法律ならあんたのほうが詳しいかもしれない。
しかし弁護士というものは、真実を無視し、無実の人間を死刑にしてまで犯罪者の人権をかばうものだと思っているうちは、それは違う。
法律的には許されるものだと思っているとしても、それは違う。
あなたも、将来弁護士の道を進もうとしている人なら、これだけはよーーーくわかってもらいたい。
弁護とは…!真実に目を瞑って誤魔化すことじゃない!
お互いに真実を曝け出した上で犯罪者の人権をかばうことだ!わかるね。
私は、お父さんに真実を語らせることが、お父さんを助けることだと思う。
お父さんは、14年間苦しみに苦しみぬいた。
私は…君塚さんを助けてあげたい。
特捜最前線第85話「死刑執行0秒前!」より
この話は特捜最前線DVD−BOX3に収録されている。このBOX内で最も高いクオリティを感じ、またBOXシリーズを通じて心に残るセリフだった。
この言葉を熱く語るのは大滝秀治演じる船村刑事(通称「おやっさん」)。船村刑事の活躍する名エピソードは多く、独特のテンションの熱演シーンも数々あるのだが、これは間違いなく五本の指に入ると思う。
「弁護の本質」について語られる切り込むような言葉は、例の光市母子殺害事件の被告とその弁護団の選択した「戦術」について、多くの人間が感じたであろう
『弁護士はここまで被害者と遺族の尊厳を蹂躙してよいものなのか』
『弁護活動のため(というか彼らの場合は「死刑廃止論死守のため」なのだろうが)なら何をしても許されるのか』
という憤りや不信感に対して、
『こうあるべきではないのか』
という考え方を、非常に分かりやすい言葉でストンと心に収まるように語っているように感じられた。
この話が放送されたのは1978年11月。
今から実に30年も前に、この骨太な刑事ドラマの中で、この金言は綴られていた。
この物語は、丁々発止の法律論のやり取りがとてもスリリングで面白く、特捜全体を通じてもちょっと変わった切り口の話といえる。
船村刑事が実に14年前に関わっていた殺人事件があった。
東京オリンピックの年、昭和39年。高利貸しの一家4人が刺殺された事件では、家族との折合いと素行の悪かった次男の阿久根稔が犯人と目されて逮捕された。
当時、尊属殺人規定に対する違憲判決はまだ出ていなかったため、阿久根には一審にて死刑の判決が下され、控訴も却下され、死刑囚としての拘留が14年続いていた。
しかし船村刑事は死体のなかに阿久根家の用心棒・宍倉の姿がなく行方不明であったことから、稔の無実を信じ、その立証のために宍倉を探し続けていた。
その宍倉の白骨死体が今になって工事現場から偶然に発見された。船村はこれを手がかりに稔の無実を証明しようと拘置所に向かうが、死刑執行停止までの猶予はわずかに26時間と知らされ、猶予のない捜査を強いられることになる。
実は船村には、事件の真犯人と目している人物がいた。古書店主の君塚がその人だったが、いまや君塚は、捜査をきっかけにした長年の交流が続く親友でもあった。君塚の妻や娘たちにも家族同然に慕われていた船村は、「これまでの付き合いは全て捜査のための内偵だったのか」と娘らになじられて板ばさみに心が痛むものの、残された時間は少なく、どうあっても君塚から真相を聞きださなければならない。
一方、今になって状況をかき回されたくない検事達の妨害とも特命課は戦わなければならず、半ば強引に君塚を緊急逮捕。しかし従来の供述どおりにアリバイを主張し続ける君塚。
長時間に渡る特命課の取調べは、実際法に照らせばどう見ても不法監禁。
そこに君塚の次女・めぐみが乗り込んでくる。
この辺、「君塚の稼業は法律専門の古書店で君塚自身にも法律の基礎知識がある」「めぐみは弁護士を目指す法学部の学生」という設定が生きていて、
橘刑事が「これは緊急逮捕」と言えば、めぐみが「特命課の不法逮捕・不法監禁に対して民間人として逮捕し、検事に引き渡す」とやり返す。
このVSめぐみ・VS検事との、「刑事訴訟法第●条〜」と、条文をそらんじながらのセリフのバトルに迫力があり、とても面白い。
冒頭に引用したセリフは、民間人として緊急逮捕を言い渡そうとするめぐみに対して、船村が重い問いを投げかけるシーン。
実は君塚は、結婚を控えた長女・法曹界を目指す次女の妨げにならぬように否認を続けてはいたものの、14年間贖罪の思いをこめて木仏を彫り続けていた。
「お父さんは14年間苦しんできた…」は、その事実を踏まえての船村の心情。
それに打たれた君塚はついに犯行を自供(ここでは割愛するが、東京オリンピックという背景が効果的に使われていて追い込み方も面白い)。しかしその自供を裏付けるためには、自分が宍倉の死体を埋めた場所を正確に指し示さなければならない。造成が行われ、当時と様子が大きく変わった工事現場。デタラメな場所を指差せば彼は救われる。けれども雨に打たれながら必死に、自分の犯罪を立証するためだけに当時の記憶を掘り返そうとする君塚。彼を信じる船村。もうこの辺最高に泣ける。
最後に稔の死刑執行に間に合うかどうかは、是非本編を見ていただきたい。何しろ「0秒前」なので。
矛盾してるタイトルなんだけど結構この番組は他にも「0秒前」というフレーズを使ってて、まあ好きなんだろうなあ。ちなみに脚本は長坂秀佳。
2時間ドラマのテンポに慣れ切った現在の感覚で見ると、よくこれだけのドラマ要素と展開を無理なく45分程度に構成しているものだと感心させられる。ゆえにこの番組の視聴後の印象は実に「濃厚」の一語に尽きるのだ。