城外の廃屋に妖怪が出るという噂が町に立っていた。
その妖怪は絶世の美女の姿で、訪れた男に碁の勝負を申し込み、「勝てれば自分を自由にしてよい、しかし負けたら耳を片方もらう」と持ちかけ、これまで碁の腕に覚えのある男が何人も訪れたが、その娘に勝った者は誰一人としていなかった。
その正体は、父の仇を討つために碁と剣の腕を磨いた高玉英という美女だった。
…というのが最初のエピソード「碁娘伝」の内容で、続く「碁娘後伝」「碁娘翅鳥剣」では、"碁娘"という通り名で呼ばれるようになった彼女が、自分と同じように碁がらみで苦しめられた人の恨みを晴らすため、その優れた碁の腕と剣技をふるう痛快な活躍が描かれる。
私は碁が全然分からないのだが、それでも支障なく、作中の説明だけで十分物語を楽しむことが出来る。
エピソードが4つ収録されており、中でも「碁娘翅鳥剣」は、碁の打ち筋と戦いの駆け引きが絶妙にリンクしていて、非常に優れた構成で楽しめる。クライマックスで上下に分割された画面のアクション性も楽しいし、短編なのにキャラクターがどれもよく立っている。
ラストの「棋盤山」では、剣士として碁娘と決着を付けたい呉壮令との決闘が描かれる。
「剣碁一体」の碁娘の技の冴えが素晴らしく、ラストページでも、「碁を極めただけでも、剣を極めただけでも碁娘を理解し、越えることは出来ない」というエピソードのテーマが示されて終わる。
あとがきでも筆者が書いている通り、「薀蓄や深読みは不要の痛快娯楽活劇」に仕上がっているだけでなく、舞台である中国の雰囲気や碁の世界の奥行きを感じさせる、なかなかの佳作だと思う。
「華がない」と思われがちな諸星大二郎の絵だが、碁娘の妖艶さと凛とした雰囲気を併せ持つ美しさはなかなかだ。