2007年10月01日

アニメ版「地球へ…」感想アニメ

最初は痛々しいものになってしまうのだろうか?と思ったのだが、総括してみるとまあ可もなく不可もない視聴感が残った。(でも「なんで今この作品を?」というのは未だに不可思議なんだが)

作品に関する私のスタンスは以下の通り

・原作漫画を名作と評価している
・昔作られた劇場版は、ストーリー・作画・キャストともに色々辛かった思い出がある。
・全体を通して必然性・説得力があれば原作改変は大いにアリだと思う。
・同枠の前作「天保異聞・妖奇士」がとても好きだったので、それに取って代わるだけのクオリティがあってほしいとは思う。

<絵的な面>

・最初キャラクターデザインを見たとき、悪い意味で「少女漫画臭くてかえって原作より古臭い」気がしたのだが、動いてみるとそうでもなかった。
・第一印象「エスカフローネっぽい?」とも思ったがこれもさほどでなかった。
・唇の微妙な形・配置のせいか、フィシスの顔が微妙にムカつく印象。私だけか。
・見てられないほど作画の破綻した回の記憶はあまりない。最終回のキャラ顔の唇の描き方が妙に個性的だったが、破綻というのとは違うだろう。
・2D絵については上記の通りさほど悪くないと思うのだが、宇宙船・戦闘機・宇宙ステーションなどのメカ類の3D処理がこなれておらず、最後まで「いかにも浮きまくってます」という印象。メカ戦になるととたんに専門学生の作品を見ているような気分になる。それでも「エリア88」よりは100倍マシだが…
・メンバーズエリートの制服の色といい形といい、なんかガン種臭いのが個人的にイヤだった


<ストーリー>

・サービスなのか、他の竹宮恵子作品キャラが多数カメオ出演(主にミュウ側)していた。意外な人までも。成功していたかどうかはちょっと微妙だが。

・原作と最も大きな違いといえるのは、ソルジャー・ブルーの死ぬタイミングが大幅に後ろにずらされた(ブルーの活躍シーンが増えた)ことだろう。ブルーは根強い人気のあるキャラということや、原作ストーリーに対して26話はやや長いので尺を伸ばすための変更だろうか?
ただそのために、ジョミーのソルジャーとしての存在感がかなり薄くなってしまった気が。
(注:原作でのブルー死亡時期が早いのは、そもそも「地球へ…」という作品が3話完結の予定で書かれ、そのラストで命を落すストーリーだったため。その後好評で継続を望む声が多かったためその後のエピソードが追加されて現在の形になる。原作者は今回のアニメでの延命には納得しているとか。)

・ブルーの延命によって、ジョミーとの2ショットが増えたせいもあってか、やたらとホモ臭い空気を漂わせるのはカンベンして欲しかった(というかOPから妙にホモ臭い)。

・ホモ臭いといえば、原作ではさほどではないマツカ⇒キースへの感情も妙にホモ臭く、さらに「風と木の詩」からセルジュがキースの側近役として出演し、始終マツカとキースの間柄をやっかむようなシーンが挿入されていたため、いたたまれないやおい臭。この枠の腐女子サービスもほんとにほどほどにしてほしい(もっともセルジュに腐臭を見出すのは「腐おばはん」だけかもしれないが…)

・原作ではナスカで同胞を救えなかったショックで、ジョミーは視覚・聴覚・声を失ってしまうのだが、オミットされていた。
そもそも「ミュウは強大なESPを持つ代わりに、身体能力に欠損を持って生まれることが多い」のが基本設定なのだが、放送コード的に前面に出せなかったのだろう。
とりあえず明確に描かれているのは
・ソルジャー・ブルー(難聴。あのレシーバーは補聴器)
・フィシス(全盲)
・リオ(唖)
・ゼル(義手。しかしこれは虐殺事件から逃亡時に負傷したためのものか?)
くらいで、さすがにここに「ジョミー三重苦状態」を付け足すのはきつかったか。
しかしながら、このあたりの嘆きの表現が不十分で、「ナスカ以来、なぜジョミーの正確や行動が変わったか」ということについて説得力を少し欠いたようにも思われた。

・原作や映画版に比較して、トオニィの心理描写が増え、「大きくならざるを得なかった子供の姿」「幼児ゆえの純粋さと残酷さ」よく描かれていた。実際このアニメ化で一番キャラが深まったのがトオニィではないだろうか。
しかしラストで、ソルジャー補聴器がトオニィに手渡されたのにはやはり違和感が拭えなかった。「こいつがソルジャーってのはないだろう」と。

・シナリオ的には、前半・中盤でキースやスウェナに関する原作にはないエピソードを(若干中だるみしながら)大幅に添加したわりには、ラスト2話があまりにも性急で説得力を欠いた印象。ペース配分・シリーズ構成に難を感じた。
原作を読んでいると、「最後の最後でキースがマザーに抵抗を見せる」という展開は察しがついているので何とか着いていけたが、予備知識のない場合、(マツカの件などの伏線はいくつかあったとはいえ)「何でさっきまでマザーに従順だったキースがいきなり裏切るの??」と納得行かない視聴者もいたのでは。そのくらい「いきなり」な展開だった。

・マザーは「これより聖地テラの消滅をもって、S.D体制は最終フェイズに移行する」と継げていたのだが、そもそもS.D体制は、「地球を維持・再生するのが最大の命題」だったのでは…?一番訳のわからなかったシーン。

・最終決戦で一番印象に残ったのがマードック大佐の特攻っていうのもいかがなものか。ついでにいつも側にはべらせていたオカッパ女性仕官のポジションといいヘアスタイルといい、ガン種の「アツクナラナイデマケルワ」の人とダブって仕方なかった。最後まで。

・ラストシーンは、「結局何がどうなったのか」分らず、再生されたらしい地球とそれっぽい絵を出されて適当に終わらされた感じ。大いに残念。
私は原作のラストシーンがとても良くできていると高く評価しているので、あのまま使っても良かったし、少なくともあの「余韻と予感」を上手く流用して欲しかったので非常に期待はずれ。
結局人類とミュウはどうなったのか、なぜミュウはそれほどまでに地球を目指したのか…を「匂わせる」余韻があってもよかった。

・ラスト2話の脚本担当は大野木寛で、決してこの人がメインライターではないのだけど、数年前に「エリア88」をズタズタにされてからというもの、この人のシナリオワークにはゲンナリさせられている。「不要なオリジナル要素を付け足す一方で、原作の核・”これだけは崩してはいけない”部分を平気で破壊する」行為の繰り返し。本作の「原作陵辱度」はそこまでの域には達していないものの、ラスト2話のペース配分のおかしさや説得力のなさは「やっぱり大野木脚本かorz」といった感じ。
この人、オリジナルのアニメではそんなに酷いとは感じないのだけれど、原作あり作品の脚本とかシリーズ構成を行うのはしばらくやめてくれないかな〜…

・とはいえ、大昔に作られた劇場版(トオニィがジョミーとカリナの子供という設定には当時誰もがひっくり返った)よりは数段マシだけれど…

・全体的に、キースのエピソード増、トオニィの描写深化、ブルーの延命により、主人公であるジョミーの立ち位置や意思決定などのインパクト・存在感がかなり薄れてワリを食ってしまった印象が強い。斎賀みつきの演技が熱かった(女性であそこまで迫力ある低い声が出せるのは凄い)だけに残念。

・1話を見た時、原作では淡々と義務を果たすだけの存在だったジョミーの母親がかなりウェットで驚いた。その後も、「親子の情」についてかなり時間を割いて描かれており、相当ウェットな物語になっていた。評価は分かれるところだと思うが…
「地球へ…」という作品は基本的に欝展開の連続なので、多少緩和しようとしたのだろうか。

<音楽>

この枠のOP・EDはずっと「タイアップ枠」なので最初から特に期待はしていない。OPがちょっと作品内容と比べて明るすぎるかな、という程度。
とはいえ「ダ・カーポのアレにしろ」とも思わない(あれはあれでまた、歌詞は合ってるけど曲が明るすぎるし、今やっちゃ流石に古かろう)。
作中で精神崩壊後のサムが「ダ・カーポのアレ」を口ずさむシーンがあって吹いてしまった。よくわからぬサービスだ…


放送開始前の製作陣のコメントとして、「原作とは違う運命・ラストになる可能性もある」というのがあったらしい。
ネット上のごく一部の人のようだが、それを受けて
「キースとジョミーを殺さないで!二人が生き延びる幸せなラストを!」
というアピール運動だか署名活動をしていた人がいたようだ。痛いなぁこりゃ。
ちょっと顔のいい役者やアイドルがドラマに出ているからといって、
「死ぬのが既定の役(例えば信長とか)だけど殺さないで!」
とハガキや署名を送って「除名嘆願」を行う痛いドラマファンみたいな行動だ。こんなんする人いるんだなあ実際…と驚いてしまった。
この作品は、ジョミーとキースが最後に分かり合いながらも死ぬからこそイイんだと思うんだけどな〜。

多少食い足りないところもあったが、総合的に見るとまあまあの出来だったのではないだろうか。
ラスト描写など納得行かない部分もあるが、このアニメ化が、若い人が原作(タイアップで新装版出たし)に触れる契機になってくれたなら御の字かも。
タイアップといえば、どさくさにまぎれて、「劇場版 地球へ…」や、昔24時間TVで放送した「アンドロメダ・ストーリーズ」もDVD化されていたようだが、うっかり買っちゃった若い人は、作画の惨さに愕然とするのではないか心配。(しかしさらにドサクサで「夏への扉」までDVD化されるとは思わなかったよ!)

あーそれにしても、本当は「妖奇士」の打ち切られた後半が見たかったんだったら。


posted by 大道寺零(管理人) at 19:45 | Comment(6) | TrackBack(0) | アニメ
この記事へのコメント
考えて見ると脚本がバラけすぎて、上手くリレーできなかったんかなぁと。ローテーションがデタラメにみえるんだよなぁ。

原作読んでなかったんで数々の疑問点があったんだが、ナルホド大道寺氏の解説で納得できましたよ。

OP1はともかく、OP2の「JET BOY JET GIRL」は今年のアニメOPの中ではグレンの次にイイと思っとります。
Posted by eng at 2007年10月01日 22:19
「地球へ…」は正直、途中から「ながら見」をしてました。
どれくらい「ながら見」かと言うと、キースの側近がセルジュだと気づかなかったくらいに。お前…。

本当に、可も不可もなくと言う感想です。「これ終わったら、「電脳コイル」が始まる」と言う位置づけで(笑)。
竹宮漫画はアニメにし難いのかも、とふと思いました。
そもそも、少女漫画で出来の良いアニメって少ない気がしますし。

「妖奇士」よりは視聴率良かったんでしょうかね。この枠はよく解らない…。
Posted by カゼ at 2007年10月01日 22:24
>>engさん

「大きな破綻」と言われると特には感じないシナリオなんですが、仰るとおり各話の接続というか、シリーズ全体を通しての構成に残念な部分があったように思いました。

原作との相違はけっこうあります。wikipediaにもそこそこ記述がありますので興味があったら目を通されるとよろしいかも。

最終回を見直してみると、折角登場させた「カナリアの子供達」をもっと効果的に使えれば、アニメ版ならではのラストのクオリティを高めることが出来たのでは?と思います。

>OP2の「JET BOY JET GIRL」

私は「作品の後半の流れを考えると明るすぎて合わないかな?」と思ってましたが、印象に残る飛翔感のある曲ですね。というかOP1がわりと凡庸だったこともあって、OP2を聴いた後だとほとんど思い出せないや…

>>カゼさん

>キースの側近がセルジュだと気づかなかったくらいに。

あれは確かに、「セルジュ」と呼ばれないと分んないですし(竹宮キャラによくある顔と髪型なので)、呼ばれるシーンも少なかったので無理もないと思いますよ。まあ同作品からジルベールが出てたらこんなもんじゃないって…いうか明らかに別作品になっちゃってたでしょうからねえ…
彼は別の意味で成人検査にパスしなさそうな気がします。

>「これ終わったら、「電脳コイル」が始まる」と言う位置づけで(笑)。

私もその感覚に近かったかも。こういうのも「時計代わり」っていうんでしょうか。

>竹宮漫画はアニメにし難いのかも、とふと思いました。

一見ものすごくアニメにしやすい絵なんですが、ちょっとした線の違いで別物になってしまうというのはあるかも。「アンドロメダ・ストーリーズ」あたりは、今マジメにアニメ化したらいいものになりそうなんですが。

あの枠って本当に分らないですね。ここ数年「重めの作品」が続いてますよね〜。「地球へ…」に関しては、若い視聴者がどういう感想を持ったのか、それ以前に食指を動かしたのかどうかが気になります。
どこかセンスのあるスタッフが、「私を月まで連れてって!」あたりを、小粋にアニメ化してくれたらいいなあと夢想しつつ、でもきっとヘタにいじらないほうが幸せなんだろうとも思ったり…(それ以前に「ロリコン推進アニメ」と叩かれそうですけど…)
Posted by 大道寺零 at 2007年10月02日 01:49
 最近は全然アニメシリーズを見ていないのですが、これはどうにかこうにか見ました。原作のファンだったので・・・。やっぱり微妙な違和感とかはありましたし、原作の良さを若い人たちが味わえたらいいかー、に落ち着きます。
改変されていたところで評価できるところは、ブルーは原作では見た目も繊細さも少年でしたが、アニメでは青年として描かれていたところかな。ブルーの立場を考えると相応かと思いました。
Posted by Felice at 2007年10月02日 06:54
原作を読み直すと、「これは絶対オミットしちゃいけないセリフ(場面)だったんじゃないかな〜」というシーンがけっこうありますね。

>ブルーは原作では見た目も繊細さも少年でしたが、アニメでは青年として描かれていたところ

確かに雰囲気が違いましたね。
私は原作の「ジョミーと見た目は変わらないけれど超高齢」というのが、ミュウの性質を良く現していて秀逸だと思いました。
が、TVアニメは途中から見る人も多く、いつでもページを前後移動して記述を確かめられる本という媒体とは違いますので、誰が見ても立場やキャラクター付けが分るようなデザインとして、「青年なブルー」も意味があるのだろうなと。そうした媒体の違いを意識したのか、単にジョミーとの差異を設けようとしたのかは謎ですが。
有名な話ですが、ブルーのモデルは「サイボーグ009」(若き竹宮恵子がハマりにハマった)の島村ジョーなので、多少少年誌時代のジョーのイメージを引きずってるのかもしれません。漫画版のブルーがジョーなら、アニメ版のブルーは超人ロックのイメージに近いかも。

いくつか「地球へ…」の感想を書いたブログなどを検索して読みましたが、「このアニメ化をきっかけに原作を読んで感動した」という文が散見できてちょっと嬉しいです。
Posted by 大道寺零 at 2007年10月02日 14:16
アニメ見たかったんですけど
見なくてよかったです。
宇宙の法則が乱れる!(>'A`)>
Posted by シフォン at 2012年02月18日 14:29
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