2008年04月17日

ヤマト以前の「レイズ・ザ・ヤマト」漫画

「復刻版 青の6号」の感想を書いたエントリー内でも書いたことと重複するのだが、敵側組織・マックスが繰り出した超兵器「ヤマトワンダー」を見たとき最初に思ったのは、
「沈没した大和を引き揚げて改造、オーバーテクノロジー搭載兵器としてリユースする(敵と味方という立場の違いはあるが)」という発想は、「宇宙戦艦ヤマト」に先駆けている
(「青の6号」連載は1967年、「宇宙戦艦ヤマト」の放映開始は1974年)

ということだった。
フィクション作品に登場した「リユースヤマト」はもしかしてこれが最初なのでは?と思い調べてみたところ、そういうわけでもなく、すでにいくつかの先行作品があった。
考えてみれば、太平洋戦争の海軍の悲愴と無念を象徴する悲劇の戦艦として、もっとも人気と思い入れを集める大和だけに、現在資料に登場しないものの中にも数々の「もし大和が復活したら」という発想のものはあるだろう。そのくらい人気のあるシンボルであるとともに、1950年代には「戦記もの」の大ブームもあった。

wikipediaには、この件にうってつけの「大和型戦艦に関連する作品の一覧」という項目があった。この中の「フィクション」から、「宇宙戦艦ヤマト(TV第一作)」に先駆けた作品を拾ってみると、梶原一騎作の「新戦艦大和」(1961年〜)がどうもパイオニアらしい。
ここから、各作品の年代と、登場する「再生ヤマト」の特徴などを挙げていくことにする。


●「新戦艦大和」(作:梶原一騎)

sinsenkan.jpg
[参考:まんだらけの紹介ページ]

・絵物語版:「日の丸」掲載(1961年)。絵は吉田郁也
・漫画版:「少年画報」掲載(1963年7月号〜1964年3月号)。作画:団鉄也

・上の表紙にあるように、翼を出して飛行可能
・潜水も可能
・沖田艦長親子が乗り組み、キラー博士と戦う


「戦艦大和が空を飛ぶ」というアイデアで先行していただけでなく、なんと艦長の名前まで同じ「沖田」。
そんなわけで、ヤマト関連、あるいは松本関連の著作権ゴタが起こるたびに引き合いに出される作品…らしい。
(これは、西崎Pがかつて「戦艦が浮上するなんて画期的なアイデアを出せるのは俺だけ」「ヤマトがはじめて」という旨のビッグマウスを叩いたことにも大いに起因しているのだが)

で、wikipediaにはこんな記述がある。

梶原一騎側は『宇宙戦艦ヤマト』を『新戦艦大和』の模倣だとみなしていた。『宇宙戦艦ヤマト』の中心スタッフで漫画版を描いた松本零士を脅した、梶原一騎周辺が息巻いたなどと言われていたが、松本零士本人によると、梶原一騎側からはこの件について特に何も言わなかったという。松本は戦艦が空を飛ぶというアイデア自体、第二次世界大戦前から海野十三の小説を初めとして、昔から存在していると説明している。梶原のものも、戦前に人気を博した少年小作家・平田晋策の『新戦艦高千穂』がヒントとなったと指摘されている。


漫画界で一番怒らせてはいけない人間の逆鱗に触れる話(艦長の名前まで一緒じゃなあ…)ではあるのだが、意外に実害はなかったらしい。もしあったとしても、「脅した」程度で済んだならむしろ穏便な部類だと思う。
松本側の言い分自体に破たんは特にないと思うだけど、今となっては「お前が言うな」的な談話ではある。


●「青の6号」(1967年)(小澤(小沢)さとる作)
 「少年サンデー」連載

・ヤマトワンダーは、犯罪結社「マックス」が戦艦大和をサルベージし、潜水艦として魔改造したもの。
・全砲塔から魚雷発射可能
・製作者はマックスの「蛭田博士」(多分当時アシスタントしていた蛭田充から命名?)
・艦長の名は「ボガー」
・エンジンは沈没前のものをそのまま利用し出力もそのまま
・全体を改造したわけではなく、沈没時そのままで満水状態のエリアも多い。ボガー艦長によれば「これでもバラストタンクとして役に立っている」。
・そういう艦内で活動するため、乗組員は耐圧仕様・酸素ボンベ内蔵の「両生体質」サイボーグに改造されている(ケン太たちは耐圧服と「酸素錠」を支給された)
・「青」の艦隊を大いに苦しめるが、最後は撃破され(「撃破した」という電文が入るだけという超あっさりラスト。この「ものすごい強敵がめちゃくちゃアッサリやられる」というのはもはや小沢マンガのお家芸である)、偶然にも元の沈没位置に沈む。


●ウルトラセブン 21話「海底基地を追え」(1968/2/25放送)

ironrocks.jpg・軍艦ロボットアイアンロックス

全長:80メートル
重量:15万トン


四半世紀前から相次ぐ戦争や海難事故で海の藻屑と化した多くの沈没船の残骸からミミー星人が作り上げた。 出現した国の近くに沈んだ沈没船を使っているらしく、日本に出現したのは太平洋戦争末期に沈んだ戦艦大和がベースになっていた。四方に砲弾を発射することができ、完全停止してから15分立つと体内に仕掛けられた爆薬が大爆発を起こす。日本近海で多数の船舶を沈めた後で伊豆半島の下田港に出現し、セブンを巨大枷で拘束して道連れに自爆しようとしたが、動力源等をエメリウム光線で破壊されて敗れた。
wikipediaより


特撮ファンの方々にとって「リユース大和」といえばやっぱりコレだろう。
デザインの経緯については、製作費がヤバくなった円谷製作部が、「東宝から大和の模型を譲り受けたからこれで1つ何かひねり出しておこう」という身も蓋もないプランに至ったためだそうで、当時成田亨は大いに不本意だったという。そりゃそうだ。


●サイボーグ009 モノクロTV版 
 第16話「太平洋の亡霊」(1968年7月12日放映)


モノクロ009を代表…というか象徴する名作なのだが、メッセージ性が強すぎるせいか、長年放送禁止という憂き目にあっていた(個人的にははなはだ不当だと思う)。現在はCSにて放送・及びDVD-BOXに収録されてようやく日の目を見た。
石森テイスト、というよりは脚本の辻真先・演出の芹川有吾の持ち味である反戦テーマがこれ以上なくストレートに語られた作品。

ハワイ真珠湾、「あの日」と同じ日曜日。
突如、ゼロ戦・月光・桜花・回天…といった旧日本軍の兵器が蘇り、米軍を攻撃する。
一方、日本の自衛官・源一佐も飛行中に攻撃を受け、その時の会話から、この一連の攻撃の指揮者が、太平洋戦争で特攻に散ったはずの平博士であることを知る。

大和はこの中の「復活日本軍兵器」の一つとして、数カットだけ登場する。
また、作中では具体的に「大和」というセリフはないものの、


006「まだ大物が残っているネ。日本海軍のシンボル」
007「ああ、最大排水量69100トンってやつ?」


というやり取りがあり、その直後に大和が登場し浮上、攻撃を始めるシーンがある。

yamato.jpg

上:海底に沈む大和
中:アップ→撃沈した姿からなぜかやにわに復活する大和
下:急浮上

ちなみに、なぜ「最大排水量〜」というセリフと画面だけで十分かと言えば、それだけ有名な戦艦であるということ、また軍記ブームのあおりもあって、当時の男児には主要な戦闘機や軍艦のスペック知識はある程度常識といえるものだったからではないだろうか。そしてこのアニメ内では、007は子供に設定されている。

この物語の中では、大和は「その他大勢」の1つであり、クローズアップされるのは長門である。
ビキニ原爆実験で沈んだ長門は未だにおびただしい量の放射性物質を帯びており、復活した長門はまっすぐサンフランシスコを目指す。
米軍は長門に原爆をぶつけて沈める計画を決行するが、長門は沈まず、さらに高濃度の放射性物質と化した長門がアメリカ本土に迫る。
009たちは必死に阻止に向かうも、復讐の鬼と化した平博士の超能力に歯が立たない…果たしてアメリカの、そして世界の運命は?という話。
全メディアの話を通じて、これだけ009たちが何もできず、最終的にも無力なエピソードは存在しない。
科学的にトンデモな場面が多く、突っ込みどころも満載(これは当時のアニメや特撮全体に言えることだ)なのだが、それを払しょくして余りある傑作である。
詳しい展開や結末に興味のある方は、こちらのレビューが詳しい。


「ヤマト以前」の有名な物件について時系列順にまとめると大体こんな感じになる。

ところで、小澤さとるQ&Aのページに、「ヤマト」のアイデア源流に関して見過ごせない話が掲載されていたので引用する。

・「ギンガ、ギンガ、ギンガ」と「宇宙戦艦ヤマト」

 出版に至らなかった小澤先生の原稿の中に、ヤマトが銀河を航行する「ギンガ、ギンガ、ギンガ」という作品がある。プロデューサーの西崎氏がその原稿の全部に目を通し、そしてのちに松本零士氏とメカニック・デザイナーの宮武一貴氏の手により「宇宙戦艦ヤマト」をTV放映する。
 宇宙を航行するヤマトのアイデアはまざに西崎氏が小澤作品より拝借したに違いない。アイデアを無断借用した西崎氏に小澤先生は憤慨し、その後、出会った宮武一貴氏にも憤慨するが、実は宮武一貴氏はなにも知らなかったことが分かって意気投合し、のちに新青の6号の共同作業となる。

 それはそうと、「ギンガ、ギンガ、ギンガ」と「宇宙戦艦ヤマト」とでは内容に大きな違いがある。なんといっても、小澤作品には女性乗組員はいない。その理由は前述のとおり。乗り込んでいる幼子から老人まで全て男性。西村屋としてはせめて幼子には母親が付いているべきと思うが、本作品では地球を出発時に涙の離別をしている。そして、波動砲もない。超光速で航行中に暗黒星雲を迂回する時の衝撃で船体が損傷し、飲料水を失うという危機が描かれているという。
小澤さとるQ&Aその2


こちらは未発表原稿ということで細部の検証は本人以外はやりようがないし、見た見ないの水掛け論になってしまいそうだが、「西崎Pが全部に目を通している」というのがまたなんともはや。
後に松本零士は、「ガンダムのネーミングのそもそもは俺」「誰か関係者がボクちんのメモを盗み見たに違いないナリ」と公言してはばからなくなっちゃったりして、こっちはまあ常識的に考えて妄想の領域だと思うのだが、「ギンガ〜」の件はかなり洒落になってないレベルだと思う。
なお、西崎Pはかつて虫プロ商事に在籍したこともあり、どういう状況で原稿を見たのかは分からないが、虫プロつながりという線もあるのかもしれない。
あるいは、「新戦艦大和」と「ギンガ〜」の両方を見たことで、「戦艦が飛ぶというのはまあ誰でも考える汎用アイデアであって、誰が元祖とかパクリとか言われるようなレベルのものでもないのかも」と考えたのかもしれない。

それにつけても、後年松本VS西崎の権利争いに発展したりと、(あくまで作品の価値そのものとは別にした上で)つくづく「ヤマト」は、周辺の知財方面のゴタが絶えない作品ではある。


西崎Pのことは横に置くとして、やはり多くのクリエイターが「大和」にそれぞれ思いを馳せて作品に登場させたのは、それだけこの戦艦の象徴するものが大きく、複雑な思い入れ・「レイズ・ザ・ヤマト」というロマンを抱かせずにはおかない戦艦だからなのだろう。
こればかりは多分、いくら文献やドキュメンタリー映像で追体験しても、戦後生まれには共有し尽くせない、軽々しく分かったつもりになってはならない慕情のようなものなのだと思う。

「青の6号」では、伊賀艦長がヤマトワンダーに対する正直な気持ちを延々と吐露するシーンがある。

戦後に育ったきみにはわからんことだろうが、わしは、正直にいって、ヤマトにむかって魚雷一本打つにはふくざつな気持ちなんだ…

あの苦しかった太平洋戦争をとおして、わしは、潜水艦乗りとして、毎日ひっしに敵にむかっていた…
自分が生きのこるなどということは、夢にも思っていなかった。しかし……

何度も死の一歩てまえを戦いぬいて、ようやく基地に帰り着いたとき、わしはいつも期待に胸をはずませてみるものが そこにあったのだ……
それが戦艦「大和」だったのだよ……

戦局は、もう自分たちの力では、どうにもならないところへおちこんでいることを、はっきり感じていながら……
あの巨体が、静かにもやっている姿をみると
『ああ 日本はまだぶじなのだ。』
という思いが胸にせまって、新たな闘志がわいてきたものだった……

連日の苦しい戦いにファイトを失わなかったのも 実にあの大和のどっしりとした ふしぎに信頼感のある雄姿が、日本の守り神であるかのように感じられたからなのだ。
その大和の姿が、わしらの視界からきえさったとき…
はじめて、手足をもぎとられたような
自分たちの戦力を、まざまざとみたような気がした。
日本という国が、永遠になくなったような思いさえしたものだ。

正直なところ、ふたたびあの『大和』をみたとき、敵とおもう気持ちはどうしてもわいてこなかった……
むしろ、涙のでるおもいがしたものだ……
いまだにそういう気持ちがあるといったら
きみは、どうおもうかね……


こうしたいわく言い難い慕情を、えんえん4Pかけて展開するというのも、なかなか当時の少年漫画には珍しい場面だったと思う。

しかしながらそんな長セリフを披露した後で、
「でも青6はヤマト討伐には参加しないよ(要約)」
とあっさり畳む艦長。

いつものハンサムフェイスが崩れて「エッ!」と驚く副長。
そりゃ驚くよなあ。
普通ここまで言わせたら、艦長自身に万感の思いを込めて魚雷の発射スイッチなり押させるのが定石というものなのだが、小沢さとるはそれをあっさりとスカしてしまうのだった。ちょっと寂しいがそれがお家芸だから仕方がない。
posted by 大道寺零(管理人) at 20:56 | Comment(0) | TrackBack(1) | 漫画
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