、多くの第三者から批判を浴びても仕方のないところではないだろうか。