2007年09月24日

唐獅子と猫の子守唄日記

先日、NHK教育「にほんごであそぼ」を流し見していた。
さまざまなコーナーの一つに、「日本各地方の子守唄をネイティブお母さんに実際子守しながら歌ってもらう」というものがある。
その日は茨城県の子守唄が紹介されていた。

ポピュラーな「♪ねんねんころりよ おころりよ」と似たメロディーラインに乗せて歌われた歌詞は次のようなものだった。

 ヤーイ山見ろ 筑波見ろ
 筑波のほうから 唐獅子が
 三十三匹 とんできた



唐 獅 子 が っ !!
karajishi.jpg
(「ジャイアントロボ 地球が燃え尽きる日」1巻より)


いやどうも、この漫画を読んだ後だとどうしてもこういう反応をしてしまって……

この後は

 ねんねんねろねろ 月の夜に
 ねんねしな


と無難に終わるのだが……

この子守唄に目と耳が硬直してしまったのは、
「子守唄とは思えないスペクタクルな状況」
「山から唐獅子が三十三匹やってくるのは怖いことなのか、それともありがたいことなのか…という説明が特になされない、
ある意味シュールで得体の知れない不安を感じさせる状況」
に違和感というか、何か肌に慣れていないものを感じたからだ。

「子守唄はさっさと乳幼児を寝かしつけるためのもの」というのが大原則だと思う。
子守唄が生まれて歌い継がれてきた背景には、子供を寝かしつけて他の家事をやりたい母親、子守を片付けてさっさと遊びに行きたい上の子や雇われの子守の少女たちの姿がある。特に雇われ子守の悲哀やストレスがストレートに歌詞に現れることも少なくない。

ゆえに、
「子守唄の歌詞や情景がエキサイティングだったら、子供を寝かせるという本来の目的に対して逆効果なのではないか?」
「この歌の歌詞はちょっと面白すぎるのでは?」

と思ったのだ。

勿論、子守の対象となる乳幼児はまだほとんど言葉を理解していない段階なのだから問題はないのだろうが…
こんな風に、不意に他の地方の、自分の知る子守唄文化と方向性の異なるものに出会うと驚きとともに、口承文化の面白さを再認識せずにはいられない。
「山から唐獅子が(しかも33匹も)やってくる」というダイナミックな光景は、私のイメージする子守唄世界にはないイメージで、とても新鮮に思えた。

この手のものは、地域が少しでも移動すれば発展や差異を生じる。
行方郡玉造町に伝わる同系統の子守唄「ヤーイ山見ろ(寝させ歌)」においては次の通り2番が確認されている。

 ヤーイ山見ろ 筑波見ろ
 筑波の方から 唐獅子が
 三十三匹 飛んできた
 ねんねん ねろねろ
 月の夜に ねんねしな
 
 ヤーイ山見ろ 筑波見ろ
 筑波の方から 月の夜に
 雁が三十三羽 飛んできた
 ねんねん ねろねろ
 月の夜に ねんねしな


2番では雁が三十三羽飛んでくることになっている。
単に「月に雁」という意匠的組み合わせによるものか、それ以外にイメージソースがあるのか興味がある。
「唐獅子(文殊菩薩の乗り物)」や「33」という数字の仏教(または神仏習合の信仰)的なイメージは、それ自体がご神体として崇められる筑波山への信仰に関係があるのだろうか?というような妄想をするのも結構楽しい。

こうしてみると、「月の夜」の幻想的(しばしばちょっと怖さも混じるような)な情景を感じさせて趣きのある子守唄だと思う。



唐獅子の歌からは離れて、今度は
「これはこれで、面白すぎて子供は喜んじゃって寝るどころじゃないのでは」
と心配になる別パターン。
この亜種は私も友人から聞いたことがある。
「猫の受難」を描く一連のパターンのものだ。
例えばこんな感じ。

ねんねんねこのけつ(古河市)
 
 ねんねんねこのけつに かにがはいこんだ
 やっとこすっとこ 引きずり出したら
 またはいこんだ
 一匹だと思ったら 二匹はいこんだ
 二匹だと思ったら 三匹はいこんだ
 三匹だと思ったら 四匹はいこんだ

 (以下続ける)


「(以下続ける)」って気楽に言ってくれちゃってるけどもアンタ!
猫のお尻はカニで一杯ですか。猫の尻の向こうは無限に広がる大宇宙ですか。異次元だったらそれでOKですか。


この「ねんねん猫のけつ」フォーマットは日本中に妙に広く分布しており、微妙な差異がまた楽しい(でも無限に入っちゃうパターンは少ないようだが)。まあいずれにしても猫は災難なのだが。

ねんねん猫のけつ(黒磯市板室)
 
 ねんねん猫のけつ かにがはさんだ
 あいててこんちくしょう 離しやがれ
 父さんとってくれよ まだはさんだ
 母さんとってくれよ まだはさんだ


こっちは「入り込む」ではなく「挟まれた」で、状況としては幾分マイルドと言っていいやら悪いやら。
「あいててこんちくしょう 離しやがれ」
と江戸っ子風な猫の叫びは、ずっと時代が下って生まれた小学生クソガキソングの金字塔「ABCの海岸で カニからチ●●コ挟まれた」に継承されているような気がしないでもない。(文末に一応注アリ)

ねんねん猫のけつに(山口市)
 
 ねんねん猫のけつに がにが舞いこんだ
 いたかろ かいかろ のけてやろ
 やっとこさと ひっぱり出したら
 また舞いこんだ


こちらは、猫が「痛ぇ」と言うのではなく、飼い主の同情的なコメントに優しさを感じる。
「いたかろ」だけでなく「かいかろ」という部分に妙なリアリティを感じる。カニなんか入れたことないのに。
かと思えば

ねんねん猫のけつ(南巨摩郡鰍沢町)
 
 ねんねん 猫のけつへ かにがはい込んで
 それを見て お婆やんが 首を曲げた


というように、猫に対して距離を保って崩さない飼い主もまた存在する。
首曲げるだけかい。


それにしてもなぜにここまでカニは猫のケツに執着するのであろうか。謎だ。

カニではないパターンもある。
ねんねんねこの(浦和市常盤)
 
 ねんねんねこの けつめどに
 ありが はいり込んで
 痛かろ 痒かろ 取ってやろか

ねんねん猫のしっぽ(清水市三保)
 
 ねんねん猫のしっぽ
 からすがつっついた
 一匹つつけば またつづく
 あれあれかわいそうに またつっついた


こちらは「けつ」ではなく「しっぽ」なのでかなりお上品な印象。
で、登場するのはカラスなのだが、やはり猫のしっぽへの執着は純情ではない。
一体、猫の臀部の何がそうまで生き物の理性を狂わせるというのか。さっぱりわからない。

さらには無生物まで。
これは高校以来の友人・鴨氏に教えてもらって腹筋が壊れるほど爆笑した子守唄なのだが

ねんねん ねこのけつさ 豆コはさまった
父ちゃん 取てけろ オラやんだ


「父ちゃん取ってくれ」「自分はイヤだ」という正直さと、「豆コはさまった」という状況の唐突さがなんともいえない。

多分↓と同系統なのだろう。

ねんねんねこのけっつ(一関市)
 
 ねんねんねこのけっつさ 豆が舞い込んだ
 おがさん取ってけろ 飛んでしまった
 ねんねんねこのけっつ かににはさまれた
 かあちゃん取ってけろ 逃げてしまった


こちらは豆と蟹の合わせ技。
「飛んでしまった」のなら別にもう取らなくてもいいようにも思うが。

まあ実際は、「ねんねこ」という言葉と「猫」を繋げる言葉としての面白さや語呂のよさから、猫が多く登場するのだろうけど、登場するのはいいとしてここまで世界中の生き物がアナルに血眼になってしまうのかはやっぱり大きな謎のような。

*引用した子守唄は、鴨氏のものを除きすべて
NPO法人日本子守唄協会 子守唄 - 子守唄資料室
を参考にしました。


「ABCの海岸で」

「キラキラ星」のテーマを原曲とした「ABCの歌」の替え歌。主に男子小学生を中心に日本各地に流布している。バリエーションは多々あるが、
「海に行ったらカニから男子の大事な部分を挟まれた」
「最終的に毛が生える」
という大筋はほぼ共通している。

うちの学区では

ABCの海岸で カニからチ●●コ挟まれた
いーてー いーてー 離せ
離してたまるかソーセージ
赤チン塗っても治らない
黒チン塗ったら毛が生えた


だった。
「いーてー いーてー」の部分が微妙な訛りで「イーデー イーデー」という発音になり、「ED」とかけてるのかな?と妙な感心の仕方をしたりもしたなあ当時。

参考:替え歌「ABCの歌」(日本ちんこまんこ学会公式サイトより)


posted by 大道寺零(管理人) at 04:03 | Comment(6) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
ごめ、最初「唐辛子」と読み違えましたw
日本には色々な歌があるなぁ…
Posted by 雨野 夜 at 2007年09月24日 11:49
>>夜くん

>「唐辛子」と読み違えました

そんなっ……
猫たんのお尻に唐辛子なんて…そんなヘビーな虐待の発想は流石に私も及ばなかったというのに…なんという鬼畜…

子守唄は他にも面白いものが多かったのでまたネタをまとめて書こうと思っています。
口承の歌や語りの文化は勿論全体的に面白いのだけど、春歌とか子供のバカ替え歌とか、そうそう文献に残らないようなものほど楽しいんですよね、地方性や時代性もあって。
Posted by 大道寺零 at 2007年09月24日 20:46
ねこのけつにカニが入る理由

ネコの肛門腺の臭気はちょうど『しおから』のようなにおいです。あの香りに誘われて、おそらくカニが食べ物があると思って、近寄ってくるのではないでしょうか。
Posted by ぐりまるきん at 2007年10月22日 19:51
>>ぐりまるきんさん

>ネコの肛門腺の臭気はちょうど『しおから』のようなにおいです。

なんと!そんなに合理的に説明できる理由があったとは知りませんでした!コメントありがとうございます。(猫を飼ったことがないので存じませんでした)
言われてみれば確かに、カニは魚くさい匂いは大好きですねえ〜。
Posted by 大道寺零 at 2007年10月22日 20:18
子猫や弱った猫にカラスがちょっかいを出し肛門をつつくことがあります。
肛門は皮膚にくらべ柔らかいので、カラス(鳥類)が他の動物の死骸を食べるときも肛門や眼、口、性器等から食べることがおおいです。
よって、「猫のけつにカラスが」。というのがこの唄の原型な気がします。
Posted by ほたる at 2009年07月25日 08:23
>>ほたるさん

>子猫や弱った猫にカラスがちょっかいを出し肛門をつつくことがあります。
>肛門は皮膚にくらべ柔らかいので、カラス(鳥類)が他の動物の死骸を食べるときも肛門や眼、口、性器等から食べることがおおいです。

なるほど、カラスがつつくことは実際にあるのですね!
合理的な理由もご解説いただきありがとうございました。とても参考になりました。
Posted by 大道寺零 at 2009年07月27日 22:33
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:[基本的に空欄を推奨します。詳細はこちらをご覧ください。]

ホームページアドレス:

(コメント投稿後、表示に反映されるまで時間がかかる場合がございますのでご了承の上、重複投稿にご注意ください。)
コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック