2007年06月21日

利用された修学旅行(5)日記

不利な立場に立たされた人、困っている人を助ける「支援組織」が存在することはとても有益なことだ。
団体・個人に関わらず、K.Sの母親のような女性を「支援」するというのはどういうことだろうか。

・夫のDVや追跡から逃れ、安全に暮せる環境を提供する
・当座の生活の支援
・育児・就業の支援

という基本的な事柄のほかに、

・今後の生活のために必要な法律的手続・行政手続のアドバイスと支援
・状況改善のために利用できる行政サービスの紹介、法改正の通知

などが挙げられる。

例えば、彼女の母はDVから逃れるために必要な手続きを行うことが不可能であった、と言っている訳だが、当時と現在では、DVやストーキング・つきまといに関する法律や行政・警察の協力体制が大きく異なっている。
そうした改正法やサービスの存在を正しく伝えているのだろうか?
むしろ自分たちの要求を通すため、そのプロパガンダ材料のために娘の無戸籍状態をキープさせるべく、
「こんな制度は実際には無力」「警察は動いてくれないよ」
などと、ネガティブキャンペーンばかりを行っていないだろうか?

という点に大きな疑問を抱いている。

例によって「時々戸籍が気にかかるKai?」より引用。

<戸籍について>

このブログのログを遡って他の記事も読んでみるとよく分かるが、彼女達のスタンスの主な要点は

・法律婚を男女差別、女性の人権侵害として事実婚を推進
・事実婚論者にとって不利益と面倒をもたらす戸籍という制度を否定


にある。

で、戸籍の欠点として、「誰でも戸籍抄本・謄本を請求できる」「戸籍内の情報により、誰にでもプライバシーや居住地を追跡されてしまう」という点を挙げている。

「破壊的なのは保守?」より(2007/6/25)

しかし、もう一つ付け加えるならば、私たちが関わっている「滋賀の高校生」のパスポート申請は、「それでもつくることができない」ケースです。なぜならば、前夫のDVから今も真剣に逃れようとしているからです。戸籍に残る足跡。追跡機能をストップさせる以外に「登録」はかなわなかったのです。母の「氏」こそが「絶対に」表に出せないもの。ゆえに「実の父」の住民票に直接登録されたのです。
しかし、そのように生きてきた「今の名前」こそが、高校生の「名」です。"


報道などで言われている「DVの夫の追跡から逃れるために手続きができなかった」というのは、実際に必要な手続きが何段階にも及ぶため、どの時点のことを言っているのかはよく分からない。
しかし、上のブログの引用部分を読む限り、

「いくつかの手続き(親子関係不存在の訴えなど)を経て、親権者である母の子となったあとの戸籍作成」についても「追跡されてしまうので新しい戸籍を作れない、だから無戸籍のままでいるしかないのだ」という主張と解釈できる。

しかし実際には、DV避難者への配慮から、DV加害者やその関係者の閲覧を制限できるような変更がなされている。

ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等の被害者保護のための住民基本台帳事務における支援措置の実施(総務省)

これによれば、
・住民基本台帳の閲覧
・住民票の写しの交付
・戸籍の附票の写しの交付
について、

加害者が判明している場合、加害者からの請求については、「不当な目的」(法11、12、20条)があるものとし、交付しない又は閲覧させないこととします。
  その他の第三者からの請求については、加害者が第三者になりすまして行う請求に対し交付する又は閲覧させることを防ぐため、住民基本台帳カード等の写真が貼付された身分証明書の提示を求めるなど、本人確認をより厳格に行います。
  また、加害者からの依頼を受けた第三者からの請求に対し交付する又は閲覧させることを防ぐため、請求事由についてもより厳格な審査を行います。


という、かなり突っ込んだ対応を行っている。

この文書は平成16年5月31日の日付で、
今般、総務省は、本研究会の報告書に基づき、省令及び事務処理要領の改正を行いました。これらに基づき、本年7月1日より、地方公共団体において統一的に支援措置が講じられることとなります。


とされている。

この団体の別記事によると、K.S親子のことはもう12年も前から支援活動を行って見ているなのだから、昨年のこの改正に伴って行動に出てもよいわけなのだが、実際は今年の6月の記事において、

なぜならば、前夫のDVから今も真剣に逃れようとしているからです。戸籍に残る足跡。追跡機能をストップさせる以外に「登録」はかなわなかったのです。


などと、閲覧制限ができる事実がまるで存在しないかのようにミスリードを誘っている。
K.Sの母親がDVの元(?)夫から逃げているのであれば問題なくこの制度が利用できる。
もし昨年7月にこの制度を利用して手続きを始めていれば、今いよいよ出発するという月になって「前の夫の姓じゃイヤ」とかなんとか言わずにすんだわけなのだが…

また、養子縁組する際には、元父の戸籍に子の転籍先の本籍地が記載される。
しかし、よく知られていることだが、戸籍の「本籍地」は実際の居住場所と一致する必要はない。実際に皇居だの東京ディズニーランドの住所を本籍地として登録している人もいるし、「恋人との思い出の場所」を本籍地にする人もいる。
(戸籍本体は、本籍地+戸籍内に存在する人間の続柄を示すものであり、具体的な住居の移動などが記されているのは附票)

また、DV防止法に基づく保護命令の申立の際や離婚調停の申立書に書く住所も、婚姻当時のものでかまわない。
親子関係不存在の訴状等の住所は実際に書類の届くものでなければならないものの、代理人として立てた弁護士の事務所でも大丈夫だし、また段階的に住民票・居所を移して、法的な決着が付いたあとに転居するという方法もある。
調停の際も顔をあわせる必要はないし、DV被害の実情を話せば、現在は全ての手続きにおいて代理人が取り計らうことが可能になっている。

「夫のDVが…」というのを全ての怠慢の理由にしているものの、現在大きく便宜が図られるようになった状況をなぜ利用しないのか。また知らせていないのならなぜ教えていないのだろうか。
まるで「支援」と言いつつ、この十数年間の世の中の流れからあえて目隠しさせているようにすら見えるのは気のせいだろうか…

(それ以前に、16年も経ってまだ追跡を受ける可能性がある、知られれば命に関わる…というのであれば、脅迫罪やストーカー防止法の適用対象にもなるので、警察に相談するなり保護を願い出た方がよさそうなもんだが)


<DNA鑑定について>

民法772条が「古い」「現代にそぐわない」と言われるのは、現在ではDNA鑑定によりかなり正確に遺伝上の親子関係を証明できる手段が出てきたことが大きく関わっている。
「昔は血液型くらいしか親子関係を類推する根拠がなかったから、母子保護のため・父親バックレを防ぐために772条が必要だったけど、今は科学的に証明できるんだからいらないでしょ」ということだ。

実際、今行われている民法の見直しにおいては、「DNAによる医学的な鑑定があれば、従来の嫡出否認や親子関係不存在を認める訴えというプロセスを簡略化できるようにすればよいのではないか」という案が盛り込まれている。

しかし、「LEMON+C」は、このDNA鑑定すらも否定する。

772の見直しは、小手先であり、ひーちゃんも旅券申請さ」より(注:少し読みにくいので改行を加えています。)

 15日の公明党の民法772条問題対策プロジェクトチーム(座長・丸谷佳織衆院議員)に提示された新制度の原案は、
〈1〉離婚後の懐妊を医師の証明書で証明できる場合は、非嫡出子または再婚相手の子としての届け出を認める
〈2〉再婚後に出産した子であり、前夫に異議がなく、DNA鑑定で親子関係が確認された場合は、再婚相手の子としての届け出を認める――という2ケースを規定している。(原文引用)


 問題点その1。離婚が成立する以前にDVで逃げてる女はどうなるの? その2。DNA鑑定って、やめてよね。それが必要というなら、婚姻中の夫も全部したほうがいいんじゃないの?鑑定通りじゃないことがありえないと、なんで、法律婚なら言えるわけ? 読売の解説でも指摘してたけど、民法をいじると、「家」制度の全部とかかわって、不具合が生じるから、そこはやっぱりさわらんとこ、っていうのが問題だよね


逆ギレにすらなっていない支離滅裂さである。
K.S母子の一件について、DNA鑑定を受け入れるのかどうかということは何も情報がないのでどちらかわからないが、支援団体のこの姿勢から見て、拒絶的である可能性が高い。

離婚前妊娠や300日条項とぶつかって悩んでいる女性には、DNA鑑定を簡略化の手段として用いる方向に進むのは朗報だと思うのだが、なぜそれを「婚姻中の夫もしなさいよ」などとわけの分からないことを言って拒否するのだろうか。
もし「私は母だもの、誰の子か自分がよく知っているわ!」などと言い出すとしたら、もはやオカルトの域なのだが……

772条にからめとられた外務省」エントリーでの管理者コメントにはこのようにあった(現在は削除)。

>Commented by fuyukikai at 2007-06-14 00:03

それから、発給できません。と言い切ってしまったら、それで話は終わってしまうわけで、「戸籍の記載なし」状態の人が現に存在している以上、現行法上でどうにか柔軟に対応できないかと、頭をひねり、また、いくつかの案もあるのですが、あえて、それを行わないわけです。


ハァ????????

離婚前妊娠⇒出産という経緯を辿った人(中には夫のDVがセットだった人も勿論いる)がみんなK.Sの母親のように、高校進学してもなお親の義務である手続きを行わず無戸籍状態にしているわけではない。大多数の母親と遺伝上の父親は、きちんと法の定める手続きに則って、遺伝上の親子関係と一致する戸籍を入手している。
誰だって、嫌な思いをしていないはずはない。
前夫に頭を下げて嫡出否認をしてもらったり(嫌な気分は前夫だって同じことだ)、親子関係不存在の確認をしたり、それは決して楽ではない。
しかし、何の非もない子のため、また親と子の法的な立場が将来にわたりねじれたりすることのないように、痛みに耐えて手続きを行っている。

「LEMON+C」代表者らは、これらの手続きを「民法の想定する模範的な夫婦関係から外れた者やその子への罰であり差別」として糾弾しているが、実際には法的なねじれよじれを引き起こさないために一つ一つ必要な段階なのだと、今回の件を追いながら調べてつくづく実感した。
実際、K.Sは自治体の温情によって住民票を交付されて諸々のサービスを享受しているわけだが(本来、戸籍のないものを住民登録しないようにという通達がある)、本人の認識も法的な存在の根拠も16年代の間にねじれよじれまくりだ。

今悩むのは旅券のことだけで済むが、ずっとこのままだと、将来法律婚はしたくともできない。
また、前夫が亡くなったり、あるいは既に亡くなっていたりした場合に法定遺留分はどうなるのか?(多くの場合、戸籍にあるが実際に子でないばあいは遺産相続の権利があるとは見なされないようだが…)など、むしろこれから年を取ってからの方が法的なよじれのツケが重い形で回ってくる。

手続きの煩雑さや心痛に耐えて、親としてなすべき責任の手順を果たした多くの離婚前妊娠経験者の方々は、このようにゴネまくるK.S親子を見てどのような感想を抱いているのだろうか?

これはまた邪推なのだが、この母や支援団体が一番恐れているのは、前夫が協力的な態度で名乗り出ることかもしれない。
そしてもしその前夫が
「君には本当に悪いことをしたと思っている。正式に離婚に応じようと思ったが、君の住所を探すことができなかった。
これから未来永劫に渡って君や娘さん、娘の父親に付きまとうようなことはしないと誓うし、離婚の手続きや嫡出否認など、君と娘さんのためにできることは全て協力するよ」

などと言い出した日には、プロパガンダが一気に水泡に化して真っ青になってしまうのではないか…
とまあ、これは想像が過ぎるというものですな。

DV被害を、16年も手続きを怠っていた免罪符にするようなやり方は、実際DVと闘っている被害者(逃亡中、避難中の人含め)への理解の足を引っ張るようなことでしかないと思う。

「弁護士会への人権救済申し立てなども検討し」などと鼻息を荒くしているが、弁護士会へコンタクトするならば、国を相手取る手続き以前に、離婚や遺伝的親子関係と一致する戸籍を取得するための正当な手続き代行を(前夫からの追跡・暴力を受けぬよう)依頼すればいいんじゃないかな。順番として。
posted by 大道寺零(管理人) at 22:22 | Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
DVの夫から逃げてきたといいながらも離婚の手続はできたのですから、嫡出否認の手続に対する労力やリスクはそう大して変わらないのではないかと思っていましたが…(前夫に離婚届を一緒に作ってもらえない限り、離婚調停や裁判をふまえなければ離婚は成立せず、たとえ妊娠中であっても子供がいればその子に対する養育費等についてもその場で話し合われることは必至ですよね。ここでは養育費以前の問題ですが…)
DVの保護命令についてですが、過去に働いていた弁護士事務所で、DVで訴えられたお客さんがいましたが、すぐに保護命令が出ました。こちらも加害者側として、答弁書?(忘れてしまいました)や上申書を出したりしましたが、ほとんどなすすべもありませんでした。加害者側の言い分はほとんど聞いてもらえないと感じました。
また、住所が知られるのが怖いのであれば、書類上の住所と実際の住所を別にする(親族、あるいはDVへの支援団体、いわゆる「駆け込み寺」に協力してもらう)こともできると思います。
ただ、彼女たちは、772条改正を主張する団体からの情報によって、DV及び現行法上の手続に関する情報を得られないような状況に置かれていると思います。ある意味かわいそうだと思います。
Posted by ぺんぎん at 2007年06月22日 11:20
>>ぺんぎん様

法律関係の職場でお勤めでいらしたのですね。私が法律のことでトンチンカンな誤解を書いていたらどうぞご指摘いただけると幸いです。

>DVの保護命令についてですが、過去に働いていた弁護士事務所で、DVで訴えられたお客さんがいましたが、すぐに保護命令が出ました。こちらも加害者側として、答弁書?(忘れてしまいました)や上申書を出したりしましたが、ほとんどなすすべもありませんでした。加害者側の言い分はほとんど聞いてもらえないと感じました。

この滋賀の件とはかかわりなく、あくまで一般論としての感想ですが。
性質上、緊急保護や避難が必要になる事例が多く、また手続きや事実関係精査にかかっている時間の間に傷害・殺人事件に発展した場合に今度は行政側の責任に転嫁されてしまうこともあり、「被害者の訴え最優先」で動かなければならないのは仕方がないのかもしれませんが、加害者として訴えられ、前向きな話や手続きを取りたくとも保護命令で近づけない状況の人の権利を考えれば、現行のDV防止法はやはり穴が大きいのでしょうね。

・被害者の言い分に極端なウェイトが置かれる
・「やっていない」と証明することに大きな困難と煩雑さが生じる
・一度加害者とされた場合、著しく社会的な立場や名誉が損なわれる
という2つの点においては、痴漢冤罪と似ている部分もあるかと思いました。
また、どちらにおいても
・冤罪や相手を陥れる目的の虚偽の訴えが増えれば、本当に被害に苦しむ人たちが正当な訴えを行ううえで、「ウソではないか」「被害者にも問題があったのではないか」などと不要な先入観で見られるなどの不利益に繋がる
ということが最大のデメリットとなる点を何より憂慮すべきだと感じます。

滋賀の母子の前(?)夫のDVの程度、実際にあったかどうかは何も分かりませんので確定したことは言えませんが…もしDVの程度が母の主張するほどではなかったとか、「追跡して危害を加えようという意図を持ち合わせていない」「むしろ離婚手続きを行うために母子を穏便な手段で探そうとしていた」などの状況であった場合、とんだ名誉毀損だと思います。
(だいたい母子が主張するほどの執念をもって追跡していたのであれば、署名の場や記者会見の場に現れたり、また学校も地元ではほとんど特定されているでしょうから校門に張り込んだりしそうに思います。そしてそのときこそ警察や家裁の出番のはずなのですが…)

>ただ、彼女たちは、772条改正を主張する団体からの情報によって、DV及び現行法上の手続に関する情報を得られないような状況に置かれていると思います。ある意味かわいそうだと思います。

この女子高生親子は、支援者ブログによれば、遅くとも4歳のころから団体と関わりがあり、またテレビ(毎日放送)の取材にも応じて番組が制作されたそうです。
そのような活動は早くから行っているにも関わらず、DV法の整備や必要な法的手段について正しく知らされていない(むしろ遮断されていたのでしょうか)のであれば本当に不憫な話です。
もしかして、過去に何度か
「もう何年も経ったしそろそろ正式な手続きを…」
という発想に至ったことがあったかもしれません。で、その都度
「ダメよ!手続きを始めたら住所が割れて命が危ない!」と刷り込まれていたとしたら…
まあこれはあくまで妄想なのですが、そのようなことがあったとしたらまさに洗脳であり、精神的暴力と呼んで差し支えないように思います。
Posted by 大道寺零 at 2007年06月22日 17:34
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:[基本的に空欄を推奨します。詳細はこちらをご覧ください。]

ホームページアドレス:

(コメント投稿後、表示に反映されるまで時間がかかる場合がございますのでご了承の上、重複投稿にご注意ください。)
コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。