世界文化社刊:全5巻。
[注:1巻と2巻の巻末には「全6巻」という刊行予定が載っているが、初版の事情で結局全5巻になり、6巻は存在しないのでこれから探す方はご注意。]
<元祖(1967年にサンデーに連載された本家「青の6号」)と区別するために、本稿では便宜上こちらを「AO6」と書きます>
全巻通して読んだ感想は、部分部分の深海バトルはやはり燃える!し、艦船や海の描写は流石流石なのだが、全体としてはやや散漫なイメージ。結局青6は活躍とは言い難いし、一応主人公の「青野六豪(さすがにちょっと恥ずかしいネーミングでは…)」は本当に何もしてないままに話が終わってしまう。
ちりばめられた謎もほとんど解明されず、「あっけなく」とも呼べないほど唐突に話が終わる。
元祖の「青6」も、「ラストのクライマックス不在」と語られることが多いが、はっきり言ってこの「AO6」に比べればなんということもないレベルに思える。
「復刻版」を同時に買って読んだので余計に強く感じるのだろうが、「色々残念」というのがトータルの印象。
(以降ややネタバレあり)
[概要]
「AO6」は、1998年に製作されたOVA「青の6号(全4話)」の発売に合わせて発表された書き下ろし作品。発行元の世界文化社は、同時に「復刻版・青の6号」も刊行している。
OVAに登場するいくつかの要素を用いているが、基本的には全く別の設定、別の物語となっている。
<共通要素>
・敵の首領の名前が「ユング・ゾーンダイク」
・ゾーンダイクの作りだした両生生命体「ミューティオ」の登場
・特殊センサーシステム「ロレンツィーニ」の採用
・青6の搭載潜水艇(おなじみ「子ガメ」)の名が「グランパス」
共通しているのはこのくらいで、あとは全く別物(クルー含む)で、名前が同じでも性格や設定はかなり異なっている。
主人公側の組織の性質は「青」と同じであり、ノボも登場するが、組織名は「AO」。前作との関係は特に語られていないが、おそらくはつながった未来ではなく、パラレルワールド扱いなのだと思う。
前述のように、最初は「全6巻」とアナウンスされたものが結局「全5巻」で完結(…まあ一応)となっている。
「小澤さとるQ&A」を見る限り、編集側とのトラブルがかなりあり、その結果のようだ。
小澤さとるQ&A
新青の6号(SEBUNコミックス)は、編集者と喧嘩のあげく、6巻の予定が5巻に繰り上げとなり、1巻分の原稿が出版されずじまいとなったとのこと。(2002年2月3日)。
また、「AO6」には女性隊員が(小澤作品とは思えないほど)登場し、6号乗組員メンバーにも入っているが、小澤氏は本来、戦場に女性を送り出すことが好きではないらしく(これは父親の考え方・しつけの影響も多分にあるらしい。元祖青6に女性が一人も登場しないのもこういったポリシーからだという)、女性キャラクターについても、「編集者の要請でやむなく」出したという。
OVAにはさらに女性が多く登場するので、もしかしたらタイアップ的に「漫画の方でも可愛い女の子もっと出してください」というような要求があったのかもしれない。
どういった「喧嘩」だったのかはこれ以上語られていないので定かではないが、「予定巻数を繰り上げる」というのはよほどのことだったのだろう(あるいは単に売り上げが振るわなかったのかもしれないが)。「失われた1巻分」の原稿は存在しているという。
連載ならいざ知らず、描き下ろし単行本企画での「打ち切り」は珍しく、また酷な話である。
通して読んでみると、終盤のいきなりの展開、風呂敷を畳むどころかまだ広げ切ってもいないところからの強引の終劇(最後にロシアが持っていくのはあんまりでは…)はなんともお粗末で、誰がどう見ても「あと1冊分くらい足りない」というのは明らか。で、これが実際に「削られた」のだから誠に残念で、「失われた1巻分」の痛手は大きい。
トラブルの原因や正当性がどっちにあるのかは別にして、せっかく5巻も出して、さらに旧作まで復刻したのだから(その上原稿はちゃんと描いてある)、最後まできっちりした形で刊行するのが筋というものではないだろうか。
あと1巻あればもうちょっとマシな終わり方ができたはずで、削られたせいで結果的に「失敗作」な位置づけとして終わらざるを得なかったのは、作品はもちろん、出版側としてもデメリットかと思うのだが…
そういう不可抗力を含めて、「非常に残念な作品」だ。
こうした経過がある以上、もはや「未刊行分を含めて再発行」は無理だし、可能性があるとすれば、版元の許可を取り付けたうえでWeb上で発表するくらいか(それでもやっぱりラストは大幅書き直しになるのだろうが…)。
作画面では、1ページ1コマの大ゴマが非常に目立つ。
戦闘シーンでは非常に効果的で迫力を演出しているのだが、人物(脇役含む)の会話場面でも多用されている。
正直、「何もここで1ページ大ゴマを使わなくても」と思うコマも多い。
で、結果的に「ページ数の割に話が進んでない…」という感想につながってしまう(特に序盤)。
特に、上で書いたように、トラブルによって不可抗力的にラストの尺がまるごと1冊分カットされてしまったため、通して読んだ場合、
「こんなところで話が終わるなら、2巻の"おばはん国家主席の井戸端会議"で大ゴマなんか使わないで、もうちょっとコマ詰めて描けばよかったのに…」
とガックリ来てしまう。
(2巻の井戸端会議:
日米首脳がゾーンダイクへの対抗策についてホットラインで話し合う場面なのだが、両方とも初老のおばはん。律儀にシワやたるみなどの加齢部分を描いてあるわけだが、あまつさえそれがバストアップの1ページコマ(*2)で、「あなたの今日のイヤリングすてきよぉ」「あなたもアイラッシュを変えたのね、チャーミングよぉ」と挨拶を交わすシーンはなんだかもう必然性がよくわからない。「おばはんの会話」としてのリアリティを追求したと言われればそれはそれで非常によく分かる話なのだが、マンモス稲子ちゃんが2人いるような感じでちと読んでて辛い)
もっともこの時点ではまだカットの話は出ていなかっただろうし(2巻までは全6巻告知が出ている)、連載ではなく書き下ろしで自由にページが使える気安さもあったのだろう。
あとがき等において事情を説明していないため、Web上のQ&Aを読んでいない読者には、「何だコレ;」と失望されてしまうのが不憫である。
全体的な絵柄の印象は、「後期の手塚治虫(「陽だまりの樹」・「アドルフに告ぐ」あたりの時期)によく似ている」(特に男性キャラクター。女性キャラの体型などは幾分リアル目か)という感じ。
昔の絵柄も手塚色が強いので当然の流れと思われがちだが、これはけっこう不思議な現象ではないかと思う。
小澤さとるが長年手塚治虫のアシスタント(メイン作画担当:たとえば石ノ森章太郎に対するシュガー佐藤のような立場)を続けていたのならばよくある話なのだがそういうわけでもなく、それどころか1970年以来10数年間ほとんど休筆(もしくは仕事量をかなりセーブ)に近い状況にあった人…だからだ。
「サブマリン707」や「青の6号」といった数々のヒット作をものしておきながら、1970年以降パタッと雑誌等で名前を見なくなったのを不思議に思っていた往年のファンも多いかと思うが、前掲のQ&Aによれば
・1960年代から十二指腸潰瘍を患い、医者から転業・転地療養を申し渡されていた
・1970年に娘さんが誕生したことを契機に、身体・療養第一の生活に切り替え、仕事量をかなり減らした
・1983年に運転中の自動車事故で大ケガを負い、ペンすら持てない状況に陥って漫画家としては再起不能と診断された。(その後紹介された某宗教の霊能治療?により回復したらしい)闘病期の作品については一部手塚プロの協力をあおいだという。
・そもそも本業は技術屋・漫画家は副業というスタンスの人で、交通事故以前までずっとエンジニアとして企業に勤めていた
ということで、とても「手塚治虫を手伝う」状況にあったとは思えないし、絵柄の変化は当然あることとしても、「手塚治虫に合わせた絵柄の変化」という老け方をする理由があるようには思えないのだが。何度見てもかなり不思議である。
(ややネタバレ)
「AO6」では、バトルフェイズに「超能力」が大きく絡み、エスパーが数名登場する。これはちょっと好みや評価が分かれるところではないだろうか。
従来の小沢作品では、オーバーテクノロジーはたくさん登場するものの、なんとか「テクノロジー」の範疇で説明できるものであり、そこが魅力かと思うのだが、「超能力」「超自然の力」を駆使する者が登場してしまうと、どんな切り抜け方や攻撃をしても「エスパーだから」で済ましてしまえる。
勿論SFにはそうした「超能力バトル」というジャンルは存在するのだけど、小沢ファンが作品、しかも「青6」にそれを求めているか、なじむものとして受け入れられるかというとやや微妙、むしろ「ちょっと萎える」向きもあるのじゃないかと思う。
表紙は宮武一貴氏のイラスト。
小澤氏の絵で見たかったファンも多いと思うが、こちらはこちらで、昭和のプラモ箱絵を思わせる力強いテイストで悪くない。
1〜5巻の表紙を右から並べると、つながった一つの絵になる趣向。こちらもまた、6巻が失われた影響は気になる(6巻までちゃんと出ていたらどういう絵になったのか?という意味)。
そんなわけで、出版側との事情も含めて「総じて残念な結果に終わってしまった作品」かな、と。
一つ一つのバトルフェイズは相変わらず魅力的なのだが、物語として各シーンを連結し切れていないのが惜しい(これもラストが大幅に失われたせいではある)。
OVAから入った人に対しても、ほとんど別物なので今一つピンと来ないかもしれない(むしろ復刻版を読んだ方が、「赤ハゲ」「ヤマトワンダー」など、OVAに引き継がれた部分を見ることができて興味深いかも)。
OVAはOVAで、「せめてあと1話あった方がよかったんじゃないか」と感じる説明不足と分かりづらさ、また致命的な音声の聞き取りづらさなどがあって、個人的には「良作」と呼びがたい作品(以前見た時の感想はこちら)だとは思うが、これを見なければ私が「青の6号」を手に取るきっかけもなかった(作者名と作品名は前から知っていたが、長らく絶版だったので読む機会がなかった)ので、企画そのものについては素直に感謝したい。
小澤さとる氏は現在も北海道でご健勝とのことなので、いつかまた、できれば編集者からの干渉を受けない形(Web漫画など)で、思うままの漫画を発表してほしいものだと思う。
最後になるが、「青6」おなじみの、巻頭の「青の各国艦船そろいぶみ&国と艦長・副長紹介」は「AO6」でも健在。
「AOの10号」は韓国の潜水艦なのだが、艦長が「キム」、副長が「デジュン」…その何も考えてなさ、「とりあえず名前つけといた感」に吹いた。